19.城探索
「いやいや、本当にうちの父が頼んですまなかったね。勝手に君達を呼びつけるなんて……。
僕の方からも謝っておくよ、ごめんなさい」
そう言って、紫色のたぼたぼした和服を着た20歳前半の男性が頭を下げた。
黒髪を腰より少し上まで伸ばし、左目には黒の眼帯を付けている。腰には沢山の短刀を指しており、両手に黒い手袋をはめている。背中には大型の銃を背負っている。無精髭を適度に生やした男性。
彼の名は、クルス・ウルウス。ウルウス一族の三男で、アサシンの男性である。
仕事熱心な王位第5位の者である。
「いやー、すまいねー。他の6人は忙しくてね。一番王家に近い僕が、呼ばれたって事だよ。
と言うか、僕は王家の騎士団に所属しているから。君達の事は良く知ってるよ」
「いえ……大丈夫ですよ?」
と、僕はそう言う。
只今、僕達はヴァスリオス王の謁見の後、この王の城をクルスさんの案内で案内してもらっているのである。一国の城を一国民が歩くって……。考えれば非常に変な話だな。
「まぁ、この王の城に大事な物なんて宝剣のアテクエとミスロスくらいしか無いけどね。
ははは! そう言えば君はこのガイテックの宝剣の話は知ってるかい? 結構、みんな知ってる大事な話だけど」
「いや、俺は知らないな」
「私も、です」
……メティアはまだ分かるが、クレイノス。お前は騎士として王国の大事な話は知っておかなきゃいけないだろ。まぁ、僕は知っているが、この2人のためにも聞いておこう。
若干、あと1名。知りたがっているハーフエルフがこちらには居るので。
「昔、この王国を誕生させたのは1組の男女だった。
女性が持っていたのは、宝剣アテクエ。その女は身体的に優れた女性だった。その者が持つ剣は様々な属性を持ち、どんな者も倒せる無敗の剣だった。
男性が持っていたのは、宝剣ミスロス。その男は優しさを持った知略に優れた男性だった。その者が持つ剣は人格を持ち、非力な男を支えていたと言う。
男性と女性は出会い、お互いにお互いを助けて冒険して結婚して、この王国が生まれたとさ。
その際にお互いが持つ剣をシンボルにして、王国の旗や王国の像など関連商品を作ったんだと。
流石に今は恐れ多くて、旗のデザインは別のデザインに変えてるけどな」
「……本当はもっと難しい話だったはずだが」
「まぁ、そこは簡略化するって事で」
ハハハ! と笑いかけるクルス。
「だからこそな、アイクール君。この王国が簡単に他国に滅ぼされてはいけないんだ。
皆も協力してくれよな。2人の男女が作った愛の結晶のこの国を!」
酷い言い回しだ。もっと他に言い方が無い物か……。
まぁ、僕も他にどう言えば良いか困るけれども。
「勿論だ! 王国を守る騎士として、全力を尽くす所存です! クルス第2王子!」
その前に、王国の歴史とその王子が第3王子である事を再度勉強した方が良いぞ。クレイノス。
どうせ勉強をさぼってたんだろう。だからそんな間違いをするのだ。
「頑張る。愛の、結晶、と聞いた、からには」
……論点はそこなのか、メティア。
「兄貴! 兄貴!」
「どうした、ネフィー。お前も何か言いたい事があるのか?」
「この国を救って、英雄となれば兄貴の株も上がると言う物です!」
レッド・モンキー、魔法帝国を退けた程度で英雄扱いされたら、ここはどれだけお気楽な世界だよ。
……まぁ、魔法帝国の強さにもよるが。正直、どの程度の強さか分からないし。
「兄貴のためにも、その魔法帝国のレッドなんちゃらには死んでもらいやしょう! 兄貴、頑張りましょうぜ!」
「モンキーな。そして僕には何も出来ない。君達のサポートを頑張るだけさ」
そう言って、僕は黒い棒を掲げる。
……少し頑張ってみるかな。
交渉はエンチャッターの十八番だ。
エンチャッターは1人では戦えない。故に誰かを仲間にする必要がある。
そのためには、自分がいかに有能なのかを相手に伝えるプレゼン力とコミュニケーション能力が必要になってくる。
(……もしかしてヴァスリオス王はそのエンチャッターの交渉力を買って、ここまで呼んだ?)
さもありえない話では無い。
優秀な軍師や官僚はだいたいエンチャッター経験者やエンチャッターだと聞く。それほど、エンチャッターは交渉能力に他の職に比べたら長けている。
それなら分かる。交渉に必要な人材を呼ぶと言う王の考えは理解出来る。
(なら、何故わざわざ僕を呼んだ?)
僕はまだ18歳。成人を迎えていない。要するに、まだエンチャッターとしては未熟も良いとこだ。正直、自分の交渉能力などそんなに優れていないと思っている。
それに王国である以上、他に優秀なエンチャッターも官僚の中に多く居るはず。実際、何人か大臣の中にそう言った人間が居る事は知っている。
なのに、何故わざわざ僕を選んだ?
……これは何か裏がありそうだ。




