第四話
そうこうしている内に、再び主様と共に部屋を移った。
何やら、今後の相談らしい。此の部屋には先程の人々と、初めて見る人間が居る。主様の姿を訝しげに見て、オルガとかいう名の者の事を尋ねておる。
誰かと思ったが、それは主様の偽名らしい。
色々と説明をされた主様は、一つの言霊を口にした。
『我が竪琴、ジェスリム・ハーヴァナムよ。我が前に、その姿を現せ。』
其れは…主を定めた業物を呼び出す物…然うか、あの気配が傍に居たのは、主様を護る命を受けたのでは無く、主様を主と定めた為で有ったのか。
ならば、其の物に伝えたい事が有る故、話すのも一向か?七神の御業の物なら、自らが選び、絆を持った主相手に、人型に為りて話が出来ると、聞いておるし…な。
そう思っていると主様が、我を御手にし、抜かれた。此れで光の竪琴殿が、我に気付いたらしい。
我の剣身を見て、不思議そうな感情を向けられ、良い機会だと声を掛ける。
『我は神龍王の剣・ルシム・ラムザ・シュアエリエム・シェナムと申す。
初めて御目に掛る、我と主を同じくする光の竪琴・ジェスリム・ハーヴァナム殿、今後とも宜しく。』
『初めまして、神龍王の剣・ルシム・ラムザ・シュアエリエム・シェナム殿。
こちらこそ、宜しくお願いします。…え?貴方も、意思をお持ちで??』
『嗚呼、我は、大いなる神に創られし物。
貴殿と同じく、神々の御業と言われる物。残念ながら、姿は変えられぬし、主様とも話が出来無い。だが、同じ御業の物とは、会話が出来る。
…貴殿が羨ましい、主様と話せる様だからな。』
挨拶を交わし、言葉を交わす。思ったより、楽しい話し相手に、会話も弾む。
気難しいと聞いていた御仁なのに、そう思えない…然うか、主を同じにしているから、余計にそう感じるのかもしれぬ。
だが、此の方が良い。
主様に迷惑が掛らないし…我等の役割の分担も、容易に出来る。
こう考え再び、光の竪琴殿に声を掛ける。
『竪琴殿、主様の心の支えに、為って貰えぬか?我では、主様と共に戦えても、心の平穏を与えられない。
貴殿なら、主様に平穏を与えられる。主様は心優しき御方故、貴殿の様な方に、傍に居て貰いたい。』
本音が出ていた我の願いに、竪琴殿が答えてくれる。
『判りました。私からも、お願いがあります。
貴方には、私の分まで主と共に戦い、主を護って頂きたいのです。私に主を護る術は有りますが、戦う術は無いに等しいのですから、貴方に頼めますか?』
竪琴殿の願いに、我は歓喜し、つい、即答をしてしまった。
『承知した。
時には、貴殿の護りの力を借りるやもしれんが、其れでも宜しいか?』
竪琴殿の力は、光…邪気に強い力ならば、時として助力を乞う事も有ると思い、そう尋ねると、返事が返る。
『私は、主の御心のままに、従うまでです。
主が望むなら、私に何の拘りも有りません。』
…忘れていた…我等、神の御業の物が拘るのは、主のみ。
主様が望むなら、其れに逆らう気は起きない。
主様が、我等の全てなのだから…な……。
『然うか、我等の唯一の拘りは、主が誰で在るかだけで有って、主様の意向に沿う事が、我等の望みなのだな。』
竪琴殿との会話が終わり、暫し、考えに耽ってしまった。
我等が拘るのは主様、己が選んだ主様の意向に沿うのが、我等。
では…主様の無体を誰が止めるのか………神龍様や精霊騎士殿では、駄目だが……御家族や他の神々に為るだろうな…。
まあ、主様は無体より、無茶をしそうでは有るのだが…………
此方では、止める者が居なさそうだ。
考えが纏まると、神龍の方々が、この国の結界を強化しておられた。
主様の意向は、この国を護る事。
神々に護られし国を護る…・神で在る以上当たり前の話なのだが、主様は御自分の意思で、この国を護りたいを思っておられる。
然うか…この国に住まう者達を護る意思が、主様を目覚めさせたのか……。
巷では、破壊神と言われている主様の事を、嘘だと見抜き、戦の神、守護神である主様を信じて居られる方々…。真実を見抜く目を持ち、純粋な心を持つ、此の国の住民達…真、ルシム・シーラ・ファームリアに相応しい人々だ。
主様が御気に召される筈だ。
我も…此の人々を護りたくなった。否、護ってみせる。
主様と神龍の方々と共に、あの黒き髪の王とかいう邪気から、必ず護る。
こう、決心していると、光の騎士殿の声がした。
「神龍の方々…貴方々の永年の念願が叶い、漸く、真の主の許に集えた事を、御祝い申し上げます。
…特に黄龍、同じ光の属性の者として、永年の知己の者として、貴女の望みが叶った事は、私も嬉しいですよ。」
…そうで有った…神龍の方々も、我と同じだったのだ。
我と同じで、やっと主を得た…光の竪琴殿も同じ。
主様は…此れ程、慕われる御方。
此の事は、真の神龍王で在る限り、必須で有り、当前なのだが…おや?竪琴殿の独り言が聞こえる。
魅力的なお方…か…そうだな、本当に主様は、魅力的な御方だ。
竪琴殿の言葉に納得して、つい、同意の言葉を言ってしまった。
『其の通りだな…主様程、魅力的な御方は、居られないな…。』
我の呟きが聞こえた竪琴殿は、恥かしそうに無視された。
何とも、可愛らしい方だ。