奴隷(おとな)2
発射された弾丸がコアを貫く・・・ことはなかった。
直径3mはあろう赤く輝く巨大なコアクリスタルは、いくつものとりこまれた人間の顔となり、その口は弾丸をも捕食してしまう。
「おしかったな、小僧」
下品な笑い声のあと乾いた音がした。コアクリスタルから弾丸が吐き出されたのだ。
「ひゅおおおおぉぉぉぉぉ」
声にならない悲鳴がコアクリスタルからトンネルに響きわたり、無数のきもいピンクの触手がコアクリスタルから伸びて俺を取り込もうとする。こういうのは女の子にやりやがれ! てめえはホモか!
「やめろ! はなせ!」
抵抗もむなしく、触手の先端が髪の毛のように細くなり、俺のからだを支配していった。幻聴なのかコアクリスタルに飲み込まれた人々の声なのかわからないが、大勢の人間が俺の耳元で囁くのが聴こえた。
「ぐっああああああっ!」
次第にからだは動かなくなり、自分という存在がぐにゃりと曲がり、分裂をはじめた。自分の自我がコアクリスタルに飲み込まれていくのだ。この感覚は死よりもおそろしい。やがて息ができなくなり、恐怖で全身が汗まみれになった。俺という存在がからだをこえてどんどん分裂していくのだ。
俺が俺を飲み込むと、勇者1078番が死にました、という声がした。
砂嵐の視界に、意味不明な雑音の中で、無機質な声だけが透き通って聞こえた。ノイズのないはっきりとした声だった。
俺はなんとなく、自分が勇者1078番なんじゃないかと思った。自分が勇者だなんておこがましいというか馬鹿馬鹿しい話だ。俺は所詮なにもできない人間だった。こんな場所で死んでしまうような、だが、この自分が自分でなくなる感覚がコアクリスタルを刺激した。きっと、俺以外の誰かにもノイズが聞こえたのだろう。
コアクリスタルは俺を吐き出した。
「俺様のカオスコングが言うことをきかない!」
俺はこの隙に乗じて退散しようと走りだした。あんな体験は二度としたくないしな。だが、次は本物の巨大地震がオールド東京を襲った。立っていられなくなるほどの揺れ。壁のひびから大量の砂が流れ込んでくるは、地割れは起こるはで、本当に今日は人生最悪の日だと罵りたくなる。
砂に飲み込まれながら、俺は東京の地下へ地下へと流されていった。