恐怖の女体化劇場 その1 書き間違い
書き間違いには注意しましょう。
注:結末はアホです。
目の前に紙がある。
「成りたい職業を書くとなれる」とある。
ふむ、職業ねえ。というかこれは何なのか。ふらっと入ったショッピングモールの休憩コーナーにどうしてこんな小学生の道徳の時間のアンケートみたいな紙が置いてあるのか。
おあつらえ向きにペンまで一緒においてある。
ヒマだし、落書きしてみよう。
そうだなあ…なりたいものか…。
おいらジェットコースター好きだし、映画みたいに飛び回りたい。
「スパイダーマン」と書いてみた。
特に何も起こらない。そりゃそうだ。
適当にアニメや漫画の主人公の名前を書いてみた。単に落書きが増えて行くだけだった。
職業…職業かあ…宇宙飛行士とか消防士、軍人とか書けばなれるのかね。
そうだなあ、映画スターとか…どうせならなるべく突拍子もないものになる妄想とかしたいねえ。
スパイなんかどうだろう。
多分現実のスパイ活動なんて地味~な事務職とかそんなんだろう。ジェームス・ボンドみたいに美女をはべらせて大立ち回り…何てことがある訳が無い。
しかしまあ、どうせ妄想ならスパイなんて面白い。
CIAって確かアメリカのスパイ組織だよなあ。何やってるところか分からんけど、多分映画のトム・クルーズみたいに過激なスパイ戦をやってるんじゃないかな。
「職業」ってことになるのかな?と思いつつ「CIA」と紙に書きこんでみた。
次の瞬間だった。
「…何だ…?」
全身に違和感を感じる。というか明らかにおかしい。
「あああっ!」
髪の毛がわさわさと伸びてきている!
目の前に翳した手が、細く長く美しく変貌していくではないか。
「な…何が…」
思わず立ち上がってしまう。ガニ股だった脚がぐぐぐ…と内側に曲がって行き、内股になる。
身長がぐいぐいと伸びて行き、全身がほっそりとスリムになる。
「起こってる…んだ!?」
むくむくっ!とお尻が膨らんだ。
「ああああああっ!」
胸に違和感を感じる。次の瞬間には乳房が服の下から押し上げられていた。
「そ、そんな…っ!?」
声まで甲高くなっている。疑いようが無かった。全身が女性に性転換していたのだ!
変化は終わらなかった。
横隔膜の上あたり、アンダーバストが締め上げられた。
「はぁっ!」
両肩にひも状のものが軽く食い込み、生まれたばかりの乳房を何かの生地がホールドした。
「うわああっ!」
内側は何とも柔らかい生地で構成されており、すぐに馴染んで人肌の温かさとなった。
脳内で言葉にするのも憚られたが…こ、これは…ブラジャー!?
ガラパンが変形して乙女の柔肌にフィットするパンティとなる。
「ひいっ!」
髪の毛が生き物のように畝って勝手に頭上にまとまって行く。うなじが露になった。
シャツのボタンの合せが逆になり、紺色のジャケットが羽織らされ、ピンストライプが入って行く。
「どうなって…あああっ!」
胸から下、胴回りを柔らかくてすべすべしたものが包み込む…こ、これは女物の下着だああっ!
いつの間にかズボンは消え去ったのか、両脚の素脚同士がするりと接触した。
「ひゃっ!」
こ、これってもしかして…す、スカート…!?
直後に両脚に厚ぼったい感覚が覆ってくる。官能的にするりとしたそれを見下ろしてみると…。
「あああああっ!?」
膝丈の紺色にピンストライプのタイトなミニスカートから、うっすらと肌色の透ける艶かしい黒ストッキングに包まれた脚線美が突き出していた。
顔に厚ぼったい感覚がぬるりと回って行く。
これは…め、メイクじゃないかぁああっ!
首回りに紫色のスカーフがしゅるりと回って結び目を作った。
ふと気づくと、そこは喧騒の中のショッピングモールの休憩所ではなく、人口光のみに照らされ、空気圧が違うのか耳の中が痛い落ち着いた狭い通路だった。
ぎしぎしと違和感を感じながら身体を見下ろす。
「何よ…これ…」
勝手に口調まで女になっている。
間違いない、俺は客室乗務員になっちまったんだ!
「そろそろファーストクラスに食事の提供よ。準備して」
先輩らしい女性が一瞬だけ顔を出して直に引っ込める。
「はい」
自分は落ち着いた声で勝手に返事をしていた。
ど、どうして…どうしてこんなことになっちまってるんだぁ!?
ふと見ると先ほどの紙を白魚の様な美しい手で握りしめていた。
思い切って開いてみた。
「ああっ!?」
そこには、「成りたい職業」で「CIA」と書いた筈が、間違って書かれていた記述があった。
「CA」
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イラスト 佐倉ツバメ(@sakura_tsubame)さん