2.青い海と赤い海
一瞬で周りの風景が歪み、高速で流れ去る。
次に視界が安定したときには、俺と「鮮血のジョウ」と「無謬のヨルダ」とさっき俺が助けた「探検家」の女の子は龍劍山に降り立っていた。
「あっはぁ~!これは「救難罠」だねぇ~!仕掛けたのは「強弓のカイル」君かな~?」
片手で額を押さえ、天を仰ぎ見ながら哄笑する「鮮血のジョウ」。
こいつは明らかに前見たときよりも狂っている。
「・・・ここなら大技連発しても周囲に被害が出ないからな」
抜剣して二人を相手取るのに十分な間合いを測る。
そんな俺を前に、クツリと嫌な笑みを浮かべる「鮮血のジョウ」。
「・・・俺たちが何も考えずに君の罠についてきたと思う?」
・・・?
次の瞬間、
バシュウ、という空気の抜けるような音がすると同時に、「強弓のカイル」と「空鎧のガラン」、「龍晶のキドウ」と「黒斧のスルガ」、「紫電のレイナ」と「魔神のサクヤ」が俺と同じく龍劍山に降り立っていた。
「んふふ♪作戦は成功してたみたいだね~」
「鮮血のジョウ」の言葉に合点がいった。
要するに、俺たち一人一人に彼らも一人一人が付いたのだ。・・・・・・俺だけが二人付いていたのが災難だ。
「君たち一人一人の所に、俺たちの「同志」が一人ずつ、訪問する手筈となっていたんだよん♪まあ、トウヤ君だけは別格で、二人付いたけど。・・・その場で出来れば殺してしまう予定だったんだけどね~。皆が「救難罠」持っていたとは。驚いたよ」
そこについては「鮮血のジョウ」も驚いたことを素直に認めているようだ。
「・・・お前らの目的は」
ぼそりと、「龍晶のキドウ」が問いかける。
気のせいでなく、彼の周囲に明るい色のオーラが飛んでいる。
これは拳闘士のステータス上げスキル「龍の憤怒」だ。
あれを使われた状態だと、並の剣士職でも無傷では済まないし、魔道師職なら即死もあり得る。俺だって鎧くらいは持ってかれるんじゃないかと思う。
「分かりきったことを聞くもんじゃないな、キドウ」
「鮮血のジョウ」と「龍晶のキドウ」の間に、「黒斧のスルガ」が入る。
「この終わりのないゲームの終焉を見るため、だろう?」
「勿論、終演を見るだけじゃなくて、現実世界に帰ることも含まれるけどな」
「空鎧のガラン」も、話に入ってくる。「空鎧のガラン」の移動と同時に、「強弓のカイル」が射線上に「空鎧のガラン」が来るように移動した。
確か、「空鎧のガラン」は、現実世界では妻子持ちのサラリーマンだった。彼がゲームの世界からログアウトしたい、という気持ちは分からなくもない。
しかし。
「だからって、初心者を殺したり、街で婦女暴行をしたりするのは良くないんじゃない?」
「紫電のレイナ」が、俺たちが思っていることを代弁する。
彼女の周りに微細な雷光が奔る。・・・これは、彼女が怒っているときに見られる現象だ。
「アハハ。理解してないなあ、オバサンは。・・・目的のためには、手段は選ばず、って言うでしょう?」
「魔神のサクヤ」が「召喚士」のスキルで喚び出したらしい「海神」の肩に乗っかって、さも可笑しそうに笑う。
「紫電のレイナ」と「魔神のサクヤ」は現実世界でのオフ会でも何かと反りが合わないことが多かった。
「魔神のサクヤ」は高校生、「紫電のレイナ」が銀行の外為業務を取り仕切る所謂キャリアウーマンだ。よくそれを大学生の「操繰のリシェ」が宥めていたものだった。
女子バトルの火花が文字通り散っている端で、ほぼ膠着状態にある「龍晶のキドウ」・「強弓のカイル」及び「黒斧のスルガ」・「空鎧のガラン」のチーム。
「鮮血のジョウ」は面白そうに、「無謬のヨルダ」は表情が表情が読めないのでわからないが、恐らくどうでも良さそうにそれを眺めている。
そして取り残される俺と、成り行きで連れてきてしまった「探検家」の女の子。
装備などからも、ゲームを始めた後すぐにログアウト不可になってしまった感じだろう。
オロオロと、半ば人外級の「始祖の10人」の内の9人を見ている。
取り敢えず、連れてきてしまったのは俺だ。この訳分からない争いからは絶対守ってやろうと考えていたその時。
「あーもうなんか飽きてきちゃったなー」
「鮮血のジョウ」が指を鳴らす。
途端に、「龍晶のキドウ」の「龍の憤怒」が、「紫電のレイナ」の「告死蝶」が、「魔神のサクヤ」の「海神」が消える。
「・・・「消失」か・・・」
罠や幻覚に詳しい「強弓のカイル」が呟く。
「消失」は、「奇術師」限定スキルで、範囲内の全員の魔道効果を消滅させる、というものである。・・・敵味方含め。
「ヨルダ君、今日は挨拶だけに来たんだから、そろそろ帰ろうか」
読めない笑みを浮かべる「鮮血のジョウ」。
「・・・そうだな。今回は宣戦布告だけ、だ。・・・できればそちらの頭数を減らしたかったんだが・・・」
更に読めない「無謬のヨルダ」。
「リーダーがそう言うなら仕方ない、な」
マップからの離脱をし始める「空鎧のガラン」に、
「オバサン。次会った時は覚悟しててね♪」
と、にこやかにえげつないことを言って立ち去ろうとする「魔神のサクヤ」。
「ま、次は無いと思っておいた方が良い」
そう「黒斧のスルガ」が言うと、「鮮血のジョウ」がお得意の奇術でも使ったのか、5人の姿は掻き消えた。
・・・久しぶりの投稿です。