4.救出劇
一応、僕はヒストロリアで『神籠』のメンバーを探しに来たはずである。
「なぁ、ミスロス。そのメンバー、あいつじゃないかな?」
「多分、違うと思うデス。いや、そうと思いたいデス」
目の前には藍色のマフラーを巻いた白黒のバーテンダーのような服を着た、おさげの黒髪の日本人形のような女性。そんな女性は眼を閉じてしまっていて、モンスターの手に捕まっていた。どうやら捕まってしまったために、帰れなかったみたいである。
そんな捕まえているモンスターは、緑色の苔に覆われた巨大な球体のモンスター。球体の身体からはぬめっとした緑色の蛸のような触手が出て来て、その蛸のような触手がそのマフラーをした女性を捕まえていた。そのモンスターの周りには頭にキノコを生やした白い始祖鳥のようなモンスターがクワクワと数体囃し立てていた。
その近くには黒光りする気色悪い虫のモンスターが1人の少年を囲んでいた。背中に蝙蝠の羽、頭にはメガホンを載せた金の甲冑を着た少年。その少年がマフラーの女性をキリッと睨み付けていた。そしてこっちに気付いたのか、こちらも睨み付ける。
「むっ……! この女性のお仲間さんですか? また私を狙って来ましたか!
まぁ、良いです。シソトリン達と、クローチ達。やっつけろ!」
「キー!」
「クロー!」
そう言うと、キノコを生やした始祖鳥のようなモンスター、マッシュソチョウと黒光りする昆虫型のモンスター、ゴキブリット達が向かって来た。シソトリンとクローチと言うのは、あの少年の考えた彼らの呼び方だろうか?
「――――――じゃあ、僕がゴキブリットを担当しよう」
「マッシュソチョウは私がやるデス」
「はっ、何を……」
言う前に僕はゴキブリットを撃ちぬく。倒れるゴキブリット。このモンスターは体力はある意味ゾンビよりも低いのだが、無駄に生き返りまくるモンスターである。けれども、凍らせることによって止めを刺す事が出来る。その事を知っていた僕はすぐさま氷の弾丸で凍り付ける。
マッシュソチョウは頭にキノコを生やしたモンスターであり、鳥型モンスターの中でも過去の遺物扱いされるほど古いモンスターだが、ただそれだけのモンスター。ミスロスの敵では無く、一瞬にしてばらされる。
「なっ……! 私がテイムしたシソトリンとクローチが……。えぇい、コケオドシ、やってしまえ!」
と、苔に覆われた巨大な球体のモンスター、コケオドシがマフラーの女性を掴んでいる以外の蛸のような触手を伸ばす。そしてその蛸のような触手はミスロスによって弾かれる。
ミスロスは蛸のような触手を伝って、そのまま巨大な球体のような本体へと走る。
「いかせるか! コケオドシ、右だ!」
右に振るわれた触手がミスロスを襲う。その先にはマフラーの女性。「仲間か?」と言っていたから、仲間だと勘違いして攻撃しないとでも思ったのだろう。だが、その人は仲間じゃない。
「―――――――せい!」
と、触手の先だけ手刀で斬るミスロス。緑色の血が飛び散り、ミスロスの身体を緑色に染め上げる。そして落ちて来たマフラーの女性を捕まえる。仲間じゃないが、助けなくてはいけなかっただけ。気絶しているみたいなので、そのまま落とした。それをキャッチする僕。
両腕に物凄い衝撃がかかり、腕が折れそうな感覚。それをなんとか和らげようとわざと転んで、衝撃を薄れさせる。救いに来た女性のせいで腕が折れたなんて、救われた方からしても溜まった物じゃないだろうし。
「そして、これで終いだ。プロテクトダウン!」
僕がエンチャットの呪文を巨大な球体全体にかける。プロテクトダウン、その効果は
「――――――――一定時間の圧倒的な防御耐性低下」
「……斬りやすいのデス」
そしてまるで豆腐のように、本来ならば硬い樹木のような身体をミスロスの手刀によって細切れにされるコケオドシ。
「そんな……こんなあっさり……。うぅ、よくも! よくもー!」
と、メガホンを載せた少年は懐から短刀を取り出し、脇に構えてこちらに一直線に向かって来る。そんな攻撃、
「銃には無意味」
遠距離射撃。エンチャッターなので威力も大してない、モンスターから憎しみを得るためだけのただの威嚇射撃程度の攻撃によって、射撃を受けたメガホンを載せた少年は眼を回して倒れた。
……一応、甲冑を狙ったはずなんだが?




