1.平和家
しばらく僕、アイクール・パルジャは家でゆっくりとしていた。まぁ、普段から家でゆっくりとするのが僕の信条なのだけれども。
「あぁ~、平和だ。平和こそ全ての世界が望む結末、平和とはなんと甘美で甘く良い物だ。
戦えない人間である僕はこうして誰かによって作られた平和を楽しむ事こそが、最高の趣味であり愛であり、感謝すべき事なのだろう」
トントン、と扉を叩く音が聞こえて来たので、僕は扉を開ける。
扉を開けて見ると扉の前に居たのはネフィーであり、その両手には習字の紙を3枚ほど持っている。
両手が塞がっているのにどうやって扉を叩いて合図をしたのかと思っていると、彼女の頭には大きなたんこぶがあった。
なるほど、と察していると、ネフィーはそのまま言葉を続ける。
「兄貴……。オレは嬉しいです。平和とはそこまで楽しまないといけない物だったんですね。
オレは……この溢れる思いを習字にて書いてきやす!」
ネフィーは手にした紙に書いた習字で書いた文字をじっと、見せつけて来る。彼女の鼻の頭には墨が付いている。拭ったみたいだけど、まだ残ってるし。恐らくさっきまで書いていたんだろうな、習字。
手に持っている紙は3枚で、それぞれ『友情』、『努力』、『勝利』と書いてある。
……どこの週刊雑誌ですか。
「兄貴、オレは知ってやす。男が好きな3原則。
『友情』、『努力』、そして『勝利』でしょ!?」
「最後の振り仮名、どうしたんだ?」
いや、本当にその振り仮名は可笑しいと思うんだが。
しかも本当に小さく、添削用の赤い筆でその文字が刻まれてる。無駄に芸を磨いてんじゃねえよ。
それに、どれも無駄に達筆だし……。
「今度は男が好きな、3つの言葉と参りましょう。『愛』、『真実』、『勇気』を書いてきやすね!
では、兄貴! オレは失礼いたしやす!」
それもまた違う事と思うんだが……。止めようと思いきや、ネフィーはすぐさま書きに下に降りて行った。
……と思っていると、また扉がトントンと叩く音が聞こえて来た。
「またネフィー、か?」
と思って開けると、そこに居たのは何とも大人っぽい女性だった。
長い黒髪を髪留めでポニーテールにしており、髪留めはピンクのリボンでとても可愛らしい。
吸い込まれるような紫色の宝石のような瞳に、大人びた女性らしい綺麗な顔立ち。
小柄ながらもその水色の縦じまセーターを押しのけるように自己主張をする溢れんばかりの胸に、同じ色の短めのスカート。
そして、溢れんばかりの男を惹きつける魔性の香り。
そんな極上の女性は顔を少し赤らめて上目遣いで、
「……お邪魔、します。アイ、クール」
と、どこか懐かしい声でそう言って来た。
もしかして……
「……メティア、か?」
「……うん」
そこに居たのは間違いなく、いつも黒い魔女帽子を深々と被っているメティア・アンラニルの、私服と言う見た事のない姿だった。




