まとまる
結果を言えば、宇賀神さんは一度も私に手出しをしなかったし、きちんと自立もさせてくれた。
蓄えがある程度できたタイミングで、私は彼の部屋を出た。
当然、不動産のチラシを破られることは無かったし、どころか彼は、部屋探しをアドバイスも交えて、甲斐甲斐しくサポートしてくれた。
予定していたよりだいぶ遅くなったけど、私はようやく一人暮らしができた。
あ、最初は寛軌先輩がいたから、別に一人暮らしを目指してた訳じゃなかったんだっけか。
寛軌先輩とか、久しぶりに思い出した気がする。もう季節は春だから、高校は卒業した? それともあの調子だとダブったかもなあ。もう別に、どうでもいいけど。
漉磯先輩にしても、宇賀神さんにしても、一部屋の中の一室を借りていたような状態だったから、水回りが自分一人の為だけに使えると言うだけで、嬉しかった。
て言うか、きちんと独り立ちできたんだ、私。
そう思うとたまらない気持ちになって、ベランダから実家の方向に向かって「ざまあみろ!」と叫んだ。
当然、近所から苦情が来て、超恥ずかしくって、謝る時はめっちゃ顔が熱くなった。
場所は結局、宇賀神さんの部屋からかなり実は近い。るんに電話してからは、必要以上に宇賀神さんに怯えることは無くなった。
お世話になる恩義が降り募り、信頼度が増さざるを得なかった一方で、膨らんでいく想いがあった。
ふと背の高い彼を見上げると、るんとはまた違う安心感がそこに生まれていた。
まだ漉磯先輩とのことで怯えていた時のことを思い出す。
頼りがいのある彼を見て、思ったこと。漉磯先輩のことが無かったら、好きになってたかも知れない。
あの時、私は確かにそう思った。一度思い当たってしまうと、やっぱりダメだった。
既に私は、宇賀神さんのことがどうしようもなく好きになっていた。
ライブで寛軌先輩と並んで『三日月サンセット』を聴いた時の気持ちが、久しぶりに蘇る。
あの曲が収録されてるのは、『GO TO THE FUTURE』って言うミニアルバムだったよね。
CDは家に置いてきちゃってるし、タワレコに今度、買い直しに行こうかな。
窓を開けると(叫ぶためじゃないから! もうしない、もうしないよ)、春風が吹きこんできた。
家を出て、もう半年と少し。半年でここまで来れたのなら、上出来じゃないだろうか。
私を支えてくれた宇賀神さんと、るんに心の底から感謝した。




