4.暗殺者加入
ウルテックとカンボス鉱山の間は歩きで約2日間ほどの距離があり、その中間にはエインラトと言うちょっとした小規模な町がある。宿屋や道具屋などが立ち並ぶ町……。
そこの宿屋で僕はメティア・アンラニル、クルス・ウルウスと飲み物を飲んでいた。僕はグレープジュースを飲みながら、彼、クルス・ウルウスの様子を窺う。
クルス・ウルウス。
ウルウス王家の王位第5位。ヴァスリオス・ウルウス王の三男で、アサシン。
他の6人は各々別の都市を統治しているのにも関わらず、クルス・ウルウスはあくまでも城に仕える1人のアサシンとして沢山のモンスターや要人を殺していった。政治的面で言えば優れているとは言えず、他の6人と比べて少し出遅れている印象がある。
自身としても他人を立てるような節が多く、王としてよりも家来と言うような印象が強い男性である。まぁ、上に優秀な人が4人も居ればそう思うのも分からなくもないですけれども……。
「いやーねぇ、ガイテック城で騎士団としてお手伝いをするのも良いけど、どうも僕としては世界を見た方が良いと思ってさ。エレーマ兄さんやフィンザ姉さんもそうやって色々と場所を転々として情報を手に入れてるらしいし。
僕も色々、冒険して見たくてね。メティアの誘いに乗ったのさ」
と、ビールを飲みながらクルスは言っていた。少し頬が赤い気がするが、ただ酔ってるだけだろう。
「来て、くれて、嬉しい。このまま、だと、適当に、人を、見繕わない、といけな、かった。本当に、助かった」
と、メティアはぺこりと頭を下げる。そんな彼女の手にしているのは、紫色の何か発酵した液体である。何かその液体に入れられた氷が物凄い勢いで、水蒸気へと変わってるんだけれども……。
もしかするとメティアは、味音痴なのだろうか? 昔はそんな印象は無かったんだけど。
魔女と言うのは、そう言ったのを飲むのも必要だったりするのだろうか?
「情報を得ると言うのは大切な行為ですし、僕もパーティーメンバーは欲しかったから言う事は無いんだけど。けれども……カンボス鉱山に居るのはどんな種類の魔物なんなんでしょうね」
「あぁ……だったらこれを使えば良いさ」
とクルスは、1冊の本を僕に渡してくれた。その本をぺらぺらとめくって見ると、何体かモンスターが書かれており、さらには簡単な略地図が書かれていた。
「これは……?」
「騎士団お手製のカンボス鉱山の本。役に立つかと思い、拝借しておいた。存分に読んで活用してくれたまえ」
「あぁ……助かるよ。読んでおくとするよ」
「良いって事さ~、これから仲間になるんだから」とクルスは言っていた。少し呂律が回っていないようで、顔を赤くしてふらふらした様子で椅子に座りながら激しく動いている。ビールに酔ってしまったのだろうか?
「美味、しい……」
と言うか、メティア。本当にそのジュース、美味しいのか問い詰めたいんだが……。
その次の日、僕達はカンボス鉱山へと辿り着いていた。
クルスのくれた本により、魔物への対策は簡単にする事が出来た。
20㎝ほどの全身に鉱石を張り付けた黄色いスライム、ロックマッド。普通の蝙蝠より少し大きい蛍のように発光する蝙蝠、ホタルバット。何本も触手が出た空飛ぶ半透明の宝箱、ミミックファントム。
その他、カンボス鉱山は沢山の種類の魔物が居たけれども、順調に進む事が出来たのであった。
そして鉱山を進んだ先、ちょっとした洞穴に廃棄されただろう汽車の上に1人の女性が載っていた。
紫色の髪を肩の少し下辺りまで伸ばした、紫色の瞳を持つ整った顔立ちの美少女。しかし彼女の眼には黒いクマのような物が出ており、彼女の魅力は半減している。
金色の星マークの入った軍用の帽子を被っており、黒地に赤いラインの入った軍服を着ている。左ポケットには白いひらひらの布が付いており、右ポケットには金色の星のバッジを付けている。そして彼女の首には手編みのマフラーが巻き付けられていた。
「あちきの名前はヴィシュヴェテル・アシュタンダ。一応、魔女なんかをやってたりやらなかったり~」
ヴィシュヴェテル・アシュタンダ?
確かそれって、魔法帝国の魔女の1人の名前……。
格好や口調が全然魔女っぽくないから、気づかなかった……。
「あちきの作品、ちょっと見て欲しいと思う訳? アーユー、オーケー? と言うか、知らず知らずの間に作品紹介~」
「……! 何か来るぞ!」
「……来ま、すね」
メティアとクルスが言うと同時に、5体のモンスターが現れた。
……まっ、かなり変な魔物なんだけど。
「見て、見て~。あちきの自信作、になるかも知れないと言うかあり得ないような微妙な出来の作品。出て来てやっつけてちょうだい、石炭戦隊萌エルンジャー」




