0.鴉
「――――――計画、第1次終了。
あぁ、面倒です」
ヒュペリヒトから少し離れた村、ラクシュレイヤにある、経営に失敗し多くの幹部が死んでしまったと言う理由で潰れて、廃れて、壊れた廃ギルド、『プロセウトル』の会議室で1人の女性が「ふぅー……」と溜め息を吐いた。
「まさかブルー・クロウがやられるなんて……。
やられるにしたって、もっとタイミングとかを感じて死んでくれると嬉しいのにです」
海のような濃い青色の髪をショートカットで切っていて、薄い紫色の瞳の上に同じような色の眼鏡をかけた、どこか病弱そうなイメージが感じられる女性。身体全体が細く、華奢で、今にも折れて、死にそうなくらい病弱なイメージが感じられる。猫耳のような可愛らしい耳の付いたフード付きの黒いパジャマを着た女性。そしてその腰には髑髏のようなアクセサリーと、骨で出来た、と言うよりも骨を加工して作っただろう長刀を反対の腰に指している。
「まぁ、彼女は仕事と私情を割り切ってなかったですからね。
それも当然と言えば当然です。
きちんと仕事とはそうやって割り切ってやるモノです。
まぁ、それを今言っても仕方がないです」
そう言って、彼女はとことこと歩き、壁際にあったスイッチを入れる。スイッチを入れると会議室を真っ暗にしていたカーテンがするすると開いて、部屋が明るくなっていく。
彼女は窓際に近付き、外を見る。外を見ると空を真っ黒に覆っている黒い雲が白い雪がしんしんと降りつつ、地面を真っ白に染め上げている。
「少しの遊び心を調味料として入れるワみたいならまだしも、完全に遊んでるクロウはすぐ死ぬと思ってたです。
物事は割り切らないと、いけないです。
男と女。
仕事と私情。
海と山。
生と死。
全ては割り切って、区別して、類別して、種別して、部別して、類別して、種別して、選り分ける。
会話も、行動も、言動も、思考も、万物を、選り分ける。
それが人の真理です」
彼女はそう言いながら、濃い藍色の三角帽子を被る。三角帽子には『D.R.』の二文字が刻まれていた。
「ブルー・クロウさんがお亡くなりになられたですから、『鴉』はワが継ぐのですか?
だったらぼちぼちとワは頑張りますです。
いや、やっぱり別の人に責任を―――――」
『D.R.』、合成魔物の1体であるダークブルー・レーベン、通称『藍鴉』は「わはは……」と廃棄処分となったギルドで笑っていた。
「相変わらずだね~、君は」
と、いきなり声が聞こえたかと思うと、壁に複雑怪奇な紋様が浮かび上がり、そこから人が現れた。
紫色の髪を肩の少し下辺りまで伸ばした、紫色の瞳を持つ整った顔立ちの、黒地に赤いラインの入った軍服を着た美魔女、ヴィシュヴェテル・アシェンダである。
「おやおや?
ワの製作者ではないですか。
どうしてここへ?」
「あちきがここに来たのは、ダークブルー・レーベン――――――お前を次の『鴉』にするために来たの~」
「……。
決めました。
嫌です。
ワはそんな面倒な事は、御引取願います」
と、明らかに嫌そうにダークブルー・レーベンは手を前に出して嫌がる。
「そう言わないで欲しいな~。そもそもあちきはブルー・クロウが『鴉』の名を襲名する事には初めから反対だったの~。
だって、ダークブルー・レーベンの方が、あんなのよりよっぽど可笑しくて、 よっぽど狂ってるから~」
「……。
過大評価だと言っておくです」
「……。とぼけるならとぼけたままで良いよ~。どちらにせよ、合成魔物は狂っていた方が良いのよ~。あちきは作る魔法生物に毎回、目的を持って作るの~!」
「へぇ、そうですか。
聞いてないんですが」
「石炭戦隊モエレンジャーは戦隊らしさ、ヤハリ・サソリ・デ・ナイトは騎士らしさと言った具合に、あちきは自らが作るモンスターは必ず目的を持って作成してるの~。
そしてそれは――――――合成魔物達も一緒」
「……」
「魔物と人を元にして作るんだから、それ相応の物じゃないとチルドレートも怒るの~。何せ、後で大事な意味も持つんだから。まぁ、それは後にして……。でね、でね、合成魔物達は『狂っている』のを主題にして作ってるの~」
そう言って彼女は軍服から3つの色が塗られた石を取り出した。
緑色の石、黄色い石、そして赤い石。
「グリーン・キャットはどんな汚い仕事でも笑ってやってたわ~。そう言う所ではもっと暗い表情の方が本当は似合ってるけど、そんな汚い争いの場で笑ってるのは狂ってると思うし。それはそれで良いのよ~。
まぁ、この前死んじゃったけど~」
ヴィシュヴェテルは軍服からハンマーを取り出して、緑色の石を粉々に砕いていた。それを無言で見つめるダークブルー・レーベン。
「イエロー・スパイダーは立場が狂ってるし、レッド・モンキーはまず存在自体が狂ってるし~」
そう言って、彼女は黄色い石と赤い石を軍服の中へと入れる。そして青い石と藍色の石を服の中から取り出した。
「ブルー・クロウの生物を傷つけて辱めると言う性癖は、確かに狂っていて可笑しいと思うよ。けれどもそんなブルー・クロウでも、”あなたには及ばないし”」
彼女はポイ、と青い石を放り投げる。青い石は宙を舞い、地面で跳ねて粉々に砕ける。
「―――――――――だからダークブルー・レーベンは『鴉』の名に恥じないように頑張って」
「あぁ、分かりましたです。
元々、製作者には逆らえないです。
作られたワは上官の命令を聞くだけです。
けど今はちょっと楽しい事をしてるんですけど」
「じゃあ、それをやりながらでも良いから、この紙に書いてある事もお願いするよ~」
そう言って、ヴィシュヴェテルはダークブルー・レーベンに書類の束を渡す。
「……へぇ~。
分かりましたです。
出来る限りならやらせてもらうです」
「じゃあ、よろしくね」
そう言って、ヴィシュヴェテルは壁に魔法式を書いて彼女は帰って行った。
「はぁ~。
ワはそんなにですか……?
少なくともブルー・クロウよりは、正常だと思うんですけどね。
まぁ、やる事はやらないとです」
そう言って、ダークブルー・レーベンはゆっくりと腕を伸ばして作業を開始した。




