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十剣の魔導師  作者: 名瀬
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第1話 「勇者転生」

目が覚めると〝彼〟は、見知った部屋で仰向けになっていた。

ここはどこで、自分は何者・・・・・・などというお約束を口にする事もなかった。


この場所は〝カガミ研究施設〟で、〝彼ら〟はよくここで治療を受けていた。

そして、〝彼〟をモニターしていたのだろう。

一人の男が自動扉から現れ、彼の傍までやってきた。


「いやぁ、これは驚いたねぇ・・・・・・。」

全く驚いた表情に見えない研究員は、〝彼〟の担当医であり、馴染みのある人物だ。

「カガミ・・・・・・か・・・・・・。」

「うんうん、その反応・・・・・・やはり、君はロード君なんだねぇ。」

十分に頭が回らない〝彼〟ロードでも、その発言に得も言われぬ違和感を覚えた。

「・・・・・・どういう意味だ?」

それほどまでに顔の損傷が激しいのか、彼は小首をかしげた。

「まぁ、順を追って説明するから。ああ、寝たままでいいよ。」

身体を起こそうとする彼を手で制し、カガミはいつもの椅子へ腰を下ろした。


宿で休めば傷も毒も全てが治る・・・・・・というほど、世界は甘くなく、

魔法やアイテムで治せない症状は、彼らのような〝治療師〟に任せる。

もっとも、彼は正規の治療師ではないため、自分でも〝闇医者〟と名乗っている。

彼らは魔法に加え、科学の力によって、戦士を治療する。

(ただ、魔法に頼るこの魔法世界では、それほど科学は発達していない。)


「君をここまで運んできたのはユズ君だ。」

その発言を聞き、ロードは気を失う前の戦場を思い出した。

「・・・・・・という事は、彼女は無事・・・・・・なのか・・・・・・。」

質問ではなく、確認といった彼の言葉に、カガミは肯定する。

「ただし、もうここには居ない。いやまぁ、先週までは居たんだがねぇ・・・・・・。」

意味深に言葉を続ける闇医者の声に、冷静に耳を傾ける。

生きているなら良し、事件に巻き込まれた、というトーンでもない。

「何しろ、君が死んでしまったからねぇ・・・・・・。」

少し安心した・・・・・・ところに、闇医者がとんでもない発言をした。

一瞬・・・・・・いや、たっぷりと五秒、ロードは言葉を失った。


「俺が・・・・・・死んだ・・・・・・?」

訳がわからないといった表情のロードと、まったく同じ表情を返すカガミ。

俺は生きてる。今確かに話をしている。

・・・・・・ならば何故、彼は〝死んだ〟などと言うのだろうか?

常に冷静を心掛けているロードも、さすがに今回ばかりは取り乱している。


「まぁ、あれだ・・・・・・見てもらった方が早いかなぁ・・・・・・。」

相変わらずマイペースな声で、差し出された鏡。

何を見るんだ?などと疑問が浮かんだが、とりあえず覗き込むことにした。


・・・・・・果たして、そこに映り込む姿は、彼の予想したモノではなかった。

挿絵(By みてみん)

「・・・・・・誰・・・・・・だ・・・・・・?」

彼がなんとか搾り出した言葉は、記憶喪失によるものではない。

元は漆黒の髪に、血液のように赤い瞳。

それが、金色の髪、青色の瞳に変化し、そしてその姿はとても幼いものに見えた。

顔だけではない、鏡を持つ手から、全身の筋肉、いや、身長体重の段階から、

全く異なったものとなっていた。

当然として、体中にあった傷跡も見当たらない。

思えば・・・・・・声だってまったく違うものになっている。


「・・・・・・人間誰しもに〝特別な力〟が宿る・・・・・・。」

その様子を見て、闇医者は一見、関係のない事をつぶやき始めた。

「それは、戦乱の世で人間が生き抜いていく術として、天から授かったモノ。」

それは、この世界の常識であり、今更言うまでもないこと。

「特別な力とは、〝戦うための力〟〝守るための力〟はたまた〝無駄な力〟まで。」

だから、彼が何故こんな事を言い始めたのかが謎だった。


「そして、ロード君。君にはその力が備わらなかったと聞く。」

・・・・・・そうだ。

それは自然と身につき、それは自分だけのものと自覚できると聞く。

だがしかし、彼にはそんな現象は起きなかった。

成長期に手に入れるであろう能力を、彼は有していなかったのだ。


「・・・・・・〝それ〟、なのではないかねぇ・・・・・・?」

「え・・・・・・?」

何に対して〝それ〟と言ったのか、ロードはわからなかった。

いや・・・・・・理解の外側にあるものを、理解しようとしなかったのだ。


「〝転生〟・・・・・・それが君のユニークスキルではないのかねぇ。」

そして彼は、更に言葉を失った。

「君は確かに死んだ。それは私だけではない・・・・・・ユズ君も見届けた。

見届けたからこそ、君の形見として〝十剣じゅっけん〟を彼女は持っていったのだ。

そして君は・・・・・・死んだ時と同じ場所で息を吹き返した。光に覆われて、姿を変えて。

君が本当にロード君だと言うのなら、〝転生〟したとみて、間違いはあるまいなぁ・・・・・・。」

「・・・・・・てん、せい・・・・・・。」


ふと身体に目をやる。

それは今まで使っていた自分の身体とは違い、とても華奢な少年のモノであった。

それに、上手く力が入らない。

「・・・・・・少し、整理させてくれ・・・・・・。」

そう闇医者に言い放った言葉は、この場所には似つかわしくない、少し幼い声だった。

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