第六話
…今宵こそは、主に人型を晒して、御話がしたいです。
主は、どんな反応をされるのでしょうね。
で、決行した訳ですが……何故に対が、此処にいるのですか~~~!
あれ曰く、
『主が此処に、泊まる事となった。
ついでに、お前が何かやらかしそうだから、覗きに来た。』
ですって!!しかも、既に人型だなんて…私に対する嫌味ですか!!
ああ…そうですね、嫌味ですね。そうとしか思えませんよ。
文句を思いつつ、主を見ると、…可愛い寝顔です。
起こすのが勿体無い位の、寝顔です。
このまま、この可愛いお顔を満喫したいのですが、今の時間しか、主が一人でいる時は無いので、起こそうと思っています。
取り敢えず、人型を取って………あれ?対以外の視線が……?!
兄上殿!!如何して此処に…あ…主が寝ているのは、兄上殿のお部屋でした。
残念な事ですが、一番最初に、この姿を主に見せたかったのに、他の人に見られてしまいましたね……。
「今晩は、光の竪琴と闇の竪琴の人型だね。
…察するにリシェアと、話したかったのかな?」
『……』
『今晩は、知の神・カーシェイク様。多分、そうでしょう。
此奴がやっと主を認めたのですから、この姿で話したかったのでしょうね。
…ジェリハ、カーシェイク様に挨拶位しろ。』
私の様子に兄上殿は笑い出し、対に言葉を掛けられました。
「無理だと思うよ。彼はリシェアに、最初の声を聞かせたいみたいだからね。
多分この姿も、一番最初に見せたかったみたいだしね…。済まないね、この子の傍に、人型の気配がしたもので、私が警戒してしまって。」
兄上殿の右手には長剣が存在しており、如何して此処に来たか、はっきり判ります。…この方は、ご兄弟を護りに来られたのですね。
あの方も…近付いては…いませんね。私達の気配を知っているのですから、主に危害が無い事をお判りなのですね。
兄上殿は初めてですので、警戒されて…主、起きられたのですか?その手に持っているのは、神龍王の剣ですか?
…主まで警戒されるなんて…私は悲しいですよ。
主の視線が私を一巡して、驚いた顔にお成りです。如何したのでしょうか?
「そなた…ジェスリム・ハーヴァナムか?人の形を取れるのか?」
『はい、我が主。絆があれば、出来ます。
……主、ジェスリム・ハーヴァナムで無く、ジェリハとお呼び下さい。』
主は私が誰か、お気付きになって、驚いたのですね。
絆があれば、私が人型を取れると、お知りにならなかったので、無理もありませんね。気を取り直して、私が返事をすると、主の顔は綻び、嬉しそうに微笑んでくれました。
……………………………………………申し訳ありません、主。貴方の微笑に、見惚れてしまいました。
お蔭で、この微笑を向けられた方々の事を、馬鹿に出来無くなりました。
…対も見惚れておりますね。兄上殿は…何だか、とても嬉しそうですね。
そんなに私達が、主に見惚れる事が、嬉しいのですか?私の考えを察してか、兄上殿から声が上がりました。
「リシェアが魅力的だから、竪琴達が見惚れたんだね。流石は、我が妹だよ。
それと、ジェスリム・ハーヴァナムだったね、君に言いたい事があるのだけど、良いかな?」
『主の兄上殿、何でしょうか?』
「リシェアを、我が妹を主に選んでくれて、有難う。
それと、我が妹を選ぶなんて、見る目があるね。ほんと、良く遣ったよ。」
嫌味を言われると思って、身構えたのですが、何故か、褒められました。
まあ、あの視線の意味が判ったのは、朗報ですが……もしや、兄上殿は、主を溺愛されているのですか?
主が可愛いのは、判りますが…あ…この方も神々でしたね。
家族を溺愛されると聞いている、神々のお一人でしたよ。
ん?そう言えば、変な事を申されていましたね。主が妹ですか??
