7.槍使女性
『神籠』のスノート・テクシステーは良く言えば聖人、悪く言えば頑固だと言えるような女性だった。
例えばさっきの一件で分かったように、彼女は思い込んだら猪突猛進と言う気合がある。さっきの戦いだって、彼女がちゃんと話さえすればそもそも起きなかった戦いだ。彼女自身にあの全てのバグメタルを奪おうとする意志はなかったとは言え、それをジューリが理解できていたかと言うと別問題だ。彼女には言葉が足りない、けど決して悪い人ではない。
それが彼女に対する僕の印象だった。
「さぁ、『神籠』へ行きましょうか」
今だって、『神籠』への道を先導しているスノート。
帰ったら怒られる事が分かっていながらも、助けられた事に感謝しているのだろうか張り切って魔物を退治してくれている。彼女は悪い人ではないのだ。ただ言葉が足りないだけであり、それは今でも分かる。
「帰りは楽になりそうデスね、我が主」
「そうだな」
彼女の槍捌きは凄い。
クレイノスやメティアのような圧倒的な才能による物だと思わされるような物ではないものの、彼女の槍の扱いは他者を魅了する。
愚直なまでに、まっすぐな彼女の太刀筋は人間や魔物にとっては読みやすい、分かりやすい物に思えるかもしれないが、第三者や味方の立場から立ってすると彼女の槍は他者を惹きつける、綺麗な物。
今もモンスターの、マッチビートルを相手に戦うその戦い方は、綺麗だ。
相手の突進を避けるようにくるりと回転しながら相手の頭上へと跳び、そのまま流れるような動作でマッチビートルのその薄い羽を切り裂き、マッチビートルを地面へと落とす。そして空中で何もない場所なのにも関わらず、もう1段高く跳び、そのまま斬りつける。
芸術的な戦い方。
「芸術槍、対空の槍」
彼女は槍を背中に背負うと、僕達の方を向く。
「う!」
その瞬間、僕たちは後ろを向く。思った通り、そこにはさっきのと同じ、マッチビートルがもう1体。
「後ろって言うのが遅いってよ」
僕はエンチャットで自分の手に耐火耐性のエンチャットをして、マッチビートルの目を手で覆い隠す。
「ミスロス!」
「了解なのデス。我が主の手がずれないうちに、やるデス」
彼女はそう言って、手刀を構えてそのまま真っ直ぐに懐へと入り込む。
マッチビートルは身体を覆う硬い鎧のような肌と違って、中の肌はまるでスライムを触った時のように柔らかい。そしてそこが弱点でもあり、たいていのマッチビートルはその弱点を隠すために、目視で相手を見て避けようとするが、今は目を僕が覆っているため見えない。
身体を大きく振るって、なんとか僕の手を放そうとするがそうはいかない。これくらいしか出来ないのだから、これに全力をかける! 僕は必死にマッチビートルの目を押さえる。
「―――――――手刀!」
そしてマッチビートルの腹めがけて、ミスロスが手刀を放って、マッチビートルは倒れる。
「スノートさん、『う』だけでは分かりませんよ。普通は」
「……すいません。咄嗟だったので」
まぁ、あの状況だと後ろの事を示しているしか思いつかないから分かったけど。
そんなこんなで、僕達はこのナルーニャ山を下って、『神籠』のあるヒュペリヒトへと向かって行ったのであった。




