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1人では戦えない僕と、仲間達  作者: アッキ@瓶の蓋。
第二部 冒険開始

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18.転落

 宙に浮かんでる僕、アイクール・パルジャ。いや、これは正しい表現では無い。正確に言うと、蜘蛛の糸によって宙に浮かばされていると言うのが正しい表現だ。

 僕は蜘蛛の糸、それもかなり薄く見えないような糸で、そしてかなりの粘着性を持つ蜘蛛の糸によって吊るされている。



 そして目の前の遥か下、崖の上には僕をこんな目にした合成魔物(キメラ)、イエロー・スパイダーの姿がある。

 金色の髪を腰まで伸ばした、金色の瞳の黄色い顔の女性。

 黒いボンテージ服を着ており、首には紐が付いた金色の針を付けている。

 スタイル抜群のモデルが羨むほどのモデル体型で、腕には大量の金色のアクセサリー、そして金色の薔薇(ばら)の髪飾りを金髪の長髪に付けている。そして下半身は黒い巨大な蜘蛛(くも)のような物になっている。そして8本の蜘蛛の足には1本ずつ、『Y. S.』と言う文字が書かれている。

 そんな女性は巨大な蜘蛛の足をカサカサと動かしながら、大きな鉄の支柱に蜘蛛の糸を巻き付けて行く。手から蜘蛛の糸を出しているようで、蜘蛛の糸は大きな鉄の支柱にくるくると巻き付いていく。そして鉄の支柱に糸を巻き終わったイエロー・スパイダーがこちらを見つめて来る。



「気分はどうですか、アイクール・パルジャ?」



「あまり良いとは言えないな、イエロー・スパイダー」



「なら、上々です」



 と、苦笑しがちに言うイエロー・スパイダー。

 そんな何気ない動作にも、少し高貴な雰囲気が感じられる。何でだろう、他にも人を惹きつける魅力と言うか、神秘的な雰囲気が……。

 ……まぁ、それはあまり考慮しなくても良いんだけれども。



 あの時、リュウグウカブキ・マキナと共に現れたイソカブキンチャク付きのニッチクラブを倒そうとするメティアとクルスの援護をしようとしたのだが。

 その瞬間、透明化したイエロー・スパイダーに口に糸を巻き付けられて、そのままこの崖へと連れて来られて今のように空中に吊るされたと言う訳である。



「『緑猫』は巨大化の薬で、『黄蜘蛛』は透明化の薬と言う事か。まさしく魔女が作る薬の定番だな」



「……正確に言わせて貰えれば、『緑猫』の使っていた薬は『膨大薬(ビッガー)』、私が使っていた薬は『透明薬(クリアー)』。そして『赤猿』が使うのは『成長薬(グロッパー)』と言った所でしょうかね」




 「ふー……」と溜め息を吐く『黄蜘蛛』、イエロー・スパイダー。



「まぁ、どうでも良いんですけれども。あなたとの会話がどうでも良いと思ってくれている理由はそちらで察してください」



「あぁ、分かるよ。さっきは完全に暗号みたいな事で会話をしていたのに今は普通ですし」



「まぁ、それも理由の1つですけどね。あれは単純に長期の喋りに向かないので、会話時は出来るだけしないようにこの前ある男との取り決めなので」



「……ある男、ね」



 いったい誰の事なのやら。まぁ、動けないしそれ以上は無理なのだが。



 向こうで雷の剣がリュウグウカブキ・マキナへと刺さり、黒い煙を天高く昇っている。

 どうやらメティアが魔法でリュウグウカブキ・マキナを倒したみたいである。やっぱり流石と言うべきか。



「もうやられましたか、リュウグウカブキ・マキナは。まぁ、あんなユノセティ宿泊地から持って来た以上かなりガタが来ていたのは事実でしょうし」



「ユノセティ宿泊地……」



 なるほど、あの時メティアが言っていたホテルのロビーに現れた大型機械族の魔物はあのリュウグウカブキ・マキナだったとは。居ないと思ったらこんな所に来ていたとは。



「さて、下準備は完了です。と言う訳で、あなたがどうしてこのような目に合っているのかを質問形式で言っておきましょう。ではまず問1、私達『合成魔物(キメラ)』の中で1番強い魔物は誰でしょう?」



