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11個の宇宙

 第2話 11個の宇宙 


「いったーい! なんなのよ、天井から男がふってくるって! きゃあああああああああ!」

 かなきり声に目が覚めると、眼前に全裸の少女がいた。

「気安く見るな! この変態!」

 長い銀髪の少女がルビーのような赤い瞳を吊り上げて、烈火の如く怒っている。すべすべの足からは気品あふれるバラの香りがした。

「ごめんなさああああああい!」

 状況が飲み込めないまま謝ると、少女は胸と下を隠しながら俺のことをぐりぐりと踏みつけている。

「ごめんですむかあああっ!」

 さらに力強くかかとで俺の頬をぐりぐりする少女。その足元に毛むくじゃらの太った猫がちらりとみえた。

「まあまあ、落ち着きなよお姫様。君がずいぶん人間らしくなったことがわかってよかったじゃないか」

 この真っ白な猫は片目に黒い眼帯をつけていて、しかもしゃべる。

「こいつはね、ここに来る確率が16%だったんだ。だから、とっても嬉しいよ。まあ、死体でくる確率がそのうち99%だったけど」

「おいおい、何言ってんのかさっぱりわからないぜ、っつうか死体って」

「ああ、ごめんね。僕はタルト。人間に飽きたから今は猫をしている。で、こっちの女の子がテラス。前はお姫さまで、いまは普通の女の子をしてる。ねえ、そろそろ僕が教えた通りに、服をつくりなよ。僕からしてみたら、いつまでも洋服を決めないテラスが悪いよ」

 苦虫をかみつぶしたような表情のテラス。

「うるさいわね。豚猫」

「ほめないでよ、猫は太っているほうがモテるんだよ」

 ひょうひょうとしたでぶ猫のタルトが俺の頭にのっかった。

「ほら、これで見えない。さ、さっさとこの子の理性があるうちに服を選んで、定職についてよ。押し倒されても僕には助けられないんだから」

「ほんと、うるさいわね。生まれてすぐ働くなんてごめんだわ。えーっと、下着売り場は8階か、いい! あんたたちはそこから1mmも動かないで待ってなさいよ」

 テラスの気配がきえたのがわかると、俺は猫の首をつかんで乱暴に顔からひっぺがえした。

「おい、ここはもしかして、要人専用の核シェルターか?」

「ちがうよ。ふふ、君は想像力が豊かだね。単なる地下デパートさ。新宿には昔、こういう施設がたくさんあったんだよ」

 地下なのに昼間のように明るい。そして、目の前に広がる食糧の山。

「こ、ここは! やった・・・やったぞ、俺はついに宝の山を見つけた!」

「大げさだなぁ」

 ぐぅぅと腹の虫がなる。

「適当にその棚の缶詰をあけるといい。僕にはうなぎの缶詰をとってくれよ」

「おーけー、いくらでも取ってやるぜ。うひゃーこりゃ、ほんとーにすごいや! 大間のくろまぐろって、とっくに絶滅して、その身は一切れで家が買えるほどの高値でとりひきされてやがる。そんな食べものが山積みだなんて、これは穏やかじゃないぜ」

 俺は外套を風呂敷のかわりにして、どれだけの食い物をつめられるのか真剣に試行錯誤している。だから、カツンカツンとつるつるの鏡のような床を歩く足音がきこえるはずもなかった。

「おーっほほほほほ! どう! 日本の女子高生の制服よ! 見て見て! 萌えるでしょ!」

「それでいいのかい。君の年齢は14歳だから少し早いよ」

 テラスがタルトの首根っこをつかんでひと睨みするとする。タルトは笑顔をつくろうとひげをぴくぴくさせ、肉きゅうで鈴を鳴らしながら、尖ったカギツメで俺の服を引っ張った。

「なんだよ、タルト。うなぎならさっき・・・って! ええええ!」

 俺は初めて恋をした。一目ぼれだ。青いリボンのついた白いセーラー服のテラスはまるで神話に登場する女神や天使だ。

「あ、あああう・・・え、えっと君はだれって、テラスだよな。あ、あははははは」

「はぁっ? 当たり前じゃない、それよりあたしのつくったレトロな制服はかなりかわいいみたいね。人工繊維で昔の服を真似しただけなんだけどさ。って、あんた、さっさと帰りなさいよ。この遺跡は天使さまに護られているから安全だけど、あなたに神は見えないでしょう、すぐに下品なマシンがあなたを殺しにくるわよ。勝算はあるの?」


 は? こいつ、電波ちゃんだったのか? 神様?


「おまえらなぁ、さっきからわけのわからないこといいやがって」

 テラスはめんどくさそうにため息をはくと、空中に浮かんだ。

「おおお、な、なんだ! おまえら何者だ? アンドロイドかなにかか?」

「いいえ、ちがうわ。人間よ。それに、わたしたちはこの宇宙の物理法則にほぼ100%のっとているわ」

「素粒子だよ」

 タルトが呟いた。

「素粒子はいたりいなかったりと観測できないんだ。よくシュレディンガーの猫という話しをきくだろ」

 俺は即座にノーと答えた。しょうがねえだろ、学校なんて通ってないんだ。

「しょうがないな、シュレ猫というのは、ざっくり言うと、ものすごく小さいものは観測しないと状態がわからないことの例えさ。毒ガスの出る物騒な箱に生きた猫を閉じ込める。観察者からはその猫が生きているか死んでいるか蓋をあけてみないとわからないよね」

「ああ」

「箱の中では、猫は生きている、同時に死んでもいる。曖昧なんだ」

「で、猫は生きているのか?」

「そうだね。蓋を開ければわかる。生きていたとしようかな」

「よかった。俺は猫好きだからな」

「雄猫の前で気持ち悪いこと言うなよ。まあ、素粒子はそういう不思議なやつでさ。これがいろいろと便利なんだよ」

「ふむ、まるで魔法だな」

「はは、魔法なんて現実にあるわけないでしょ? あんた、ってかわいいわね」

 テラスがひややかにわらう。ちくしょう。

「わたしなんてなにも勉強しなくても、いきなり神様が3人くらい見えたわよ」

 だめだ、こいつらの話がオカルトなのか科学なのかわからなくなってきた。こういう時にちゃうがいればな。あいつは俺よりはるかに賢いから、こいつらのいうことがわかるだろう。



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