8.宿泊施設
「皆様、初めまして。私、このユノセティ宿泊地の支配人にしてクルス・ウルウスの兄のエレーマ・ウルウスでございます」
メティアが作った仮設ハウスからしばらく歩いた僕達は、夜になってようやくユノセティ宿泊地に辿り着いていた。
そしてユノセティ宿泊地の1番大きなホテル、クルスホテルから出て来たスーツ服の男性はぺこり、と頭を下げた。
緑色の髪を1つに結ったポニーテールのような髪型をした青い瞳の童顔男性。男性にしてはかなり背が低く、130cmほどの高さでスマートな体躯をしている。黒いスーツ服を着ており、頭には黒い帽子を深く被っている。そして『エレーマ・ウルウス』と書かれた腕章を腕に付けている。
ウルウス王家長男、エレーマ・ウルウスがそこには居たのだった。
「あっ、どうも。お邪魔します」
「お世話、になり、ます」
と、僕とメティアは言い、ぺこりと頭を下げた。
この人が……ウルウス王家長男のエレーマ・ウルウス。28歳……か。
28歳にしてはかなり背が低いし、その割に大人びたと言う感じが……。
「久しぶり、エレーマ兄さん」
「おや、クルス。また一段と老けたんじゃないかい? まぁ、それは良いんだけどね。前もって連絡してくれないと困るじゃないか。これでもサービス業ホテル種1位を目指しているんだからさ」
「そう言いながら、きちんと部屋を取ってくれる兄さんには感謝してますよ」
そう言いながら、クルスはエレーマの手から『203』と書かれた鍵を取り、
「じゃあ、先に失礼するよ」
と足早に上へと階段を昇って上へと向かって行く。
「あっ、クルス。305号室にフィンザも居るから挨拶はしとけよ」
「止めとくよ。後々、めんどいし」
そう言って、クルスは「じゃあ、な」と言って上の階へ向かって行った。
「全く……。クルスは仕事熱心な癖して、家族サービスがなってないよ。まぁ、ここはお兄ちゃんとして弟の成長を喜ぶべきなんだろうね……。うんうん」
と、エレーマはポケットから白いハンカチを取り出して、目元の涙を拭う。
と言うか、130cm程度の身長で目元の涙を拭っても子供っぽいとしか言いようが無いのだが。本人は至って真面目なんだろうが、その身長でスーツ服を着てると子供が大人の真似をしてるようにしか見えないんだけど……。
「君達もありがとうね、弟に付き合ってくれて。これからも弟とより良い友達で居て欲しいな」
涙目をハンカチで拭って懇願してる姿は、弟を心配する兄と言うよりは、兄の今後を心配する弟のように思うんだけど……。
「ささっ、お2人さん。豪華なディナーを用意しているので、こちらへ」
エレーマさんの案内に沿って、僕達はホテルの奥へと向かって行った。
「あの、少し、質問、がある、んですけど」
「あぁ、メティア様。恐らく疑問に思っているのは、私の発育の事でしょうか?」
「コクコク……!」
と、メティアは頭を大げさに振る。そんな彼女は何かの弾みで頭が取れてしまいそうなほど、頭を振っている。
「えっと……だね。まぁ、それには色々と事情がありまして。お客様と致しましてもその辺りにはお答え願えます。またクルスとの事情も考慮してくださいますと」
とエレーマはぺこりと頭を下げて、これ以上は聞かないで下さいと言っていた。つまりは自身の事や王家の事には質問しないでくださいって事か……。
「じゃあ、僕から2つばかし質問します。この施設、防犯施設とかは大丈夫なんですか?」
ここ、ユノセティ宿泊地は幽霊族の魔物の名所だった場所。夜になったらこのホテルに幽霊族の魔物が攻めて来られても困るんだけれども……。
「その辺りは大丈夫さ。3年前に私が浄化の魔法でこのユノセティに居る幽霊族魔物をまとめて浄化しておきましたから。それ以来、ここでは幽霊族魔物の目撃証言はありません。
まぁ、他の魔物は見ますけれども、その辺りはここと契約してる狩猟ギルド、『守りの盾』が何とかしてますから」
ギルド、それは同じ目的を持った集団が同じ目的のために邁進する集団。
魔物を狩るのを目的とした物や、物を採取するのを目的とした物。商売を目的とした物や、武器を売買する物まで多種多様に、ニーズに合わせて存在する。
ギルドの規模はギルドごとに違っており、そこには善も悪もある。
そしてここは魔物を狩る事を目的としたギルドが守っているから一応、安心か。
「2つ目の質問、しておくぞ。この施設、何のために作った?」
正直、それが一番の疑問だ。
王族である以上、王になるために何らかの手段で王になるよう準備するのは分かる。けれども、それならもっと大規模に宣伝などを行うはずだ。
ウルテックに居た頃ではそんな宣伝文句、聞いた事が無かったし……。これはどう言う事になっているんだろうか?
「ハハハ……。それも無回答でよろしいですか? それも答えにくい質問なんだよ」
「分かった。これから質問しないようにして置きます。ではお2人様、早速我が自慢のレストランの料理に舌鼓をうってくださいな」
「ささっ、どうぞどうぞ」とエレーマはそう言って、レストランへと誘導していく。そして僕達2人はレストランへと向かって行ったのであった。
丁度その頃。
ユノセティ宿泊地の一角、北に位置するアレラト温泉に1人の女性が居た。
金色の髪を腰まで伸ばした、金色の瞳の黄色い顔の女性。
黒いボンテージ服を着ており、首には紐が付いた金色の針を付けている。
スタイル抜群のモデルが羨むほどのモデル体型で、腕には大量の金色のアクセサリー、そして金色の薔薇の髪飾りを金髪の長髪に付けている。そして下半身は黒い巨大な蜘蛛のような物になっている。そして8本の蜘蛛の足には1本ずつ、『Y. S.』と言う文字が書かれている。
そんな女性は巨大な蜘蛛の足をカサカサと動かしながら、手に持った赤い薬品が入ったフラスコを地面にかけていく。
「クモクモクモクモ……。全く……。レッド・モンキー、迷惑人物。私、合成魔物1匹、イエロー・スパイダー、通称『黄蜘蛛』、要請行使……」
「溜め息……」と名詞しか使わない独特な喋り方でイエロー・スパイダーは赤い薬品をユノセティの地面にかけて行く。
「良好……。これ、作業完了。今後、展開、ご期待……。クモクモクモクモ……」
イエロー・スパイダーはそう不気味に笑っていた。
イエロー・スパイダーは名詞しか使わないので、何言っているのか分かりづらかったかもしれません。ですから、何を言っていたかも書いて置きます。
「クモクモクモクモ……。全く……。レッド・モンキー、迷惑人物。私、合成魔物1匹、イエロー・スパイダー、通称『黄蜘蛛』、要請行使……」
↓
「クモクモクモクモ……。全く……。レッド・モンキーは困った人だ。私は合成魔物の1匹、イエロー・スパイダーこと通称『黄蜘蛛』にこんな事を頼むとは……」
「溜め息……」→「はぁ……」
「良好……。これ、作業完了。今後、展開、ご期待……。クモクモクモクモ……」
↓
「良かった……。これにて作業完了。今後の展開にご期待しよう……。クモクモクモクモ……」
また、何かこう言う魔物を出して欲しいなどのアイデアがありましたらメッセージなどでお送りしてください。出来る限り採用したいと思いますので。
では、これからもよろしくお願いします。




