8.船
イスカちゃんは僕達のパーティーの一員として認められた。まぁ、クレイノスもネフィーも人懐こい性格なので、安心だった。連携が取れるかどうかは、まだ分からないけれど。そういうのは、やって見ないと分からないし。
ともあれ、同じ部屋で寝たのかネフィーはどうやらイスカちゃんと非常に仲良くなったみたいだ。ちなみにイスカちゃんとネフィーが同室で寝たのは、パーティーの仲を深めるためにした物では無く、単純にお金が無かったからだ。だから、僕とクレイノスも同室だった。出来れば1人になりたかったが金がかかるので、仕方ない。
そして、僕達は今、トゥラタート港へ向かうため、船に乗って4人で向かっている。
只今、僕達は甲板に居て、それぞれ各々(おのおの)の時間を楽しみながら仲を深めている。
「本当に良い人材を連れて来てくれたよ、アイ。ヒーラーだなんて驚いたよ。
それに何とも愛らしい外見をしているじゃないか」
アップルジュースを汲んだワイングラスを、まるで酒を飲むかのように飲むクレイノス。
場酔いとかで酔っぱらないと良いのだけど。
「まぁ、ヒーラーが居ると居ないとでは、色々と戦闘に差があるから、僕もここまで上手くヒーラーを手に入れたのは、未だに驚きを隠せないけどさ。
そして、可愛らしい外見はそんな重要ではないと思うぞ」
まぁ、戦闘するにはそう言った物も必要なのだろう。
可愛いらしい女性のために頑張ると言うのも大切なのだろう。
そんな事を思いつつ、僕はさらに言葉を続ける。
「エンチャッターなんかより遥かに有能な存在だよ、ヒーラーは。僕なんかはイスカちゃんと比べたら……」
エンチャッターはただエンチャットを行うだけの存在だ。付加と言う名のエンチャットで敵の足を引っ張り、味方を手助けるだけの存在。
それに対してヒーラーは神を崇拝して、味方を回復する術を使う。また上達していけば大規模な治療術、神から授かりし光の魔術を使えるようになる。
エンチャッターとヒーラーでは、雲泥の差である。
今、船の甲板の窓際でネフィーと一緒に波風を楽しんでいるあの14歳くらいの女の子が、とてもそんな子とは思いきれないのが現状である。
「そんな事は無いさ、アイ。自分を卑下するのは君の悪い癖だ。もう少し自分に自信を持っても良いと思うさ」
「……そうかい。だとしても、お前やネフィーのように戦闘に優れている訳でも、イスカちゃんのように回復面に置いて頼りになる訳じゃない。
完全な後方支援。まぁ、3人に置いてけぼりにならないように精一杯努力に努めるさ」
そう言って、コップに入ったグレープジュースを飲む。
ザバーン!
突如、大きな音がネフィーやイスカちゃんの居る方の水面から聞こえてくる。
「あ、兄貴! こりゃ一体……!」
「神よ、これは一体何なのです!」
2人は大慌てで叫び、乗り合わせた人達も揃いも揃って、口々に驚きの声を放つ。
そして、僕とクレイノスもその生物を見た時は、驚いていた。
「何でこんな所に……」
「こりゃどうしてこんな所に……こんな生き物が……」
海の水面から顔を出したのは、全身が緑色の巨大な猫だった。




