第4話 「ブルマー」
トムニカ戦士育成学校は〝戦士クラス〟と〝魔法使いクラス〟の二学科から成る。
〝戦士クラス〟は物理を主体とした学科。
主に〝武闘〟〝剣技〟〝MP消費による肉体強化・弱体化〟などを学ぶ。
選択科目の中には〝弓〟〝銃〟〝忍術〟などがある。
〝魔法使いクラス〟は魔法を主体とした学科。
主に〝攻撃魔法〟〝防御魔法〟〝回復魔法〟〝強化・弱体魔法〟を学ぶ。
選択科目の中には〝諜報術〟〝科学治療学〟〝召喚術〟などがある。
そしてどちらにも共通する科目がまた幾つかある。
その中の一つが〝基礎体力強化〟・・・・・・つまりは体育だ。
Cクラスなのだから、まずは体力だけでも付けておけ、
というのは彼の被害妄想に過ぎないのだが、何はともあれ、
魔法Cクラス最初の授業は体育だった。
魔法というのは〝肉体的な能力差を補うためのもの〟という俗説がある通り、
女性の方が得意としている場合が多い。
(基本的に男性が前衛好きで、女性が前衛を好まない、という背景もある。)
故に、当然の結果として、魔法クラスには女子の方が多い。
そして更には、男女の比率など度外視の実力主義によるクラス分け。
その結果・・・・・・体育は男女別、という他学校での常識が、
ここでは当てはまらなかった。
それが俺の隣にクノが居る一つの理由、である事は確かだ。
そして、もう一つの理由が、これだ。
「へぇ・・・・・・ミラ君、トムニカ様のこと、よく知っているのね。」
彼女が盲目的なトムニカのファンだったという事。
「ああ、まぁな。」
そして、彼がその会話を膨らませてしまった事が、要因だ。
知ってるも何も、というのが彼の本音ではあるが、
仲間だった人間を褒めてくれるというのは、存外、悪い気もしない。
〝様〟付けは少し大げさ過ぎる気もするが、
〝高校一年生〟と〝最前線で死線を潜り抜ける勇者パーティ〟とでは、
やはりそれほどに距離があるのかもしれない。
そんな考えを浮かべつつ、横目で女生徒の体操着姿を捉えつつ。
(・・・・・・ブルマーはやはり、廃れていいものじゃない。)
どこかの団体がブルマー廃止運動をしていたのを思い出した。
そう、彼もなかなかに〝男の子〟ではあるのだ。
「はぁ・・・・・・こんなに私の話を聞いてくれる人・・・・・・ううん、
会話のキャッチボールが出来る人、私初めてかもしれない・・・・・・。」
恍惚の表情を浮かべるクノに、内心引き気味ではあったミラも、
こういう普通の学生生活には少し憧れがあった。
悔しいと思いつつ、父親設定である闇医者に心の中で感謝を述べた。
・・・・・・それはそうと。
体育では今、三キロマラソンが行われている。
半数が走り、半数が記録を測る。
ミラとクノは大きな魔法タイム計測器を眺めながら、相方のゴールを待つ。
(相方というのは、教師の独断により適当に組まされた相手。)
すると、ミラの相方が独走の一着でフィニッシュした。
「・・・・・・何分だ?」
そう息を切らしながら問いかけてきたのは、ここでは珍しい男子生徒だった。
彼の名前はゼファー。
どう考えても前衛だろう、と誰しもが思うその体格は、
小柄なミラに対して、脚色なく、二回りは違う大きさだ。
それでも余り圧迫感を感じさせないのは、その優しそうな人相にあるだろう。
ミラは記入欄に彼のタイムを記し、何となくその三人で、クノの相方を待つ。
「ぐはー、五位ー・・・・・・。」
ゴール地点を過ぎ、フラフラとこちら側にやってきたのはクノの相方。
地面にへたり込むのは良いが、目の前でブルマーの食い込みを直すのは止めてほしい。
非常に目の毒だ。
・・・・・・彼女の名前はリオン。
ガンナーだと言う彼女が何故魔法クラスに居るのか、
ミラはそれを少しも不思議だとは思わなかった。
そう、彼女はレオンの妹だ。
レオンは魔力を込めた銃撃で標的を射抜く。
彼女もおそらくそうなんだろうと、ミラは予測していた。
「うげ、三分も差があるの・・・・・・ゼファー君って何者・・・・・・?」
「・・・・・・魔法禁止の上では、男の方が体力的に有利だ。」
本気で悔しそうなリオンに対し、元も子もない事を言うゼファー。
その光景を見て、声を出さずに笑うクノ、そしてミラ。
落ちこぼれクラスになり、多少気持ちが沈んでいた彼も、
この空気感は悪くないなと、改めて闇医者に感謝した。
・・・・・・ただ、懸念はある。
現在、彼の正体を知っている者はカガミとトミー校長だけ。
しかしながら、
トムニカを盲信するクノ。
レオンの妹で過去に面識のあったリオン。
そして、ユズの妹で生徒会長のイズ。
どこかでボロを出してしまうかもしれない・・・・・・。
そんな一抹の不安を、彼は抱えていた。