3.水面の色はまだ分からない
「あ~ムカつく~!!!」
「鮮血のジョウ」達の襲撃及び宣戦布告を受けた日の夜。
再び俺たちは龍嶮山に集まっていた。
あれから、俺たちは自分たちの持ち場に戻り、再び、何事もないように振る舞った。
俺たちが襲撃を受けてから龍嶮山に飛び、宣戦布告を受けるまでの時間はそれほど経っていなかったようで、「辺境の村:ディーン」は人が全くいなかった。
暫くしてから、「辺境の村:ディーン」近くの「セメンテリオ燐坑道」にクエストに行っていた一団が帰ってきて、ようやく普段の状態を取り戻した。
「襲撃」を受けた時に逃げた面々が彼らの帰還の様子を見て帰って来たときには、俺は質問攻めにされた。
取り敢えず、NPCらしい一辺倒な応答を返すにとどめ、夜になって抜け出せるのを待った。
そして、冒頭の「紫電のレイナ」の絶叫に戻る。
「アイツ毎度ながら良い根性してるわ~もう!!」
先程から「魔神のサクヤ」の愚痴ばかり言いながら、酒を飲み、俺の持ってきたつまみを凄いペースで消費している。
「レイナ、もうそれくらいにしておいた方が・・・」
「強弓のカイル」が止めに入るも、
「ああん?飲まなきゃやってられないのよ!!」
と、絡み酒。
そんな茶番染みた行動を横目に、「龍晶のキドウ」が俺の方を向く。
「で、その女の子、どうしたんだ?」
昼間のトンデモ戦闘の後、助けた「探検家」の女の子をまた「辺境の村:ディーン」に連れて行くのも気が引けたので、「龍晶のキドウ」のもとで預かっていてもらったのだ。
「「鮮血のジョウ」と「無謬のヨルダ」に襲撃される前、ガラの悪い3人組に暴力を振るわれそうになってたんだよ。だから、助け出して、3人組にちょっと戦闘不能になっていてもらおうかな~って考えて助けに入ったら、あいつらに襲撃されたんだ」
「・・・つまり、巻き添え食らったって訳か」
「紫電のレイナ」の酒地獄から抜け出してきた「強弓のカイル」が、スルメを食べながら、「探検家」の女の子と握手する。
「俺、カイルって言うんだ!!よろしく!あと、飲み物持ってきたからどーぞ」
陽気な「強弓のカイル」の様子に緊張が少しはほぐれたのか、女の子が一礼して飲み物を受け取る。
「・・・「探検家」のシェリです」
「シェリちゃんか~。えっと、こっちの無愛想っぽそうだけど根は優しいのが「龍晶のキドウ」、キドウさんで、こっちの双剣遣いが「長剣のトウヤ」。俺らの中で、一番最初に出会った人だね。んで、向こうで酒ばっかり飲んでるけど頼りになるのが「紫電のレイナ」、レイナ姉さんだよ~」
ちゃちゃっと紹介を済ませる「強弓のカイル」のコミュニケーションスキルに、内心舌を巻く。
「カイルさんと・・・キドウさんに・・・トウヤさん、そしてレイナさんですね。よろしくお願いします」
深々とお辞儀をするシェリに、俺たちは慌てる。
「そんな畏まらなくても良いから、な?・・・おいトウヤ、この娘になんか作ってやれよ。きっと「龍晶のキドウ」が無愛想すぎて腹減っても腹減ったって言えなかったんだよ多分」
「・・・昼食は一緒に食べたが」
「強弓のカイル」の言葉に、持って来ていた調理道具一式と、「強弓のカイル」が集めてきた材料で、簡単なものを作る。
料理を作っている傍で、「紫電のレイナ」が呪詛の如き言葉を並べたてる。
「あ~若いっていいわよね~。BLUE OCEAN随一の二刀流剣士に助けてもらえるし料理まで作ってもらえるしさ~。やっぱあんたも若いからあのコ助けたんでしょ~」
軟体動物みたいに絡みついてくる「紫電のレイナ」。ただでさえ露出の多い魔道師服に、抜群のプロポーションだ、心臓に悪い。
「あの~レイナさん?ちょ~っと離れてほしいんですけども。・・・てか、レイナさんの分も作る予定だから、問題は無いと・・・」
「やだ~くっつく~」
「紫電のレイナ」は、酔っぱらうと、甘えたがるという新しい一面を発見した・・・って、そういう問題ではない。
「料理焦げても良いならそのまま居ても問題ないが?」
「すみません」
一瞬で離れた。
これは危険な賭けだった。それでも離れなかったら、確実に俺の心臓が持って行かれていただろう。
