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ツインズバインド  作者: クダラレイタロウ
第一章・笑美
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家族

るん、助けて。


寛軌先輩に気持ち悪ィんだよ、と引っ(ぱた)かれても、私はそればかり繰り返してた。来てくれる訳もない、私の唯一の家族。

ひたすら気持ちが悪くて、ひたすら痛くて、目が溺れたみたいに涙を滲ませた。涙を意識した時、やっぱり弟の顔が浮かんだ。まさに名前の妙。

涙とはまるで無縁な、屈託のない弟の笑顔。

セックスの時に家族を思い出すのは萎えるけど、今回はすごく効果的だった。ずっとるんのことが頭の片隅にあったお陰で、身体が屈しないでくれた。

痛くて痛くて、気が狂いそうだったのにも、何とか歯止めをかけられた。物理的じゃないにしろ、るんは確実に私を助けてくれてた。流石、私の唯一の家族。



「……楽しみにしといて下さい」

特急に乗る直前、寛軌先輩が電話で言ってたあの言葉。あの時は気にも留めなかったけど、その意味を今になって思い知る。

どうやら漉磯先輩は、部屋に住まわせる条件を、バイトを探すこととは別にもう一つ、寛軌先輩に提示してたらしい。

俺ともヤれる女を連れてきたら、ちょっとの間住まわせてやってもいい。別に、私たちの境遇に理解がある訳でもなかった。ただ、サイテーなだけだった。


別に処女じゃないし、寛軌先輩の前にも恋愛経験はある。十七歳にしては豊富な方だって言ってもいいくらい。

変わり種で言えば、アイドルのコスプレだってしたことあるし、これで叩いてくれと(ムチ)を渡されて、言う通りにしてあげたことだってある。


けど、これだけは言える。3Pももちろんそうだけど、好きでもない男に抱かれたのは、初めてだ。



コスプレも鞭も、相手のことが好きだからノッてあげた。

コスプレの人なんて、かなり年上の人なのに、すっごく恥ずかしそうに、申し訳なさそうに頼んできたのがかわいかったから、してあげたんだ。


先輩の言う通り、その条件を先に聞いていたら、ここには来てたかどうかは疑問だった。

元々、寛軌先輩のことは東京に連れてってくれるって言うのを除いちゃうと、若干、倦怠期にかかっていたし、多分そのうち別れていたと思う。

鈍ナルシー(鈍いナルシストの略ね)なところの他にも、別の女の子ともちょくちょく遊んでることにも気付いてたし、家にいたくないからって言う理由だけで呼び出されて、何もしてくんないつまんない夜も、この人とは何度かあった。

最ッ低なこの条件を知ってたら、私は生き(ぐる)しくてもあそこに残ることを選んだと思う。


そこまで思って、気付く。そうだ、私、ついて来ちゃったんだ。何も知らないで、先輩を信じたくて。私はもう、先輩を信じるしかなかったんだ。

そう思って、改めて寛軌先輩を見る。横に転がっていた寛軌先輩は旅とレイプの疲れに負けて、気持ちよさそうに寝ていた。

寛軌先輩は、どこでも寝られる。夜、私を呼び出した公園のベンチで眠ってしまった時はなかなか起きてくんなくて苦労した。蚊に食われたのを私のせいにされて、ちょっとケンカになった。

罪のない風な安らかさをもった、罪深い寝顔を見ていると、げんなりする。私は、こいつと生きようとしてたのか。こいつと、家族を作ろうとしてたのか。


ここを出てくる時、誓った夢を思い出す。


できる限り相方と対等な関係を保って、子どもには息苦しさを与えない家。それが私の夢だった。

一緒に東京に逃げる話が出た時、寛軌先輩との結婚を考えなかった訳がない。

先輩は鈍ナルシーかも知れないけど、基本的には優しくて、どことなーく頼りない人だから、保と篠美ちゃんみたいなことにはならないはずだ、って思ってた。

しかも、先輩は私と同じで、家庭で苦しめられてきた人だ。やり口は最低だったとは言え、そうまでして東京に出てきたかった気持ちだけは、私だからこそよく分かる。

先輩は半年先の高校卒業すら待てなかったくらいだし、下手をすれば私よりもその気持ちは強かったのかも知れない。


だけど、もう無理。


先輩の顔を見ながら、決意する。この人とは、別れよう。私だって、この人を少なからず利用しようとしていたのだ。言わば、その罰がこれなのかも知れない。


かと言って、私はこいつを許せそうには、ない。だったら、私はこいつを徹底的に踏み台にしてやる。

ここで、東京で何とか仕事を見つけて、細々とでいいから、生きていこう。仕事を見つけるまでの間、この二人とは何とか住んでやる。

利用されたっていい。組み敷かれたっていい。その代わり、こいつらには踏み台になってもらう。仕事と部屋を見つけるまでの間だけ、私もこいつらを利用してやるのだ。


るん、ごめん。お姉ちゃんはちょっとの間だけ、最低な女になります。だけどいつか、必ず幸せな家庭を作ります。うちなんかとは違う、私の理想の家族を。

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