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2-3

 太郎が居ないこと以外は普段と変わらず、気が付くと放課後になっていた。いつも通り歩成と下校することになったが、校門を出た辺りでふと吉岡の事を思い出した。朝言っていた通り吉岡は目に映らないことが自然と思えるほど存在感を消していたらしい。思い返せば目視はおろか存在自体気にも留めなかった。その徹底ぶりに感服する。それと同時に自分の置かれている状況は吉岡みたいな護衛が付かなければならない程緊迫しているのだと実感した。そう思うと急に目の前の通学路が恐ろしく思えてきた。今からでも校舎に戻って吉岡を探そうか。いや、駄目だ。朝の言葉を思い出す。吉岡は不都合が無いように存在感を消している。ならここで安易にコンタクトを取るべきではない。

「お前、今日は上の空だな。なんかあったのか?」

「いや……寝不足なだけだよ」

 大丈夫だ。きっと近くに居るはず。そう自分に言い聞かせ平静を保った。

「じゃあ、また明日」

「おう、また」

 いつものゲームセンターの前で別れると、その足で近くの人通りが少ない路地に入った。多分だが、こうすれば――

「やっと一人になったわね」

 思った通り、吉岡の声が路地に小さく響いた。次の瞬間、空から吉岡が鳥のように舞い降りてきた。片膝をついて着地する様は絶対に見てくれを意識している。意外と格好つけなのかもしれない。

「な、なんて登場の仕方だよ……」

「そんなことより、あんた自分の置かれてる状況わかってんの? こんな人の少ない路地に入るとか、馬鹿じゃないの?」

 地面についた膝を軽く払い、蒼甫を睨みつけた。

「いや、多分こうすればそっちから来るかと思ったからさ」

 わざと危険な行為をすれば、吉岡から接触せざるおえない。自分を落として体よく呼び出せるわけだ。

「あんた、本当に馬鹿。電話すればいいだけじゃない。こんなこと繰り返してたら、そのうち取り返し付かなくなる!」

「お、おう。すまん」

「あんた絶対わかってない。絶対わかってない!」

 予想以上の怒りのボルテージに蒼甫は若干驚いた。もしかして本当に危険なことをしたのかもしれない。ならば今の状況って一人になったら普通に襲われてしまうレベルの危険度なのだろうか。仮にも法治国家だぞここは。発展途上国のスラム街じゃあるまいし。

「な、なあ俺って本当にどうなってるの?」

「今後日常生活を普通に遅れるか否かの瀬戸際、そんなギリギリの境界線に立ってる」

「ふええ……」

「キモい声出すな!」

「だ、だってそんな脅さなくたっていいのに!」

「あんたには脅しに聞こえてるわけ?」

 私が言うのは事実だけ。そんな目をしていた。吉岡は蒼甫が完璧に狼狽しているが、それを男のプライドで何とか足が震えるだけに留めている様子を見ると、深くため息をついて携帯電話を手にとった。そしてワンコールするとすぐに携帯電話をしまった。

「今仲間が来るから。あんた大人しくしてなさい」

「どっか行くの? 俺家に一回帰りたいんだけど」

 蒼甫の言葉を聞くと、更に深くため息を付いた。

「本当に馬鹿ね。あんた敵が襲撃してきた家に帰りたいの?」

「ぐぅっ」

「ご両親も保護されてるし、日用品も全部施設に移したから。あんたは自分の心配だけしてなさい」

 これ以上何かいうと更に吉岡への評価を下げかねないと判断し蒼甫は押し黙った。その後無言のまま数分経った時、路地に一台のワゴンが入ってきた。白塗りで中型の有触れたワゴンだ。そのワゴンは蒼甫達の前で停車した。

「お疲れ様です、花火さん」

 吉岡は礼儀正しく運転席に向かって挨拶をする。すると、窓が自動ですーっと開いた。

「お疲れ、なるちゃん」

 そこには、有触れたワゴンの運転席には不釣り合いな小さな顔にお大きめのサングラスをかけた、中学生くらいの小柄な女の子がいた。

「お、君が名栗君だね?」

 ドアが開いて、女の子の全体像が顕になった。先ほど中学生と言ったが、訂正する。小学校の高学年。多分そこの層が妥当だ。多分トレンチコートにハット帽という不釣合いな格好だから、そのギャップで余計に幼く見えている。

「やあ、私は玉田(たまだ)花火(はなび)。よろしく!」

 サングラスを華麗に外し、ハット帽をとり胸にかざすと、右手を差し伸べながら玉田は人懐っこい笑顔で挨拶をした。蒼甫はその愛くるしさに思わず頭を撫でた。その次の瞬間に脳天へ吉岡のチョップが襲った。

「あんたは何やってんの!」

「い、いや思わず」

「はは、慣れてるよそれくらい。でも次やったら燃やすよ?」

 ハット帽をかぶり直すと、にこやかに玉田は言った。ただ目は笑ってなかった。

「すいません花火さん」

「いいよ、いいよ。取り敢えず乗って」

 蒼甫と吉岡はワゴンの後部座席に乗り込んだ。運転席の玉田は座席を最大限に前に寄せた。その様子を見ると子供が車を運転しているように見えて少し不安になった。というか、車を運転出来るということは少なくとも十八歳以上ということだ。そこは突っ込まないでおこう。

 玉田の運転する二人を乗せたワゴンはそのまま路地から商店街の本通りにでると、学校と逆側へ向かった。ふと思ったが蒼甫の家に向かわないということは多分施設に向かうはずだ。しかし今回は目隠しなどは一切無い。

「なあ、俺はずっとあの施設で暮らすのか?」

「場合によっては」

「マジか……」

「ははは。まあ住めば都って言うし。それになるちゃんも一緒だから寂しくないんじゃない?」

「え〜と……」

 反応に困り、ちらりと吉岡を見る。呆れたような顔をしていた。それには少々がっかりした。

「花火さん」

「冗談〜。なるちゃんは私のだもんね!」

「それも違いますけど」

「あはは」

 玉田の甲高い笑い声が車内に響いた。車は軽快なスピードで本道を行く。こうしていると普通にドライブをしていような気分になる。

 だが、そんな楽しい気分も束の間だった。

「頭守って!」

 叫び声にも似たその声が聞こえた次の瞬間、激しい衝撃がワゴンを襲った。


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