「大体、シェリさんが若いから助けたとかそういう問題じゃなくて、困ってたら誰でも助けるよ、俺は。レイナでも助けると思う。でなかったら・・・」
「初心者の導き手なんかやってないって?」
料理を器に盛り付ける。
「そういうことだ、な」
「かーっこいいーこと言ってくれるじゃないの」
「紫電のレイナ」が俺の脇腹をつつく。
二人で手分けして料理を運んだ。
「はい、お待たせ~」
「って、お前は何も手伝ってねえだろレイナ」
「・・・今晩のメニューは?」
「鳥肉の香草包みと、ゆでた野菜のバジルソースがけ、フランスパンに、冷製人参スープだ」
上から「紫電のレイナ」の発言、「強弓のカイル」のツッコミ、「龍晶のキドウ」の質問、そして俺の解説。
飲み物は酒と水と果物ジュースだ。
「「「「いただきます」」」」 「いただきます・・・」
5人でメシを食う。
「んっまーい!!」
「紫電のレイナ」が叫ぶ。
「おお、俺も苦労して食材取ってきた甲斐があったぜ」
「カイルはクエストを課しただけだろう。持ってきたのは他プレイヤーの力だ」
「強弓のカイル」と「龍晶のキドウ」の掛け合い。
「喜んでもらえて何より」
俺の作った料理を食べて喜ぶ人を見るのはいつでも気分が良いものだ。
「・・・おいしいです・・・」
ぽそりと呟かれた言葉に、一同黙りこくる。
見ると、シェリが涙を流していたのである。
「こんなに美味しいご飯、食べたのは初めてで・・・つい・・・」
流石に、美味しさのあまり落涙する人は俺が料理を振る舞った中で初めてである。
「あ、うん、えと、まだまだあるから、落ち着いて食べてね」
落ち着いていないのはどっちだか。
「紫電のレイナ」がハンカチをシェリに差し出す。
昼間の騒動を鑑みるに、きっとクエストにいっても食事にはまともにありつけていなかったはずだ。
最近は攻略や自分の生存のために、「料理人」職を選択する人間はほとんどいない。
大体は自分が現実世界で培ってきた料理の腕か、この世界で食えそうなものを購入するかしかないのである。
彼女の境遇を思うに、食べ物に困っていたことは容易に想像できた。
* * *
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
数十分後。
全員が腹を膨らませることが出来たので、今後の方策を練ってみよう、という感じになったが。
「アタシ、もう帰るわ~」
愛用の武器:死蝶扇でパタパタと扇ぎながら、「紫電のレイナ」が立ちあがる。
「絶対、今度はアイツら私たちと戦う気でしょ?その時のために訓練もしたいし」
伸びをする「紫電のレイナ」。確か、彼女は現在「商業都市:テールセニア」の一角に住んでいたはずだ。
「龍嶮山からは遠いもんな~。俺の「着地点」使う?」
「強弓のカイル」の申し出に、
「・・・遠慮しとくわ。あれ酔いそうになるんだもん」
そう言って断る「紫電のレイナ」。
そして、
「・・・シェリちゃん。行くわよ~」
彼女はシェリの手を引いていく。
「は!?」
「え!?」
俺と「強弓のカイル」の驚きを余所に、帰ろうとする「紫電のレイナ」と、戸惑うシェリ。
「何よ。男3人の中にシェリちゃんを置いていく訳にはいかないでしょ」
腰に手を当て、ふんっと息を吐く「紫電のレイナ」。
「そりゃまあ・・・」
「そうだけど・・・」
此方から頼もうと思ってたのに、少し予定が外れた。
「何何?私が面倒見が良かったらいけない訳?」
「・・・そんなことないです」
てっきりシェリのことがあまり好かないものだと思っていたのだが、そうでもなかったみたいだ。
「じゃ、また何か情報分かったら言ってね~♪」
そう言うと、「紫電のレイナ」とシェリの姿が消えた。恐らくは「龍嶮山山道:テールセニア方面」を通っているはずだ。
嵐のような「紫電のレイナ」と、子兎のようなシェリが立ち去ってから、「龍晶のキドウ」が口を開いた。
「・・・で、二人に知ってほしいことがあるんだが」
名前表記の煩雑さから、「始祖の10人」に関しては、今後は通り名無しで書いていこうと思います。ご迷惑をおかけします。