11~20
「お題屋さん。」様からお借りした〓とりあえず50のお題〓に挑戦してみました。今回は11~20です。
〓とりあえず50のお題〓
11. 留まらない心
深い悲しみが彼女を襲う。溢れる涙が止まらない。
両手で顔を覆い崩れ落ちる姿は恐ろしく悲観的だ。
大きくうなだれ、黒く長い髪が肩を滑り落ちる。何度もしゃくりあげて震える体。止めたくても止めきれない思いが彼女の心を満たしていく。
いずれダムのように押さえきれず決壊していくのではないかと危惧するぐらいに、留まることを知らない。
12. 背伸びする子供
我が子は早く大人になりたいらしい。
カッコよくおしゃれな会社に勤めてオフィスを構え、帰りに同僚と飲みに行き、ネオン街を練り歩くという、将来のプランを私に精一杯伝えようと頑張っている。
夜には女性と二人きりで夜景を楽しみ、一人の時にはコーヒーを飲みながら新聞を読みたいとも言う。もちろん、足を組むのは忘れない。
つまり、大人への憧れというわけだ。
私は我が子の将来が少し不安になったが、既にその真似事をしているのだ。ペットボトルのキャップを、お猪口代わりにして炭酸飲料を注いでは、ぐいっといい飲みっぷりを見せる。私にもキャップを勧めてくるので我が子に付き合っている。
「はっはっは、君もどうかね」
受け取る際ついバランスを崩して溢れてしまい、会社の重鎮のような笑い方をされてしまった。我が子よ、そこまで背伸びしなくてもいいんだよ。
可愛さ故に口を出せず、今日も酌してもらう私であった。
13. 大きな鳥
これを渡したら、きっとびっくりするだろう。折り鶴を折りながら僕は思う。
きっかけはそこに折り紙があったからという、どこかで聞いたことのあるフレーズだが、始めるとだんだん癖になってしまった。それに、僕一人がやっていたのに周りの先生方も、自由時間を使っては折り鶴に励んでいる。大の大人が揃って何をしているのだと、恥ずかしさが否めないが、僕らには時間がないのだ。
彼らがこの学校を飛び立つ日が近いのだ。
彼らに健康、生きる力を持ち続けてほしいと祈りを込めた鶴を託したい。いつの間にか僕のデスクには先生方によって乗せられたら鶴の山が出来ていた。圧巻だ。
「これを渡す、長寿と飛翔を願った鶴だ。共に羽ばたいてくれ。君たちは立派な鳥だ」
と、カッコ良くキメる自分を思い浮かべたが半分以上、涙で言葉にならないのは容易に想像できた。
14. 涙する人
いつもより、猫背な背中がさらに丸く、寂しそうに見えた。あの子は「ただいま」とも言わず風呂場に行ってしまった。沈んでいるなと確信した。
君はいつもそうだね。シャワーを浴びて、涙を誤魔化そうとするね。
目が赤いよと問えばシャンプーが目に入ったと嘘をつくよね。
元気がないねと言えば眠い、疲れたと部屋に籠もろうとするね。
元々勝ち気で強がりな君だけど、そんな様子に気付かないほど馬鹿じゃないよ。泣きたいなら泣けばいいのさ、弱音を吐きたいなら吐けばいいさ。受け止めてくれる人がいるだけ幸せなんだから。
そう胸に秘め、君に手を差し伸べた。
15. 見上げた空
バレンタインデーだ。母と妹にしか貰えない悲しき男子高校生の僕は鬱々と帰路につく。
突然、頭にこつんと何か堅いものが落ちてきた。痛くはなかったが、頭に乗っかったものを手に取ってみた。
なんとチョコだ。チロルチョコのような小さいサイズ。
――何故こんなものが空から? 訝しみ空を見上げると頭上数センチ上に小さい雲が浮かんでいるのが見えた。如何にも不自然すぎる雲は飄々と浮かんでいる。
――何故こんな近くに雲が? 恐る恐る触ってみると綿を掴む感触を感じた。
――これが雲なのか? 興味深くふわふわと握ったり摘まんだりしていると突然ピリッと静電気が走った。
――まさか、怒ったのか? この雲が……。どうやら感情があるらしく僕の動作に気を触ったようだ。
機嫌を直すために先ほどもらったチョコを口にし、ごめん、ありがとうと雲を撫でてみたら今度は板チョコを降らせてきた。機嫌を直してくれたみたいでホッとした。
しかし随分人間的な雲だ。この不可解な雲は何者なのか分からないが、とにかく今年のバレンタインデーは悲しみだけじゃないことが分かった。
僕は意気揚々と歩みを進めた。
16. 笑う人々
「あは……あははは! はははははっ」
なんてこった、また彼女のつぼに入ったのか。まったく美人なのにその下品な笑い方は止めてくれないか。
腹を抱えて脚をじたばたさせて……、仰け反りすぎてそのまま倒れるぞ。一体何がおかしいやら。
前から思っていたが君の笑いのツボが理解出来ないよ。普段はお淑やかで清楚なのにイメージが崩れるじゃないか。初めて君のその一面を見てどん引き以外の反応を見たことがあるかい。
ああ、ああ、床を叩くんじゃないよ。「お腹痛い」じゃないよ。床の方がもっと痛いよ。
君の笑い袋は厄介だ。ツボにはまりすぎてその勢いは底をぶち抜いてしまうほどだし、
