5.誤解
「悪いのはこっちの方です。私は出来る限りバグメタルを取ろうと思ってそれを強引に全部奪おうと言う感じの行動をしたのならば、私が抵抗するのも当然です!」
頭にメガホンを載せた金の甲冑を着た、背中に蝙蝠のような羽を生やした8歳くらいの男性、ジューリはそう言い放っていた。そう言われた白と黒のバーテンダーのような服と、首には藍色のマフラーを巻いた平均的な体格の女性、スノート・テクシステーはバツが悪そうな顔をしていた。
「……そう言えば、2個だけ必要なんだったんですが、いくつ必要かと言うのを言ってませんでした」
「2個だけならばそう言ってくれないと、私、怖かったです。全部取られるかと思いましたもの」
こうやって2人の事情聴取をしていたのだが、いやな事が分かってしまったな。
勘違い。勘違い故にこんな事が起きてしまったのか。
「我が主。これ、どちらかと言うと必要な個数を明確に伝えなかった、スノートさんが悪いのでは?」
「……だな」
別に僕は『神籠』の彼女を救出して欲しいと言う依頼は受けていたが、彼女の罪の弁護をしてほしいとは頼まれなかったので弁護はしない。
「まぁ、ジュートさんもバグメタルを少し独占しすぎたと言う事もあるんじゃないかな? ここしか採れないにしても1人でそんなに独占したら、他の人に行きわたらなくなるじゃないか」
「うぐっ……! た、確かにその通りです。面目次第もございません。独占は今回限りにしますので、許してください」
まぁ、彼は8歳くらいだから止め時が分からなくなってしまったのだろうな。
「じゃあ、ほら。ジュートさんはスノートさんにバグメタルを2個渡してもらえればすぐ帰って良いから」
「……2個くらいなら、まぁ……。良いでしょう」
そう言って、僕の手にバグメタルを2つ置くジュート。そしてジュートは大量のバグメタルが入った風呂敷を背負ってそのまま帰って行った。
「さて、と。スノートさん、僕はあなたが『神籠』になかなか帰らないから出された、捜索の依頼を受けたアイクールです。もう要件も終わりましたし、そろそろ帰りませんか?」
「……はい。帰ります。従います」
彼女の言葉に覇気は無かった。どれだけ落ち込んでいるのだろう?
まぁ、とぼとぼとだけど自分で歩く意思はあるから大丈夫と言えば大丈夫だろう。
「ミスロス、じゃあ帰るぞ」
「了解デス、我が主。あっ、帰りは剣の状態で良いデスか?」
間髪入れずに「楽したいデスので」と付け加えるミスロス。それを言わなくても別に短剣の重さくらいならばどうって言う事も無いと思っていたが……。
まぁ、一言多いくらいならば別にそこまで怒らなくて良いだろう。
「まぁ、良いけど」
「じゃあ、失礼するデス」
ミスロスは人型から短剣へと戻り、再び僕の腰に指される。
「さて、と。僕はスノートさんに何も追求する気もないから、別に安心していいよ。これ以上は追及する気はないから」
パー、と顔が明るくなるスノート。
「まぁ、『神籠』のギルドメンバーがどうするかまでは分かりませんけど」
そう言うと、すぐに顔色が暗くなった。明らかに落ち込んでいる。
とぼとぼと歩くスノートを速く帰らせるようにと、僕は彼女の背中を押してとぼとぼと進んで行った。




