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十剣の魔導師  作者: 名瀬
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第5話 「噂」

この学校は、一般的な高校と比べて、明らかに敷地面積が広い。

例えるならば、大学規模と言えよう。

各所に実戦用の体育館や広場があったり、様々な研究施設なども抱えている。


戦うというのは、精神的なダメージも大きいものだ。

特に〝本当の〟実戦参加を体験した生徒などは、よく理解している事だろう。

(実戦に参加するには、訓練場にてレベル4以上の成績を出さなければならない。)

だからなのか、リラクゼーション施設なども、多数見受けられる。

ここ、ファーストカフェも、その一つと言えよう。


彼ら四人は一時限目の体育以来、すっかり一つのグループと化していた。

「ねぇ、ここって一番最初に出来たカフェだから、〝ファーストカフェ〟って言うらしいよ。」

まんまだね、と笑うリオン。

それを隣で笑うクノ、対面にミラ、ゼファー。

幸いにもこのカフェの席が空いていたのは、上級生が新しいカフェに目移りしたからに過ぎない。

(現在はフィフスカフェが人気のようだ。)


現在は四時限目までが終わって昼休み。

メニューにラーメン、カレーライス、牛丼まで揃っているのには首をかしげたが、

(外観からして、コーヒーしか置いてないようなイメージだった。)

「人気商売だからねぇ」と店員のおばちゃんの放った台詞に、なるほどと思わされた。

一番歴史のあるカフェでも、競争社会の中での挑戦は必要なようだ。


「せっかくなので」と前置きしたリオンはカレーライスを頼んだ。

続いてクノ、ミラ、ゼファーの口からは、ごくごく普通のカフェメニューが注文された。

リオンは一人、頬を膨らませていた。

挿絵(By みてみん)

カフェの外観に不釣合いなゴハンモノを口に運ぶリオンを尻目に、

クノによる今日何度目かの〝トムニカ講座〟が披露されていた。

それを真面目に聞いていたのは、とうとうゼファー一人だけとなったが、

クノに気付いた様子はなかった。

ミラも何となくは相槌を打っている。

リオンに至っては、視線すら向けていない。


「彼より・・・・・・私は〝勇者〟の話の方が興味があるかなぁ。」

視線を戻すと彼女は、カレーのついたスプーンをナメながら言った。

「勇者様というと、ロード様のこと?」

「うんうん、そうそう。」

本当に興味があるのかは怪しいが、ゼファーは助かったという顔をしている。

そしてミラは、なんとか平静を保っていた。


「ロード様も素敵よ。私、トムニカ様と同じくらい尊敬してる。」

「うん、私も尊敬してる。」

あえて兄であるレオンの名前を出さないのは、相手に気を遣わせるからなのか。

とは言っても、勇者パーティの三人が死んだという事は、まだ報道されてはいない。

親族ならば知っていてもおかしくはないが、出会ったばかりの相手に振る話題でもなかった。


「そう、尊敬してたんだ・・・・・・。」

突然、アンニュイな顔をするリオン。

その発言に〝彼の死〟が含まれていた事は、この場所でミラだけがわかった。

彼女がクノのトムニカ話に付き合わないのも、複雑な気持ちがあるからかもしれない。

そう考えて彼が意識を戻すと、突然目が合った。

否、見つめられていた。

熱っぽさはない。

まるで・・・・・・何かを探っているような視線だ。


「どうした、リオン?」

ミラが問いかけると、彼女はハッとした。

おそらく無意識だったのだろう。

「な、何でもないよ。・・・・・・うん、何でもない。」

そこそこ膨らんだ胸の前で可愛らしく両手を振る。


ミラは、自分の実戦試験の時にリオンを見つけていた。

(・・・・・・見られていたのか。)

頭の中で関連付け、リオンに対してより注意を払う事にした。

知られたからと言って、どうという訳でもないのだが。

今はまだ知られる訳にはいかない。

クノとゼファーは、ただただキョトンとした顔を浮かべていた。


人の口に戸は立てられない。

ミラの実戦結果は知る者から知らぬ者へ伝わり、

知らぬ者から知らぬ者へと伝わり。

あっという間に魔法クラスのみならず、戦士クラスにまでその噂は拡がった。

少しばかりの尾ひれはひれを付けて。


当然、その噂が気に食わないという者も出てくる。

〝魔法クラスの一年が現役の軍人を次々となぎ倒した〟など。

所詮噂に過ぎないし、信じるに値しない。

だけれど、気にはなる。

そんな様々な思いが交錯する中、一人の少女が突然立ち上がった。


「・・・・・・。」

少女は言葉を発しなかったが、周りの生徒がざわついた。

「ユ、ユクールさん、どこへ・・・・・・?」

勇気を出して声を掛けた男子生徒に、少ない言葉で答える。

「魔法Cクラス。」


戦士〝A〟クラス、一年主席。

成績はオールA。

無表情、無感情、何事もそつなくこなす。

(決して感情がない訳ではなく、客観的に見て、感情に乏しい。)

中性的なルックスだが、胸には確かな膨らみ。

男子生徒で溢れるこのクラスではマドンナ的存在だ。


そそくさと教室を出る彼女の後ろでは、

マドンナの気を引いた事により、更なる噂批判が飛び交った。

(完全なとばっちりである。)

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