「質問形式……。悪くない手だ。

 敵と馴れ馴れしく喋るよりかは、問題の方が遥かに良い」



「でしょう? では、問1のお答えは?」



「それはレッド・モンキーだろう。レッド・モンキーが自身で言っていたし」



 それに王国の軍隊をたった1人でほぼ全滅と言う破壊力を見せつけたし、事実なのだろう。



「えぇ。レッド・モンキーさんです。あの人は事実上、戦闘(・・)で死ぬ事は無いですから」



「不死、と言う意味か? ――――――いや、違うか」



 いや、あくまでも戦闘で死ぬ事は無いと言う意味で言っていた。

 と言う事は戦闘の場合はどんな場合でも死ぬ事は無いと言う事? どういう意味かは分からないが覚えた方が良い事なのだろうな。



「では、問2。レッド・モンキーさんは私達の組織で最強と言う位置付けなのですが、この間の戦いで右腕を切り落とされました。果たして今の彼女は、最強と呼べるのでしょうか?」




「それは……無いだろうな」



「でしょうね。最強とは文字通り、最も強いと言う事。もしも体調が万全じゃなく、相手もそれ相応の実力者に負けたのならばまだしも、万全の体調で、しかもその傷を付けたのが補助職のエンチャッターの君、アイクール・パルジャなのですから」



 戦闘に不向きなエンチャッターに腕を切り落とされると言う事は、最強とは程遠いか。

 だから今のレッド・モンキーは、『最強』では無いと言う事か。



「では問3。今、レッド・モンキーが『最強』の名を取り戻すために君に再戦を挑んで、君に勝ったとしたら、レッド・モンキーは最強と呼べるでしょうか?」



「それは……違うな。例え勝ったとしても、『最強』の名は取り戻せないだろう」



「でしょうね。『最強』はそんな事では取り戻せないんですよ」



 そう言いながら、彼女は蜘蛛の糸で巻きつけた大きな鉄の支柱を持ち上げる。大きくて重そうな鉄の支柱だが、恐らく巻き付いている蜘蛛の糸で重さを制御したりしているのだろうか。



「問4。私の実力はレッド・モンキーさんの実力に比べたら劣っている? それとも優れている?」



「それは……レッド・モンキーが『最強』だったのですから……」



「えぇ。私の実力はレッド・モンキーさんに比べたら、遥かに劣ります」



 その瞬間、僕目がけて風の刃みたいな物が迫って来る。恐らくメティアが放っただろう、この蜘蛛の糸を切るための魔法である。

 そしてその魔法は、蜘蛛の糸に当たった。しかし蜘蛛の糸は切れかかるが切れそうには無かった。



 向こうでメティアの大きな声とクルスのそれを制止する声が聞こえて来る。どうやらもし当たったらどうするんだと言う、メティアに対する制止を促すクルスの声だろう。



「そろそろフィナーレですかね。これ以上時間をかけると、メティアさんが私を殺すための魔法を放ってくる可能性が大ですから」



 「よっと……」と言いながら、大きな鉄の支柱を僕へと向けるイエロー・スパイダー。そしてその鉄の支柱を僕のその胸元へと向け、



「奥儀、ダーツショット」



 彼女はそう言って、その鉄の支柱を一直線に放つ。放たれた鉄の支柱は一直線に僕の胸へと向かって行き、



「ぐっ……!」



 ――――――――――僕の胸を貫いていた。



 血が心臓からどろどろと流れ落ちて行き、体温が徐々に下がって行く。手の感覚がどんどんと無くなって行き、だんだんと意識が薄れて行く。



「では問5」



 僕の身体から蜘蛛の糸が切れて行く。イエロー・スパイダーが出したこの糸は、イエロー・スパイダーの手によって取れるように設計されているのだろう。そんな事も他人事に思えるくらい、今の僕はゆっくりと宙から海へと真っ逆さまに落ちて行く。



「―――――レッド・モンキーさんよりも実力が劣る私が、レッド・モンキーさんを傷つけた君を殺せば、レッド・モンキーさんの勝負はただの偶然と言う事で片付けられますか?」



 その答えを出せないくらい、僕の意識は薄かった。と言うか、その言葉を放つだけの体力が今の僕には無かった。




「無回答と言う事で、不正解ですね。正解はYes、です。

 レッド・モンキーさんは偶然君にやられたと言う事になります。



 これがあなたを拉致し、殺した目的です。ご理解いただければ幸いです。

 では、アイクールさん。失礼いたしました」




 そしてイエロー・スパイダーは消え、僕は海面で強烈な衝撃を受け、そのまま意識を失った。

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