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1人では戦えない僕と、仲間達  作者: アッキ@瓶の蓋。
第四部 戦火

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6.兄奮闘

「うぅ……。無事で済んで良かった。早くこれを姉御の所に渡さないと」



 私の名前はジューリ。年齢は8歳。ヒストロリア近くにある街、エメレンシアと言う街に住む蝙蝠の祖先をもつ人間だ。

 エメレンシアにはそう言った人間が数多く居て、人々は私達の事を『吸血鬼族』と呼ぶのだと言う。ふもとの街の人間には蝙蝠のような翼が生えていないため、この翼が『吸血鬼族』の証だなと理解した。

 私には2歳歳の離れた妹が居る。名前はエミリー。



 エミリーと私は街でも評判の仲の良い兄妹として有名だった。幼い頃に両親が急に蒸発したかのように消えてしまい、周りの大人の助けがありつつも2人で支え合って生きていた事が仲の良い理由の1番の要因だろう。

 私はエミリーを1人でも仕事が出来るようになるまでは育てようと幼い心ながら決心していた。



 そんなエミリーが先日、難病を患った。感染経路は不明、病状は日に日に悪くなる一方だった。

 もう駄目だと諦めかけた私の前に現れたのが姉御だった。



 姉御は自身の事をモグリの医者だと名乗っていた。モグリ、と言う意味が分からなかったが、大人達から聞くと医師免許を持たないと言う意味らしい。確かに姉御は医師免許は持っていなかった、見せてくれと頼んだが曖昧に微笑むだけで見せてくれなかったからだ。けど、その医師としての腕は確かだった。

 街の医師よりも遥かに高い医師技術を持ち、エミリーの病気に効く薬も処方してくれた。エミリーの病気は日に日に良くなった。



 私はそんな姉御を妹を助けてくれる恩人として尊敬していた。



 しかしある時からエミリーの回復の速度が遅くなった。順調に回復の兆しは見えるのだけど、前のような速さではなかった。私が姉御に事情を聞くと、手持ちのバグメタルが無くなったからだと答えた。



 バグメタルはヒストロリアでしか採れない貴重な鉱物で、大人達の採集に付き添ってだいたいどう言う物なのかは知っていた。エミリーの病気を治すにはそのバグメタルが必要で、今はぎりぎり持っているがもう少しで無くなり、無くなるとエミリーは死ぬのだと言う。

 けれども姉御はエミリーの看護で忙しそうにしており、とてもバグメタルを採りにいけそうになかった。そこで私が取りに行く事にした。



 魔物を操る街伝統のメガホン兜を付けて、金の甲冑を身に着けて防御を固めた。そして風呂敷を持って私はヒストロリアに向かった。


















 ヒストロリアの採集は上手く行った。吸血鬼族の超音波でだいたいのバグメタルの位置を掴んで採集していく作業は効率的でとても良かった。問題があったとすれば、姉御からいくつバグメタルを採集すれば良いかを聞いていなかった事くらい。だが、沢山取って行けば良いだろうと思い、沢山採集していた。そんな中、私を見つめて目を輝かせてきたマフラーの人間を追い払おうとして捕まえて、その仲間と言う2人にこっぴどくやられて、バグメタル2つをあげたが問題は無い。

 これだけ多く持って帰ればエミリーの病気も治るだろう。それに彼らも2つだけで良かったのだから万々歳だ。



 私がエメレンシアの街にある自宅へと帰って来ると、中から1人の女性が出て来た。

 薄い紫色の瞳の上に同じような色の眼鏡をかけた、どこか病弱そうなイメージが感じられる女性だった。猫耳のような可愛らしい耳の付いたフード付きの黒いパジャマは非常に愛らしかったけど、腰に付けた髑髏のアクセサリーは非常に悪趣味だった。



 妹の友達じゃないだろうから多分、姉御の友達だろう。そう思った私は特に気にも止めなかった。なにせ姉御にこれを届ければ、妹の病気は治るのだから。



 家に帰った私を姉御は心配そうに見つめていた。姉御の姿は前と変わらず、美しい幻想的な姿だった。



 流れるような銀髪、血色の良さそうな肌とどこを噛みついても美味しそうな太り過ぎでも痩せすぎでも無い理想的なボディライン。私達、『吸血鬼族』が狂ってしまいそうなほど彼女、モグリの医者、ドクモ・デル博士はいつものような瞳でこちらを見つめていた。



