第2話 「適正試験」
人々は成長期に、自分の〝戦士〟〝魔法使い〟の適正を測る。
それは定期考査に似た、春に行われる定例行事で知る事が出来る。
いちばん最初は小学4年生の時。
そしてそれは毎年続き、中学3年生までは、割と安全な行事として行われる。
高校生になってからは、進む進路によって、危険度の高いものとなる。
ここ〝トムニカ戦士育成学校〟は、その危険度が最上位と言われている。
「どうやら君の身体は、魔法の方に適正があるらしいねぇ。」
そのつぶやきから一週間。
闇医者はどういう訳か、彼を高校へと入学させた。
金銭面で言えば、問題は無い。
元々勇者だった彼は、相当のお金持ちと言って良いほどに稼いでいた。
年齢的にも、まぁ問題は無いだろう。
どこからどう見ても高校一年生。下手をすれば、もう少し幼く見えるかもしれない。
では、戸籍上の問題はどうだろうか。
(おそらくは)ユニークスキルで転生、そして、この身体で過ごした過去を持たない少年。
(正確には十日ほど過ごしてはいるが。)
前例がない。
・・・・・・許されるはずもない。
ロードはそう思ったし、入学するつもりもなかった。
彼に出会うまでは・・・・・・。
「久しぶりだな、ロー・・・・・・いや、ミラ君。」
その男は、トムニカ戦士育成学校の校長。
名前はトミー。
そう・・・・・・彼はトムニカの父親だった。
「お久しぶりです、トミーさん。」
ちなみに〝ミラ〟という名前は、カガミが勝手に付けた俺の名だ。
そして何故か、父親がカガミという設定になっている。
「安心してほしい、君の存在を口外するつもりはない。
存分に高校生活を楽しんでいってくれ。」
「はい、ありがとうございます・・・・・・。」
つい、声のトーンが暗いものになってしまった。
「・・・・・・仕方がない事だと思っているよ。君は悪くない。」
「・・・・・・すみません・・・・・・ありがとうございます。」
言わずもがな、トムニカが死んだことについてだ。
「戦士というものは、常に死と隣合わせだ。
こんな学校を運営しているんだ、重々わかっているつもりだよ。」
トムニカは稼いだお金で学校を建てた。
しかし最前線で戦う彼が、教師として働く訳にもいかず、
他所で校長をしていた父に相談したのだ。
予鈴が鳴る。
お互いに軽く会釈をし、ロード・・・・・・いや、ミラはとある場所へと向かう。
正式にクラス分けがされている訳ではない。
今はまだ、〝戦士クラス〟〝魔法使いクラス〟でザックリ二つに分けられているだけ。
今は、というのは、これからそのクラス分けが実行されるからだ。
定例行事、〝適正試験〟によって。
トムニカの父の登場によって、すっかり反感の色を無くしたミラは、
魔法クラスの適正試験を受けていた。
魔法使いの適正試験は五つ。順番に、
魔球・・・・・・指定された箇所に魔力の球をぶつける、威力制御、コントロールの試験。
魔化・・・・・・自分に計測器を付け、回復、強化、弱体化の適正を測る。
魔撃・・・・・・魔力吸収装置に最大出力の魔法攻撃を加える、瞬間攻撃力の測定。
魔底・・・・・・特殊な机に手を置き、魔力を注ぎ込む、MP上限の測定。
(上三つの試験のMP消費分も、魔底のポイントに追加される。)
そして、この学校が危険度最上位と言われる所以の試験。
実戦・・・・・・この日のために呼ばれた現役の軍人を相手に戦う。
(魔底後、MPは全回復してもらえる。)
試験は複数の生徒が一斉に行うので、能力が突出でもしていない限り、
他の生徒に注目されるという事もない。
それは彼も同じだった。
良いS、A~E悪い、という判定の中。
ミラの試験は、
魔球E、魔化E、魔撃E、魔底Sという結果だった。
「・・・・・・くそぅ、この俺が・・・・・・!」
魔底(MP)とは魔力の貯蔵量を示す。(魔法を使うにあたり、魔力は必要不可欠。)
これは生まれつきの才能によるところが強いため、恵まれてはいるのだが。
「肝心の魔法が使えなきゃ、宝の持ち腐れだ・・・・・・。」
ミラは不甲斐ない自分に落胆した。
ただ、ミラがこの身体になってからまだ十日ほど。
魔法が上手く使えなくて当然といえば当然なのだが・・・・・・元は物理最強の勇者。
落ち込む気持ちもわからなくはない。
(このままではCクラス確定だ・・・・・・カガミにバカにされる・・・・・・。)
適正試験の結果によって、
優秀なAクラス、平凡なBクラス、落ちこぼれのCクラスと、クラス分けがされる。
それは〝戦士クラス〟でも同じだ。
そして、やってきた〝実戦〟の試験。
ずらっと並ぶ待機中の軍人と、試験が終わったのか、物見にきている生徒がちらほら。
高校一年生なんだ、現役の軍人に負けて当然。
事実として、学校が建設されて以来、軍人を負かした一年生は一人もいない。
(三年生にもなると、ちらほらといるようだが。)
ミラの出番になり、体育館ほどの、少々大きめの会場で戦闘の構えに入る。
「・・・・・・ヒーローごっこのつもりかしら・・・・・・。」
ミラの構えを見て、誰かがつぶやいた。
彼の実戦を見た者にしかわからない、勇者の構え。
それを見抜いたのは〝リオン〟という女子生徒だった。
最近では魔法ネットなるもので、勇者の過去の戦いを見る事は可能だし、
彼女も大して驚きはしなかった。
そう、彼が一撃で軍人を戦闘不能に追い込むまでは。