カルテット結成
朝食を終えると、シェリアは屋敷を出て行ってしまった。
本人曰く、戦いのための準備をしてくるんだとか。
ヒノキは朝食に使った食器を洗うために台所に行っている。
ダイニングルームにはレイジとエシュロウだけが残されていた。
「すまなかったな。クロガネ」
「え?」
エシュロウに謝られるいわれはない。自分がどうして謝られているのかわからず、逆に問いかける。
「なんで謝るんだ?」
「俺は、貴公の意思を無視した提案をしていたのかもしれない。そう思ってな」
「俺はそう思っていない。エシュロウだって、俺のことを考えて提案してくれたんだろ? それは十分伝わったよ」
「そういってくれると助かる。ところで、貴公に……いや、もう貴公と呼ぶべきではないな。友人として、もう少し軽く接しても構わないか?」
「もちろん」
エシュロウは爽やかに笑う。その笑みが心から喜んでのことなのは顔を見ればわかる。
「では、クロガネ。お前に渡したいものがある。少し待っていてくれないか?」
「ああ」
エシュロウは席を立ち退室していった。
その後姿さえ、惚れ惚れするほどの男らしさを携えて。
――俺も……あんな風になれればな。
エシュロウを格好良く思う。そして素直に男らしさを持っていると思う。
戦う力の有無についてはまだわからないが、恐らくレイジが戦いを挑んでも返り討ちに合う可能性がある。
いや、それ以上にエシュロウには今のレイジには存在しない、確かな自分と言うものがある。
確固たる意思、強い精神力。そういうものを今の自分は持ち合わせていない。
――だったら……俺は今こんなことをしている場合か?
何かするべきだと思う。でも何をすればいい?
とりあえず体でも鍛えてみるべきだろうか? 腕立て、腹筋、懸垂、木刀で素振り……色々考えられるわけだが。
「あれ? エシュロウさんがいない」
その声はヒノキのものだ。食器を洗い終えたのだろう。エプロンで手を軽く拭いている。
「なんか、渡したいものがあるからって部屋に行ったよ」
「あ、そうなんですね……」
「ヒノキ、聞きたいことがあるんだけど、少し時間いいかな?」
彼女はレイジが封印されていた屋敷とやらを知っている。
少しでも話を聞いて、自分に出来ることを、選択肢を増やさなければならない。
「はい、いいですよ」
いいながらレイジの向かい側の席に腰を下ろす。
「俺が封印されていた屋敷ってのは、どういうところなんだ?」
「あ……」
ヒノキが真顔になる。恐らく自分自身も。
「そういえば、ちゃんと話してませんでしたね」
「教えてもらえるかな?」
「断る理由なんて、ありません」
そのとき、ダイニングルームの扉が開いた
「俺も混ぜてもらおう」
扉を開けて現れたのは、エシュロウだった。腰に刺していた刀が一本増えているのは多分気のせいではない。
「情報は共有しておくべきだと思うからな」
「それじゃあ、皆の衆! 戦いの準備は出来たわね!」
その後、なにやら色々買い込んできたシェリアが加わり、早々に向かうことになった。
レイジが封印されていたという、謎の古い屋敷へ。
「エシュロウ、準備は出来ています」
「私も、戦えます」
エシュロウとヒノキは頷いた。
「一応俺も……戦えます」
レイジの腰には刀が一本さしてある。それは、エシュロウが持っていた刀だ。
『万が一、お前が戦う必要に迫られたら、遠慮なく使え。素人だろうが何だろうが、武器がないよりはマシだ』
とてもありがたいことではあるが、果たして自分に刀というものが使いこなせるのか。不安は尽きない。
「クロガネ君は、ヒノキちゃんとエシュロウに守ってもらうことを考えなさい。道は私が開くわ!」
ヒノキの白い修道服には対魔術用繊維が編みこまれている。同時に自らの肉体に存在する魔力をある程度蓄える機能があり、戦いにおいて攻防一体の武器になっている。
エシュロウの刀は物理的な戦いにおいてはもちろんのこと、刀自体も魔術の媒体として機能するらしい。
謎なのは、この人の戦闘能力だ。一応帯剣ベルトで刀剣らしきものを腰に差している。他にも何が入っているのかよくわからない箱がいくつも腰についてる。
「戦えるときは戦いますよ」
「無理はしちゃだめよ。戦いにおいて重要なのは生き残ることなのだから」
確かに死んでしまっては元も子もないのはわかる。
「じゃあ、ヒノキちゃん。案内して頂戴」
「はい」
――それにしても妙な四人組だよな。