「大丈夫かい、ジューリ? しばらく顔を見せないんで心配してたんだよ?」



「あぁ、大丈夫だよ、姉御。なにも問題は無い」



「もう……。私の事は姉御ではなく、Dr.ドクモで良いと前から言っているのに……」



 と頬を膨らませながら言う姉御。Dr.ドクモと言う呼び方よりも彼女には姉御と言う呼び方の方が相応しかった。だから私は姉御と呼んで慕っていた。



「あれ……? そのバグメタルはなに? もしかしてエミリーちゃんのために?」



「あぁ、姉御が治療に要るって言っていたから! これだけあれば足りる?」



「うん、足りすぎるくらいよ。早速、そのバグメタルを貸して頂戴。治療を開始するわ」



 そう言って、姉御はエミリーの治療を始めた。その姿はまさに女神のように美しかった。




 数日後、エミリーの容態は良くなり、病気は完治。姉御は姿を消した。

 姉御に最後、挨拶できなかったのは残念だが、私はエミリーを救ってくれた英雄、ドクモ・デル博士の事を一生忘れないだろう。ありがとう、姉御! また会う時は精一杯感謝の意をあなたに伝えます!


















「うぅ、吐き気がする……」



 エレメンシアから遠く離れた野原で、ドクモ・デルは居た。

 さらさらの銀色の髪を腰まで伸ばして、琥珀色の瞳は鮮やかで綺麗だ。スレンダーと称される身体つきも、彼女の幻想的な美しさを高めている。そんな彼女の着ている服はただのストライプのシャツに白衣を羽織っただけの物だが、彼女の美しさの前ではそれも高い評価を得るための部品に過ぎない。

 そんな彼女は吐き気を覚えてうずくまった。



「吸血鬼族とかマジ勘弁。あんな所、もう二度と居たくないわ」



「君の吸血鬼族嫌悪は相当の物だね」



 と、そんなドクモ・デルに近づく女性。誰あろう、その人こそジューリが先ほどあった人物、少し前に製作者である、魔女帝国のヴィシュヴェテル・アシェンダに『藍鴉』に任命されたダークブルー・レーベンであった。

 そんなレーベンの顔を見て、ドクモは嫌そうな顔をする。



「レーベン……。いくらあの吸血鬼(ゴミ)一族がバグメタルを取るのが得意だからと言って、私にその任務を任せる? 私は吸血鬼族が嫌いなのよ」



 彼女は昔、吸血鬼族に大変な目に合わされた。それゆえ、彼女は吸血鬼族の事が吐くほど嫌いなのだ。レーベンはそれを知った上で彼女に吸血鬼族と接触して、バグメタルを取ってくるように命じた。それがレーベンは無性に腹立たしかった。



「それでも仕事と割り切ってやる君は称賛に値するよ、ドクモ。しかもエミリーに自ら病気を感染させるだなんて、君の恨みも相当なものだね」



 それを聞いて、ドクモはさらに嫌そうな顔をする。



「あの子の事を思い出せないで頂戴。私は今でも腹立たしいのよ。彼女の苦しむ姿を見る時は楽しみに打ちひしがれてたけど、自ら治すと言うのは吐き気もするほど嫌だったわ。なにせ、あの毒は”私が感染させたのだから”」



 そう言いながらドクモは腕を振るう。その腕には紫色の、明らかに有害だと思われる毒が彼女の腕の毛穴から出ていた。

 エミリーの病気の原因。それは彼女の毒だ。彼女自身が毒をエミリーに空気感染で意図的に流し込み、毒を弱めながら彼女の治療という名の監視をしていた。バグメタルが要るというのも嘘。本当は効率的にバグメタルを大量に入手するための、ただの嘘である。



「ククク……。まぁ、バグメタルを沢山集めた事は称賛に値するよ。ワとしては仕事と割り切って、嫌いな者に接する姿も感動したよ。

 ヴィシュヴェテル・アシェンダの作成した魔物の1体、『毒』、『蜘蛛』、『モデル』の3つを重ね合わせて生まれた、ドクモ・デル。

 良い仕事をしてくれて感謝する。あと、君の行動は酷く悪趣味だと思うよ」



「あなたには及ばないわよ、最低最悪の悪趣味を持つダークブルー・レーベンさん」



 2人の女性は草原にて、お互いの悪口を言った後、笑いあう。



「じゃあ、次の仕事と参ろうか。ドクモ」



「あなたとなら退屈しそうにないわ、レーベン」



 2人は手と手を取り合い、次の目的地を目指す。

 次の標的、それはヒュペリヒトにある『神籠』。

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