第二話
一部、口調が違いますが、とある設定の為なので、気にしないで下さいね~。
取り敢えず私は、かの精霊の部屋にいる事を、許されたらしい。
彼は、この国が見たいと外出して不在だが、宝物庫へ戻る様に言われていない。一人で佇むのは慣れているが、つい、あの精霊を捜してしまう。
絆が無い為、不安で仕方無い。
何時、不要だと言われ、離されるとも限らない。
今までの担い手の様に、彼自身が私を欲していないのが判っているからだ。
先程の遣り取りで、かの精霊が、私に不満を持っている事は伺えた。勝手に選んだ私も悪いのだが、如何しても、彼しかいないと思ってしまう。
あの方より細い指で弾かれた時、私の心は幸福で満たされた為、この担い手が、私の主だと確信してしまった。
…後は、私の主と彼が認めてくれて、確実な絆を結んでくれれば…もう、言う事は無いのだが……。
程無くして、彼が返って来た。
一緒にいた聖獣は、別の部屋へ控えさせ、自らは寝台の上に座っている。そして、私を目の前に置く。
何事かと思ったが、掛けられた言葉に心も落ち着く。
「そなた…何故、我を主と決めた?気に入ったからか?」
精霊自身が納得する為に、問われたと判り、肯定の返事をする。絆が無い為、人型で会話が出来無い事だけが、悔やまれる。
私の意思の伝わり難い方法しか取れず、もどかしかしく思ったが、相手はちゃんと理解してくれた様で、質問が続いた。
「我を何者か、知って決めたのでは…無いのだな?」
そう言われ、不思議な事を言うな…と思い、それを音と態度で示す。これも判ったらしく、何故か、精霊から溜息が漏れた。
そして…驚愕な事を耳にした…。
「我の正式な名は、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ…
これが、何を意味しているか、判るか?」
ルシムとは、神聖語と生き物が呼ぶ言葉で、神を意味する。
そして、一番最初の役目と、神を意味する言葉の間の…リュージェという名は…母親と父親の名を示す………即ち、あの方の神子を示す。
動揺の余り、体が激しく震える。
まさか、己が選んだ目の前の精霊が、神々の御一人で、あの方の神子だなんて…何て、皮肉なんだ!!また…私は…捨てられるのか?
だが、この精霊いや、神以外、主に選びたくは無い!!
この方は…如何されるのだろう。
そう思っていると、神の視線を感じ、その姿を見る。
全く似ていないそれに、疑問が湧き、尋ねてみる。
返った答えは、本当だった。
彼も自身も似ていない事に、自覚があるらしい答えと共に、彼から見せられた装飾品には、知らない輝石と、あの方とその妻である方の輝石が、使われていた。
死という別れは無きに等しいが、あの方の様に、私を捨てるのではないかと、再び不安に駆られる。それが態度に現れたらしく、目の前の神に伝わったようだ。
「不安になる事は無い。そなたは、我を主と定めた。
故に我は、そなたを手放しはしない。そなたは、永久に我の物となる。
…それで良いのか?不服は無いか?ジェスリム・ハーヴァナム」
かの神から告げられた言葉に、不服は無い。あの方の様に、捨てられる事が無いと判り、思わず、音と光を奏でてしまった。
私の気持ちが判ったのか、かの御方は、再び声と微笑を掛けてくれた。
「腕は、まだまだだが…宜しくな。」
その声と共に抱き締められ、私はこの方と、絆が結ばれた事を感じた。この方の本当の名を知り、私の本当の名を呼んでくれた。
儀式や言霊など必要の無い、絆の結び方。心が通じ合ってこそ、出来る方法であった為、私は嬉しさの余り、挨拶と共に光を奏でてしまった。
その時、見知った気配がした。あの方の腹心の精霊だった。
新しい主と色々話していたが、私には関係無かった……はずなのに……私の心に、不安が湧き上がる。
