第8話 「邂逅」
彼女は二度、目を細めた。
放課後、トムニカの銅像の前で四人の生徒が集まっていた。
最初にそこに居たのはユクール。
そして合流したのがミラ、それに続いてクノ。
それだけなら、何となく理由もわかっただろう。
しかし解せないのは、その後ろに生徒会長であるイズが続いた事だ。
「いや、何か・・・・・・すまん。」
「・・・・・・。」
ユクール自身も何と返していいのかわからず、押し黙る。
その沈黙を破ったのはイズだった。
「噂の真相を確かめに行ったら、何だか急いでたみたいで。
理由を聞いたら、じゃあ私も、って。」
緊張感の欠けたトーンで話すイズに、頭の上のハテナが消えないユクール。
そして、それはミラとクノにとっても同じだった。
「とりあえず、練習場を確保しましょうか。」
そう言うと、手元の機器をいじる生徒会長。
主導権は完全に彼女にあった。
聞くところによると、会長は未だに訓練場へ行った事がないらしい。
なんでも、親しい友達は既にレベル3まではパス済みで、
ポツリと一人残された形だ。
一度そのレベルをパスした者は、再びそのレベルを受ける事は出来ない。
別に会長に信頼できる仲間が居ないとかではなく、
彼女自体、今まで乗り気ではなかった、という事もあるようだ。
「しかし・・・・・・どうして今になって受けようと?」
ミラの素朴な疑問に会長はこう返した。
「気分・・・・・・かな。女心と秋の空ってね。
それに、貴方たちは三人で挑むつもりだったのでしょう?
一枠空いてるし、私、足を引っ張らないと思うけど?」
そりゃ、実力で言えばありがたい事この上ない。
ただ、今は驚きの方が勝っているだけだ。
「・・・・・・本気、というのなら、とても心強いです。」
さっきまで、まるで心を見せなかったユクールが、
ようやく肯定的な台詞を発してくれた。
「ただ・・・・・・クノさんの方は、どうなのかな・・・・・・。」
そして、やんわりとした否定的な台詞。
そこに割って入ったのは会長だった。
「ユクールさん、パーティとは支え合うものですよ。」
その台詞にハッとなり、バツが悪そうに目をそらすユクール。
「私、頑張りますから!」
クノの一撃も加わり、勝敗は決した。
「まぁ、ひとまずはレベル1で様子見だな。」
ミラがそう言う頃には、目的の練習場所に到着していた。
会長が用意した練習場は、実戦の試験で使用したものに近い。
天井が無いという点以外では、ほぼ同じと見ていいだろう。
「ごめんね、最初にみんなの戦闘スタイルを教えてもらえる?
ちなみに私は〝魔法〟と〝召喚術〟よ。」
〝召喚術〟とは魔法系最難度の術の一つ。
召喚獣と呼ばれる存在を光臨させて、敵と戦わせる類の術だ。
(やはり、姉と同じ武闘家ではなかったか・・・・・・。
確かにユズと違って荒々しいところが無いもんな。)
ミラは、うんうんと、二度うなずいた。
「私はヒーラーです。他はダメダメでしたが、
魔化の適正はB判定をもらっています・・・・・・!」
胸元で拳を握り、力強く言い放つクノ。
「俺は・・・・・・魔法の方は全くです。
一応、物理戦闘であれば、そこそこ戦えると思います。」
・・・・・・何やら会長がニヤニヤしている。
やはりあの噂の事が気になっているのだろう。
「・・・・・・私は〝忍術〟です。
実家が道場で、去年までそこで鍛錬を積んでいました。
近接戦闘とあと、少し違いますが、魔法のような攻撃も使えます。」
(忍術か・・・・・・近しい人間には、
使い手が居なかったから、興味が湧くな。)
ミラが横目でユクールを見る。
「私が魔法で、クノさんがヒーラー。
ミラ君が物理、ユクールさんが忍術ね。
うーん・・・・・・良いじゃない、バランスが取れてる!」
大げさに手を合わせ、喜ぶ会長。
(肉体が若いせいか、だんだんと本当に年上に見えてきたな。)
「そういえば・・・・・・どうやって練習するのでしょう?
相手がいると仮定して、存在しない敵を攻撃するんですか?」
クノが頭を傾ける。
「ふ、ふ、ふ・・・・・・。
私だって何のプランもなしにここへ来たんじゃないのよ?」
「・・・・・・生徒会長さん?」
「クノさん、私は魔法を使えると言ったわ。
そして、もう一つ・・・・・・。」
「・・・・・・っ!召喚術・・・・・・!?」
「ふふ、せいかーい。」
そう言うと会長は詠唱を始めた。
「召喚って、召喚獣と戦うって事か・・・・・・?」
「そうみたい・・・・・・まぁ、ランクの高い召喚獣は、
呼び出さないとは思うけど・・・・・・。」
ミラの疑問に、少し不安そうにユクールが答えた。
まばゆい光が放たれた後。
果たして、そこに現れたのは大地の巨人〝タイタン〟であった。
「げ・・・・・・っ!」「・・・・・・!?」「・・・・・・。」
思わず声を上げたミラ。息を飲んだユクール。目が点になったクノ。
「私たちを敵と認識するように召喚したわ・・・・・・。
活動時間はせいぜい三十秒だから、危なくなったら逃げてね?」
テヘ、と笑顔を向ける会長。
・・・・・・こうして地獄の特訓は始まった。