第六話
主様と屋敷に帰って、幾日か経った頃、何時もの通りに兄君に、主様が詩を習われておった。其の時、屋敷に強い風─否、此れは古参の風故、空風の気配だな─と、強い闇の気配が訪れた。
恐らく空風の精霊騎士と闇の精霊騎士だろうな。
何用かと思いきや何と、闇の騎士殿は、闇の竪琴殿の主で在った。
察するに、光の竪琴殿が主を選んだので、其れを教えて貰いに来られたのであろう。空風の騎士殿は、闇の騎士殿の運搬兼、己の好奇心で来られたのだろうな。
あの御方の好奇心は、空風の精霊一だからな……。
然う思っていると、やはり、件の精霊騎士殿達が、主様の兄君であり、知識を伝える御方の部屋に訪れた。
無論案内役は、光の騎士殿だ。此の御方は、輝ける御方が一番信頼しておられる騎士故に、屋敷内の案内をも任せられておられる。
屋敷内の事を全て任され、把握されておられるからこそ、此の屋敷の案内が出来るのだが…何故故、従者殿に任せないのかが不思議だ。否…従者殿より、光の騎士殿の方が、屋敷内を知り尽くしているだけ…かもしれん。
此の屋敷の主に信頼されているからこそ、屋敷内の事を全て教えられているのだろう。其れ程、光の騎士殿は、あの方に信頼寄せられているのだな。
……ん?闇の騎士殿と空風の騎士殿…其れに、緑の騎士殿も揃った様だな。
然も、全員驚かれている?
嗚呼、然うか、主様が光の竪琴殿を呼ばれたか。
主が誰で在るか知った様で、驚かれておるのか……という事は、あの御方は、教えられなかったのだな。
まあ、光の竪琴殿自身が主様を主に選んだ所為で、選ばれた主が誰だか、言い難かったのであろうな。
何せ光の竪琴殿は、人々の安らぎの為に、下賜された物だったからな……だが、主様ならば、人々の安らぎの為に使われるだろう。
主様は、此の世に生きる者達を愛おしいと思われているし、ルシフの方々が存在する限り、あの方々の安らぎの為に、光の竪琴を惜しまなく使われるであろうからな。
無論、我も彼等を護る為に、主様に使われる物ではあるがな。
おや?主様と闇の騎士殿が、詠われるのか…。
久方振りの、闇と光の竪琴の共演か…美しいのう…。
主様の声は勿論、闇の騎士殿の声も、良い物だ…。御二方の声と、弾かれる竪琴の音が響きあって、更に美しさを増しておる…。
以前聴いた、安らぎを与える御方と光輝ける御方の其れに、引けを取らない程の詩声じゃな。
御二方の詩声を聞き入っておると、時を忘れそうになるな…。
其の夜…主様の傍に、人影が現れた。
主様と兄君様は、此の人影に警戒された様で、各々剣を持たれていた。
白く長い髪の精霊…?否、違う、光の気配が強いが精霊では無く…此れは…光其の物の様な気配…という事は、光の竪琴殿の人型か?!
もう一人は、黒い髪で…闇其の物の様な気配…
此方は、闇の竪琴殿の人型であろうな。
…主様、竪琴殿に警戒されるとは…無理も無い、主様は竪琴殿が人型を取れるとは、知らなかった様だからのう。
今、気配を感じ取られて、驚かれておられる。
何とまあ、年相応の可愛らしい表情であるな。
おや、微笑まれたか…ん?竪琴殿…??御二方共が、主様に見惚れておる。
無理も無い、主様の極上の微笑は、我ですら見惚れてしまうからな……特に、其れを向けられた光の竪琴殿には、最大の効果有りの様じゃ。
少し…羨ましいのう…我も、その微笑を向けられたいものじゃな…。
まあ、人型を取れない事には、無理であろうがな。
…漸く、御二方とも、正気に戻られた様じゃな。
彼等が見惚れた事で主様の兄君様が、嬉しそうに光の竪琴殿に話し掛けておられる。
主様の兄君様も、主様を溺愛されておる様じゃ。
当たり前じゃ、主様は美しく、可愛らしい御方なのだからのう。
おや?竪琴殿は、主様が両性体である事を知らぬとな?其の事を質問され、主様と兄君様に返答されておる。
竪琴殿は驚かれた様だが、同時に嬉しそうだ。
主様の声が多彩に有るという事は、其れに己が音色を添えられる事だからな…。
おやおや、主様に愛称を呼んでくれと、言われておるのう。
此の事に竪琴殿は、感極まって、主様を抱き締めておられる。
うん?完全な実体なのか?
幻影ではなく、実体とは?
嗚呼、然うか、此処は光の神の御膝元故、光の竪琴殿は実体を持たれたのか。
羨ましい事だが、我の望みが叶えられる事でもあるな。
主様に安らぎを与えて欲しい、然う、竪琴殿には言ってあるが、其れを実行出来る様で何よりじゃ。
我は共に戦うことは出来ても、竪琴度の様に主様と話が出来ぬし、主様を抱き締める事も出来ぬ。
残念だが、我に人型が無い故の、結果では有るのだが…
せめて、主様と話が出来る様に為りたいのう。
其の内、出来る様に為れれば良いのう。
然う思っていると竪琴殿が、主様に言いたかった言葉を告げたらしい。
『リシェア様、貴方は我が真の主。永遠に貴方のお傍に、居させて下さい。』
竪琴殿…其れは我とて、同じ。
竪琴殿が我の言葉をも、代弁してくれている様にも聞こえる。
我も……主様を永年待ち、今やっと、御傍に居られる。此の先ずっと、主様の傍に居るのが、我の大切な望み。
主様と竪琴殿、此の二人と居られる事が、我に取って最も重要な望み。
我が感慨に耽っていると、竪琴殿が兄君様にも、我が頼んだ事と同じ様な要望を言われておる。
主様の安らぎ…兄君様にも御判りに為られたか…流石は、知の神の役目を担っておられる御方だ。
其れに相応しい、思考の速さを御持ちで在るな。
主様も兄君様に引けを取らない、思考の持ち主で在れば良いのだが…兄君様の方が、此の役目で有る以上、上手であろうな。
竪琴殿が、未だ、主様を抱き締めている中、我は思う。
此れからも竪琴殿共に、主様の許で、我は存在しているのであろう。
主様と共に戦い、此の世界の全てを護る為に。
今回で、この話は終わります。
俺特の話でしたが、お付き合ってして下さった方、有難うございます<m(__)m>