『主の兄上殿。「カーシェで構わないよ。」…申し訳ありませんが、私の信条から主以外の名は、呼びたくありませんので、主の兄上殿と呼ばせて頂きます。
主の兄上殿、何故、主が妹なのですか?弟では無いのですか?』
主は、如何見ても少年に見えるので、尋ねると、思い掛け無い返答が、主から返ってきました。
「私は両性体だ。故に、女性であり、男性である。そして、そのどちらでも無い。
今の姿は無生体のままだから、両親や兄上は女性として扱っている。」
「そうだよ、リシェアは我が妹。リーナも同じだよ。
両性体だけど、私にとってこの子達は、妹だよ。まあ、リーナ以外の家族一同が、女の子として捉えているけどね。」
無性体だと思っていた主が、両性体だと聞いて驚きましたが、それと同時に、かなり嬉しい事に気が付きました。
つまり、主は、三種類の声を持つという事。
私はその声と共に、音を響かせる事が出来るという事実。
この事を聞いて、対は本音を漏らしたらしいです。
『ジェリハ、お前、羨ましいな…。主の声が、多彩にあって…。
まあ、我が主の声は一つでも、それはそれで、我は満足だが。』
『アクハ…私は、待ち続けた甲斐があったと思いますよ。
我が主は…リシェアオーガ様しかいません。
主…これからも宜しく、お願いします。』
「ジェスリム・ハーヴァナム、いや、ジェリハ。『はい、主。』こちらこそ、宜しく。
……リシェアと呼んで欲しいが…駄目か?」
やっと主に愛称で呼ばれ、主から愛称で呼んで欲しいと懇願されて…
私は物凄い嬉しさの余り…つい、主に手を伸ばして、抱き締めようと…あれ?出来無い筈なのに、出来ている?
ああ、そうでした、此処はあの方の住まう場所。
光の力が満ちている所なら、完全実体化は可能でした。
腕の中の愛おしい主の存在…この方の安息を与えられるなら、それでいい。
この方がこの世界の人々の安息を願い、その為に戦うのなら私は、自分の出来る限りの事をしたいのです。
この方は、我が主。
私が仕えるお方。
そして、私の本当の音を、唯一出せる担い手。
大切なお方。
『リシェア様、貴方は我が真の主。永遠に貴方のお傍に、居させて下さい。』
これが私の、一番言いたかった事。
新しい主の傍を、永遠に離れたくない。
この方は…私の待ち望んでいた主なのです。
「判った、ジェリハ。
私からも御願いがある。…たまにはそなたと、人型で話をしたい。良いか?」
嬉しい事を言って下さる主に、私は思いっきり頷きましたとも。
『こちらからも、お願いしたい位です。主のご要望に、必ず応じます!』
『…お前、力んでいう事か!我等は竪琴だという事を、忘れていないか?』
対の突込みを無視しようとすると、何故か兄上殿が、私を援護してくれました。
「私からも御願いするよ。
私達は、何時もリシェアの傍にいられないから、我が妹が寂しがってる時や、話し相手を欲しがっている時は、人型を取ってくれないかい?
その方が、リシェアも安堵するし…安らぐと思うよ。」
神龍王の剣の意思から言われた言葉と、同じ意味合いのそれを、主の兄上殿から言われました。主を抱き締めたまま、思わず私は頷きましたとも。
我が存在は、主の為、主の安らぎの為にあるのです。…まあ、あの方が、生きとしける物の安らぎの為に、下賜なさった筈でしたが、この際、無視しておきましょう。
主なら、ルシフの人々から乞われるままに、私を弾いて下さるでしょうし、あの方の意向に背く事は、無いでしょうね。
あれからずっと、私は主の許にいます。
主に奏でられ、そして、主と共に色々な場所へ、向かう事になるでしょう。
そう、色々な場所へ………。
光の竪琴編は、これで終わりです。
次回からは、神龍王の剣編をお送りします。