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2-1

「疲れた……」

 精魂尽き果て蒼甫はテーブルに突っ伏した。

「お疲れ様です」

 その対面に座る田所(たどころ)と名乗る男は優しげな声で言った。

「これで全部おしまいです」

「ね、眠い……」

 公園で二人と別れた後、蒼甫は言われるがまま吉岡についていった(と言うよりは目隠しをされて連れ去られたと言った方が正しい)。到着先では着いて早々身ぐるみを剥がされ身体検査、続いて心理検査とかれこれ四時間半以上。ことが始まったのが深夜というのを考えれば疲労が蓄積して当然だ。今は小休止として入り口とテーブル以外何もない真っ白で無機質な個室に田所と二人でいる。

「仮眠室が用意してあるはずなので、そろそろ案内が来るはずですね」

 デジタルタブレットでタイムスケジュールを確認しながら田所は言った。蒼甫は顔をあげると、大きく息を吐く。思えば奇怪な事に巻き込まれたものだ――


「……つまり、太郎を標的とした敵の組織が俺を人質に取ろうとしたってこと?」

「そう。でもあんたわりと冷静ね。殺されかけたっていうのに」

 『基地』と周りの人達が呼ぶこの場所に着いてすぐ、吉岡は蒼甫の置かれている状況を大まかに説明した。太郎が外村先輩の家に仕えていて『戦場の希望』と呼ばれる程の有名人であることや、『敵』と称される組織から狙われていること。そして敵は吉岡が属する組織の敵でもあること。つまり共通の敵を吉岡らと太郎らは持つことになるが、組織と外村家の関係も良好とは言えないようだ。

「冷静というか、うまく処理しきれてないというか」

 確かに目の前で起きたことであるが、今ひとつ信じ切れない。

「まあ、これからは私達が保護することになるから。早速だけど検査受けて」

「え、もう深夜だけど」

「知ってる」

 当たり前じゃない、と怪訝な顔をする。

「いや、あのちょっと、色々有り過ぎて疲れたかな〜って」

「明日も学校あるんだから、今しか時間無いでしょ?」

 命を狙われる状況なのに学校へは行くのか、と突っ込みを入れる。だが、学生の本文は勉強でしょ、と軽くあしらわれた。不満は残るが仕方なくそのまま検査に入った。


「というか、俺はこのまま学校ですか?」

「そうなりますね。少しは仮眠をとれると思いますが」

 二時間位は眠れるか。気を抜くと今にも意識が飛んでしまいそうだ。

「そういえば吉岡はどこ行ったんですか?」

 気がつけば検査を初めてから一度も顔を見ていない。

「先ほどの出来事の報告があるそうです」

「そうなんですか。ところで吉岡はなんでこの組織にいるんですか?」

「それは私ではなく本人に聞いてください」

 不意に扉が開く。

「お疲れ様です、田所さん」

 律儀にお辞儀をして吉岡が入室した。約五時間ぶりの再開だが、もっと長く会ってないような気分だ。だが不安な状況で知った顔を見るというのは嬉しいもので、ある種の愛しさも感じる程だった。

「吉岡、どこ行ってたんだよ〜。俺寂しかったよ〜」

 気が緩んだためかついつい甘えた声が出た。すぐにはっとする。普段から女々しいのが嫌いな吉岡にこれは墓穴だ。

「キモッ。変な声だすな!」

 当然の如く吉岡は気持ち悪がる。分かってはいたが少し寂しかった。

「まあまあ、それ程彼も不安だったんですよ」

「いえ、こいつは甘やかすとつけあがるので」

 田所が苦笑しながら自分が座っていた席を吉岡に譲る。しかし吉岡がそれを丁重に辞退すると田所は、ああ、と微笑んだ。吉岡は一瞬片眉を釣り上げたがすぐに何も無かったかのように蒼甫に向き直した。

「仮眠室に案内するから、来て」

「やっと寝れるのか……」

 重い体に鞭を打って席から立つと、おぼつかない足取りで吉岡の背を追う。基地内は無機質だが清潔感があり、かなり広い印象を受ける。こんな施設が一体何処にあるのか気になるところだ。

「ここよ」

 五分くらい歩くと仮眠室についた。中は部屋の南北に二段ベッドが一つずつ設置されているだけの殺風景なものだった。

「あと二時間半で学校だから、早く寝ることね」

 それを聞くとどっと疲れが押し寄せてきた。早く寝たい、取り敢えず横になりたい。吉岡に案内のお礼を言おうとした時、ふと、蒼甫は思った。

「吉岡は寝ないの?」

 単純に考えれば吉岡は蒼甫と同じ時間起きているはずだ。体力も限界のはず。

「私は大丈夫」

 だがその普段と変わらない態度からは本当に大丈夫のように見えた。

「無理、すんなよ?」

「あんたに言われたくないわ」

「はいはい、余計なお世話でしたね。お休みなさい」

 吉岡と別れて仮眠室に入ると、すぐ右の二段ベッドに飛び込んだ。少し考え事をしようと思ったが、柔らかい布団に包まれるとすぐに意識が遠のいた。


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