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十剣の魔導師  作者: 名瀬
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第3話 「物理特化の魔法使い」

実戦は文字通り、一瞬で終わった。

試合を横目で見ていた者には、何が起こったのかもわからないだろう。

辺りが静まり返っている。


・・・・・・無論、勝ったのはミラだった。

それも魔法ではない・・・・・・〝拳一つ〟で、現役の軍人をマットに沈めたのだ。

リオンは見間違いだと思った。

思わず、瞬きを数度繰り返す。

結果は変わらず、そこに立っているのは、ひ弱そうな男子生徒だった。


(構え、そして、今の動き・・・・・・もしかして・・・・・・。)

そこまで考えて、リオンは首を横に振った。

ある訳がない。

勇者ロードは死んでしまった、それは揺らがない事実。

いかに彼が勇者と同じ技を使おうと、本人である筈がない。

ただ、別人だろうが何だろうが、彼が強い事もまた事実。

・・・・・・戦闘を見ていた者は十名にも満たない。

(この場に三十名はいたが、試合をしっかりとは見ていなかった。)

その中の一人、リオンは彼に強い興味を持った。


一方、ミラは何故だか表情が優れない。

軍人を倒して判定を貰った後も、しきりに自身の拳を見つめている。

(・・・・・・やはり、この身体では・・・・・・。)

それがミラ・・・・・・勇者ロードの感想だった。

〝転生後も能力は引き継がれる〟・・・・・・それはとても喜ばしい事だ。

だが実際は、身体が思うようについていかない。

また鍛え直さないとな・・・・・・彼はそう強く思った。


試験結果は当日の内に発表される。

ただ、その発表まで二時間も暇を持て余してしまう事になった。

全員の適正試験を終えるまでに一時間半。

結果を集計するのに三十分。

生徒一人が試験を終える度に番付を組み替えるのだから、その早さも頷けるが、

待つ、という意味では長すぎる時間だ。

フラフラと敷地内を歩いてると、トムニカの銅像の前に行き着いた。


「うわぁ・・・・・・。」

(似てない・・・・・・)と声に出すのはやめておいた。

こういうモノは少し夢を与える程度で構わないのだ。

本人が結構弱々しい態度の人間である事を、わざわざ知らせる事もあるまい。

そうニヤついていると、更に向こうに、もう一つの銅像が建っていた。

「・・・・・・。」

ミラはかぶりを振り、すぐにその場から立ち去った。

(・・・・・・俺はあんなにゴツくない・・・・・・。)


時間を持て余してるのは、他の生徒も同様だ。

大半が集団の中で独りだったり、中にはさっそく友達を作っている生徒もいる。

彼としては、別に友達を作る事を望んではいない。

無論、望まれれば、友達になることも、やぶさかではないが。

そんなミラの考えを知ってか知らずか、一人の生徒が話し掛けてきた。


「・・・・・・お疲れ様。適正試験、どうだった?」

「・・・・・・まぁ、駄目でしたね。」

「そっかぁ・・・・・・それは残念だなぁ。」

挿絵(By みてみん)

少しも残念そうには見えない顔で、彼女は口元に人差し指を置く。

「まぁでも、成績が悪かったとしても、退学になる訳でもないしね。

それに、これから勉強して行けばいいんじゃないかな。」

今度は芝居がかった動きで、ミラの肩をポンポンと叩く。

「私、イズ。生徒会長のイズよ。何か困った事があったら、

気軽に話し掛けてくれていいからね。」

「じゃあね」と屈託のない笑顔を浮かべると、彼女は他の生徒の元へと足を運んだ。

どうやら一年生全員に声を掛けているらしい。

生徒会長というものは大変だな。


しかし、だいぶ印象が変わった・・・・・・ミラはそう感じた。

今は彼が後輩だからだろう、彼女はもっと内気だったはずだ。

姉の後ろで隠れていたのは、もう三年は前になるだろうか。

懐かしい記憶を浅く辿る。


・・・・・・そう言えば彼女の姉は今頃どうしてるのだろう。

ミラの頭に、ふとユズの存在が思い浮かぶ。


「転生の事は、出来れば誰にも言わない方がいいねぇ・・・・・・。」

「黒幕に勘付かれるから、か・・・・・・?」

「それもあるけど、別人として振舞っていた方が、

ロード君も何かと楽なんじゃないかい?」

「そうだな・・・・・・だが、ユズには伝えておきたい。」

「彼女は今、戦場にいるよ。大きな戦争の真っ只中みたいだから、

しばらくは伝えられそうにないねぇ・・・・・・。」


(しかし、この姿を見て、俺だと気付いてもらえるのだろうか?)

カガミとの会話を思い出しながら、再び、当てもなく歩き出す。

すると、試験会場の方から、小さなどよめきが聞こえた。

事件が起きた訳ではない。

十中八九、才能を持った者が現れたのだろう。

ミラは実戦会場で退屈しのぎをする事に決めた。


・・・・・・そして、試験結果が出た。

(受験前に居た教室に戻り、魔法クラスの生徒が再び全員集まった所で、結果が配られる。)

悪い予感というものは当たるもので、まぁ仕方もないなと、ミラは思った。

魔法クラス受験者150名中、150位。

文句なしのぶっちぎり、Cクラスである。

MPはあれど、魔法技能が全てE判定。

最後の実戦に関してのコメントも書いてある。


「一年生が現役の軍人を倒したのは、学校建設以来初めての事です。

ただ、倒した手段が〝戦士技能のみ〟だったという事。

よって、〝魔法使い〟としては加点されません。

今後の君の活躍に期待しています。

トムニカ戦士育成学校 校長 トミー」


・・・・・・これは手厳しい。

思わずジト目になっていると、隣から声を掛けられた。


「あの・・・・・・私もCクラスみたい・・・・・・えへへ・・・・・・。」

盗み見るとは趣味が悪いなと思ったが、

どうやら結果内容を声に出してしまっていたらしい。

「私、クノって言うの。ヒーラーを目指してる。よろしく・・・・・・ね・・・・・・?」

相手の反応を探っているのだろう、たどたどしく言葉を紡ぐ。

「・・・・・・俺はミラ。こちらこそよろしく。」

そう答えると、女生徒は年相応の笑顔を見せてきた。

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