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BLUE OCEAN  作者: 仙崎無識
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4.深海の如き茫漠たる謎

 キドウの真剣な顔に、俺とカイルは表情を引き締めた。



「・・・前に、俺の友人で、「学者(プロフェッサー)」職の奴がいる話をしただろう」

 俺が記憶の糸を手繰り寄せていると、カイルが手をポンと打った。


「ああ~。水色の髪でやったらファンシーなメガネかけてた長身細身のあんちゃんだろ?」

 カイルの言葉に、俺も特徴的な見た目の若い男性を思い出した。



「そう。「情報屋(インフォメーション)」も兼ねている器用な奴で、「積読のギル」って呼ばれているんだが」



 BLUE OCEANでダンジョン攻略や、アイテム入手、クエスト達成が難しかった場合、時として「情報屋」に頼ることがある。「情報屋」は大抵は戦士職や魔導師職を引退して「学者」や「探検家」といった知識系職業(ウィズダム)に就いた人々、或いはハナから知識系職業の人々が日々の収入を得るために始めるもので、中でも「積読のギル」は凄腕の「情報屋」として有名であった。


「ギルさんがどうかしたのか?」

 俺の問いに、キドウが口を開く。



「彼奴は一か月に一度は住居を変える。たまたまこの近辺に移り住んでいたから、今日の一連の出来事と、最近このゲーム内で起こっている異変について話してみた。・・・ついでにあのシェリって女の子の情報も聞いてみた」

 確かに、「情報屋」なら何かネタを掴んでいるかもしれない。



「で?」


「・・・「始祖の10人」のうち、現在ゲーム内に居ないのは「操繰のリシェ」だけだ」


・・・それは昼間に薄々は分かっていたことだ。


「で、現在大小様々なレギオンを合わせて生き残っているのは20しかない」


「「20!?」」

 俺とカイルの頓狂な声が重なる。



 レギオンはその規模の大小から、個人が何処にも属したくないという意識から生じた個人レギオン、攻略に特化した戦略レギオン、現実世界の友人同士で作るレギオン、趣味など共通事項から発するサークルレギオンといったその種類の多様性まで含め、実に様々な要因が絡み合っており、数は悠に100を超えていたはずだ。

 レギオン同士の戦いや、イベント時のレギオンランキングなどを今までチェックしてきたが、20はいくらなんでも少なすぎなのではないだろうか。


「それってもしかしなくても・・・」


「恐らくレギオン潰し、新人潰しの影響を受けているだろうな」


「ああ。現に、昨日だけでも3の上位レギオン、28の個人レギオンが潰されたんだそうだ、ギルによると。・・・そして、31のレギオンを潰して回ったのは一つのレギオンらしい」

 ゲームがログアウト不可になる以前は、悪質なレギオン潰しは運営の規制の対象となり、最悪の場合にはアカウント凍結、削除、関連ゲームの参加不可を言い渡されることがあった。しかし、今は現実世界とは切り離されてしまっている。


「・・・なんでもあり、ということか」

 カイルが嫌悪を露わにする。


「で、そのレギオンなんだが―――――――」


「「黒士無双」、か?」

 俺の言葉に、キドウは首を横に振る。


「半分正解で、半分不正解だ」


「どういう、意味だ?」


「「黒士無双」はここ一週間はレギオンバトルにも現れていないし、人数を減らしている。それも一人二人が抜けているんじゃなくて、一気に10人とか20人とかだ」


「・・・その抜けた奴らがレギオン作って潰しをやってるんじゃねーの?」

 カイルが柿ピーを食べながら酒を飲む。


「抜けた人員はまあ「黒士無双」の出先レギオンとして、新しくレギオンを作って潰しに回っていたようだ。「虚空の残響」というレギオンが潰しを担当しているらしい。昨日のレギオン潰しもどうもそれだったようだ」


「レギオンを潰された人たちは?」


「生きて「黒士無双」の軍門に下るか、その場で惨殺されるかのどちらからしい」


キドウの言葉に、背筋が寒くなる。


「一気に10人、20人減っても気付かなかったのは、その分加入する人間が居たからのようだな」

 ぞっとする話だが、これが現実だ。今となっては。


「んで?アイツらが今日襲撃してきたのは?」

 カイルが酒を呷る。オフ会などで俺が一番付き合いが長いのはカイルだが、こいつは滅多に酔わない。もう既に酒瓶を3本も空けている。


「本当に「宣戦布告」の意味だけだったってのと、恐らくは「始祖の10人」の確認だろうな」


キドウが茶を飲む。そう言えばキドウは滅多に酒を飲まないな。


「ったく、心臓に悪いというか空気が読めないというかはた迷惑と言うか・・・」

 カイルが空を仰ぐ。



「まあ、今に始まったことじゃないしな」

 俺は「鮮血のジョウ」の顔を思い浮かべていた。


「で、シェリという女の子のことなんだが」

 俺とカイルは心してキドウの言葉を待つ。


「普通、このゲームを初めてプレイする時って何処から始まる?」


「始祖の10人」にとってはあまりにも当たり前すぎる質問。


「えっと・・・「ガイアの草原」じゃなかったか?」


初心者を多く相手する案内役NPCのフリをしている俺にとっては当たり前を通り越して分かって当然、の問題。



「ああ。()()()()()()()()()()()()()()は、な」

キドウの物言いに引っ掛かりを覚える。



「ギルは全プレイヤーの初期出現場所を把握している」

 方法は企業秘密らしいがな、とキドウが苦笑する。


「基本ギルは暇らしいから、情報収集の合間にプレイヤーの初期出現場所の全てを記録している」

 紛うことなき暇人で、変人だ。


「今回シェリのことを訊くと、こちらが情報を何も言っていないにもかかわらず、全て知っていた。そして、彼女の出現場所が、「奥地:招魂の滝」であると俺に告げた」



「!!」


俺絶句。カイルを見ると、唖然とした顔をしていた。



「え、何?チート?バグ?改造コード?」

 カイルが一瞬で酔いが醒めた、とでも言いたげな顔をしている。



「そこまではギルも分からないと言っていたが、今後調べてもらうよう頼んでおいた」



「キドウGJ」

 カイルがビシッと親指を立て、欠伸をする。



「ん、まあ分からないことが多すぎるし、こっちはいつまた襲撃を受けるかわからない身ときたもんだ。・・・取り敢えず今日の所はこれでお開きにすっか」


「そうだな」


「だな」


「じゃ、また何かあったら連絡するわ」


そう言って、カイルは自分の能力で戻って行った。



「じゃ、俺もディーンに戻る」


「気を付けてな」



俺は徒歩で山道を下って行った。


おひさしぶりです。

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