周囲に笑いを誘うんだから。
ほら、君の笑いを聞いていたら、ぼくまで可笑しくなってきたじゃないか。ぷっ、はは、あははは。
17. 君、貴方、そして。
朝の登校時間、校門にはいつも通り彼が立ちはだかっていた。
「君、煙草は身体に害を及ぼすのは分かってるだろう」
「貴方は髪を染めて傷めすぎている。出直しなさい」
その堂々とした佇まいはまるで門番。しかし大きな体格に切りそろえられた黒髪、清潔な制服が、清楚で精悍な雰囲気を感じさせる。そして腕につけた“風紀"の腕章が彼というものを表現している。俺は彼に呼び掛けた。
「今日も張り切ってんねえ、委員長」
「副委員長、ゴミ拾いは終わったな?」
「へいへい、これ今日の分ね」
俺は委員長に今日の仕事である、溜めたゴミ袋を見せる。委員長は満足そうに頷いた。
「しかし前から思ってるのだが貴様は仕事をこなすが態度が軽い。見直したまえ」
「あんたが堅すぎるんですよ。つうか、なんで俺だけ貴様呼ばわりなんだよ」
「貴様は尊敬を意味する呼称だぞ? 信頼している証だが」
それ昔の話でしょ。この人いつの時代に育ってきたの。
この髪も風紀も言葉も乱さない真っ直ぐな風紀委員長のおかげで、うちの学校はクリーンなイメージに保たれている。
18.昨日見た夢
昨日見た夢の話をしよう。寝不足で疲れたからだろうか、おかしな夢を見たのだ。
何故か拳銃を持った男に追いかけられるのだ。鬼のような形相で全力疾走する姿に恐怖しオレは逃げ出した。
そこからは逃避行だ。柵を飛び越え、階段の手すりを滑り降り、高台から飛び降りる。夢の中とは言え必死だったからか、有り得ない程俊敏な動きができた。
足に自信があるが、体力にも限界はある。近くの建物に隠れ、休みをはかった。
中にいる人々も、心配そうにオレを眺めている。夢の中の人々はオレに親切で安心した。しばらくすると一人がオレに逃げるための金と荷物を渡してくれた。
これで逃げ切れるかもしれないと意気込んだ時だ。窓から拳銃の男が増えているじゃないか。建物は男達で囲まれ、降伏を命じられた。
なんてこった、もう万事休すか。オレに逃げ道はもうなかった。
後から聞いた話によると荷物を渡した人が拳銃の男に知らせたらしい。実は敵だらけだったのだ。
そういえば自己紹介がまだだったな。実はオレは今、刑務所にいて昨日ここに収監されたばかりなんだ。ああ、夢なのに記憶が的確すぎるって?
つまりはまあ、そういうことさ。
19. その原因
体がだるい。重く苦しくのしかかるような圧力を感じる。体の節々が鈍く痛みすべてのやる気失わせるのだ。
なんだろう、いったい何が原因なんだ。体調を崩したか。最近偏った食生活をしていた、身体のバランスがとれていなかったのかもしれない。
いや、占いの可能性もある。今月、健康運が最低だったことを覚えている。占いが当たることもあるかもしれない。
またはストレスか。辛いことが立て続けに起こっていた。精神的疲労は体に影響を及ぼすかもしれない。
有り得るのは誰かから移されたからか。人と接していれば菌が移るには仕方ないかもしれない。
まさか、考えたくないが幽霊に憑かれているなんてことは。体が重いと良く聞くからな。考慮した方が良いかもしれない。
しかし原因がこうもあると判断しづらいな。一体何に気をつければいいんだ。うんうんと深く考えているとだんだん頭が熱くなってきた。
そうか、分かったぞ。知恵熱か、考えすぎて熱を出すと聞くからな、あれでもそれは子供だけだって……。
そのまま意識的がすっと抜けていった。後日病院に行けば良いじゃんという友人の教えによってあの考え事が無駄だと気付いた。気付いただけマシだと自分で自分を励ました。
20. 根本的なこと
ある人は言った。1+1は2だ。1という数字に、もう一つ1を加えると2になるからだ。
ある人が悪戯っぽく異議を申し立てた。いや、田んぼの「田」でも有り得るぞ。1+1の求め方が計算だとは限らない。
ある人は別の冷静に異論を唱えた。だったら副詞の「いちいち」かもしれないわけだ。田んぼの田なんてとんちをきかせているだけだ。
ある人が閃いたように異見を唱えた。いや、よく見ると顔に見えないか? 「1」が目で「+」が酸っぱい口を表している! 彼の一言で白熱していた空気は冷え、一旦休憩タイムに入る。
なぜ彼らがこんな不毛な言い争いをしているか。1+1は何故2なのか、ふと誰かがつぶやき始めたからである。
彼らは気になることを呟くと寄って集って根本から解明しようと小会議を開く。そして彼らの満足する答えが出た瞬間に終了する。
ただの知識欲や自己満足を得るための集まりだ。
さて今回はいつまで続くのやら……。
11~20です。今回はなぜか男の子視点の話が多かったですね。前回と同じく自分の思いついたことを書いて少し編集を加えたものとなっています。よろしくお願いします。