それが…あんな形で実現するとは、思ってもみなかった。
新しい主は、私を生誕祭の時に、演奏してくれる事となった。神官と王に填められたらしく、生誕祭の一番最初の詩を詠う事に決められていた。
その日の主の服装は、あの方の物と同じになる。白い騎士服…あの方が、剣を振るう時に着る服の一つで、神としての装いだった。
生誕祭では、王か大神官、またはその補佐が、あの服を模した物を着て、開会式の演奏をするのが、この祭りの習わしだ。
今年は、その役目を新しい主が担い、私と共に創世の一節を奏でた。久し振りの演奏だったが、恋い焦がれた声と共に奏でられる喜びで、多少力が入ってしまった。
演奏が終わると、一瞬辺りは静まり返ったが、直ぐに絶賛の声で溢れかえる。
当たり前でしょう、この新しい私の主の演奏に、何ら落ち度はありません。
寧ろ、絶賛しない方が可笑しいですよ。
しかし…我が主は謙遜をされる。
依りによって、あの神の名と、対の担い手の名を上げるなんて…貴方の方が上手いと言ってやりたかったが、この姿では無理がある。
その内、人型になって言ってやろうと思っている時に、騒ぎが起こった。
可笑しな連中が剣を抜き、周りの人間を襲いだしたのだ。その光景を見た主が、応戦する為に私は、傍にいた聖獣へと預けられる。
初めて見る、新しい主の剣捌きに、私はあの方を思い出す。姿は似ていないが、その剣捌きは、あの方にそっくりだった。
舞う様に美しい剣技に、私は見惚れたが、それも短い間だった。主は真の敵を見つけたらしく、その姿を消した。
そして、再び姿を現し、この一帯に結界を張ろうとした。それに私は応じ、光を奏で、主の意向に従い、結界を成す。
この光で出来た結界は、あの方が創る物と同じ力を持つ。
邪気を寄せ付けず、どの様な攻撃にも耐えうる物。
先程の暴漢の様子と周りの話で、此処を黒き王と呼ばれる邪気が狙っている事を知った私は、主の意向を汲み、邪悪なモノの攻撃にも対応出来るようにと、強さを強化する。
命じる事はされなかったが、この方が良いと私が判断した。その結果、思った通り現れた邪気の王の攻撃も、余裕で打ち消した。
そして…主は黒き王と共に、姿を消した。私の不安が一気に湧き上り、主に付いて行きたくなったが、結界の維持の為には此処を離れられない。
仕方無く此処で、主の帰りを待っていた。それが…あんな事に…なるなんて…・。
私は悔やんでも悔やみきれなかった。
主が…深手を負って、生死をさまよう事になるなんて…。
私の不安が的中し、沈黙をせざる負えなかった。
私と同じ様に衝撃を受けたらしい、聖獣と精霊は、主の傍を離れなかった。
主を治癒の神に見せた様だが、その容体は芳しくないらしい。かの神に治せない傷の為、主の持つ治癒力に任せるしか、方法が無い事を話している。
主を失うという絶望に、私は苛まれた。
神々は不老であって、不死では無い。
七神以外は、不死に近くなると言えるが、邪悪相手では、死という眠りを得る可能性があると、あの方が言っていた。
七神だけは不死と言える。大いなる神から生まれた神故、再生と言う力が強いと、あの方から聞いた事がある。
だが、目の前の主は、七神では無い。七神から生まれた神なのだ。
不死に近くなるとは言え、真の不死では無い。だから…この怪我で、喪う事になるかもしれない。そう思うと心が苦しくて、人間でいう所の【涙】と言う物が出そうになる。
人型では無いので、実際は出ないが、それでも泣きたくなる。
嘆きの音を出さない様にして、周りを見ると、聖獣の姿があった。
彼は何かを信じるように、主の傍に居た。ふと、彼から洩れた声に、私は驚く。
「オルガ様は、帰ってきますよね。絶対、目を覚ましてくれますよね。」
小さな呟きに、私も祈りたくなった。
大いなる神に、新しい主の生還を祈る事しか、私には出来無かった。