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2-2

「おはよう、ソウスケ!」

 ぽん、と背中を叩かれ、蒼甫は内心どきりとした。声を聞く限りは歩成に間違いないので、平静を装い挨拶をする。いくら早朝とはいえ、昨晩のこともあり神経過敏になっているようだ。

「なんだ、そんなびくついて?」

「い、いや。突然だったから」

 蒼甫は普通に学校に登校している。通学路は昨夜の事が嘘だと感じる程平穏に包まれている。しかし、確かに残る倦怠感と眠気が現実だと教えてくれる。

 早朝、吉岡に叩き起こされ、寝不足による気怠さにうんざりしながら軽い朝食をとった後、昨晩と同じように目隠しをされ車で蒼甫の家の近くの公園に連れて来られた。

「私はあんたの護衛に任命されたから。任務を比較的楽に遂行するためにあんまり学校では接触はしない。そのつもりで」

 蒼甫と話すということは普段からほぼ毎日一緒にいる吉岡の幼馴染である歩成や、昨晩いざこざがあった太郎とも話すことになる。太郎はともかく歩成は一般人だから、彼らの前では目立ったことは出来ない。

「分かった」

 ふと以前四人で談笑していた時を思い出す。あの時も吉岡は組織に所属していて、太郎も日常の裏で戦っていた。それを思うと複雑な気持ちになる。あの日のあの風景を、二人はどんな気持ちで見ていたのか。考えも及ばない。

「何?」

「いや。眠くないのかなって」

 本音が出かけて咄嗟に取り繕う。実際、ほぼ睡眠を取っていないだろう吉岡の体調が気になったのは事実だが。

「あんたと違って平気なの」

 上から目線で含み笑いをする今の吉岡はすごく元気そうだった。


「――おい、大丈夫か?」

「へっ?」

 下駄箱に靴を入れる直前で硬直していた蒼甫の頭を歩成は軽く小突いた。

「わ、悪い」

「眠そうだな」

 二年生のカラーである青いストライプの入ったサンダルに履き替えながら歩成が言った。

「ちょっと夜更かししてね……」

 昨夜の事は固く口止めされている。それ以前に信じて貰える訳がない。

「テスト期間でさえ規則正しい生活をおくるソウスケにしては珍しいな」

「パソコンしてたらつい時間を忘れちゃってさ」

「珍しいこともあるもんだ」

 本当は殺されかけた挙句半ば連れ去られたとは言えない。

「不知火君、おはよう」

「おはよう、青木さん」

「あ、フナリンおっはー」

「おは、長嶺っち!」

 教室に入ると怒涛の挨拶ラッシュが歩成を襲う。それに嫌な顔一つせず柔軟に対応していく。蒼甫は自然に歩成と別れて自分の席に座る。毎朝の変わらない日常がそこにはあった。そんな日常から自分は逸脱したのだというある種の全能感を感じた。

「ふいー」

 朝の日課を終わらせた歩成は蒼甫の右隣の席に腰掛けた。ちなみにそこは太郎の指定席である。普段は蒼甫の前の席に陣取って話たりするのだが、今日は太郎が居ないこともあり自然と話しやすい位置に座ったのだろう。

「お疲れ」

 蒼甫は苦笑しながら労いの言葉をかける。

「いやいや、モテるのは辛い」

「そういうの口に出すなよ」

「だって事実だしな」

 そう言って歩成は目配せする。その視線の先には先程朝の挨拶をしたクラス委員長の青木がいた。彼女は歩成と目線が合うとあからさまに目を逸らす。実に分かりやすい。

「それとほら、あそこ」

 そう言って今度は教室の窓側の端に顔を向ける。そこには女子が数名固まっていて、その中の一人である茶髪の長嶺に目が合うと、彼女は歩成に妙に格好つけた不敵な笑みを返す。歩成はそれに軽く手を上げて答える。

 な、そうだろう。そう言いたげな顔をする歩成を殴りたい衝動を、蒼甫は必死に抑えた。少し容姿が良くて才気煥発で女生徒からの人気を総なめにしているからって、羨ましい。

「羨ましい?」

「最高にな!」

「ははっ。……でも」

 一通り笑った後、一つ声のトーンを落とす。

「俺はお前らといるのが、一番なんだけどな」

 ああ、ずるい。そんな風に言われてしまうと何も言い返せない。そして同時に居た堪れなくなる。歩成の言う『お前ら』は、歩成に対して隠し事をしている。それは蒼甫には始末に終えない事とは分かっているが、一番と言ってくれた歩成に引け目を感じてしまう。

「そっか」

 今は素っ気無い返事を返すのがやっとだった。


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