1.探検
のどかな緑と平和の村、ウルテック。その近くの山、ハリ山。
その山では銃弾が発射される音と共に、コボル(小型の狼型魔物)の断末魔が響いていた。
しばらくの間、それが何度も続く。そして、音楽が止まったかのように聞こえなくなった。
「終わったかな」
と、そう言いながら僕は音が聞こえなくなったと共に、草むらから顔を出した。
僕の名前は、アイクール・パルジャ。18歳。職業、エンチャッター。
容姿はどこにでも居るような普通の男子。中肉中背の肩まで伸びた黒色の髪。黒を基調とした簡易的な鎧を着ており、その右腕には黒い棒のような物が付けられている。
まぁ、こんな物ですよ。僕なんて。
今、僕は同じ村に住むハーフエルフと共に向かっていた。
ハーフエルフとは、文字通り人間とエルフの間に生まれた子供の事。エルフは寿命が人間の約10倍もあり、肉体も精神もゆっくりと成長するのだが、ハーフエルフは身体は人間並みに、精神はエルフ並みに成長するために、肉体年齢と精神年齢が伴っていない。さらにエルフと違って人間技術にそれほど嫌悪感を持っていない。
……まぁ、滅多に会える者じゃないし、会えてもそんな頻繁に喋れないのが普通なんだけど。
と、ハーフエルフについての知識をどこかは分からない所に披露していると、
「おーい! 無事ですかー、兄貴ー!」
と呼ぶ女らしい声と共に、先程語っていた、一緒に来たハーフエルフが居た。
所々が緑色になっている亜麻色の髪を腰の辺りまで伸ばしており、綺麗な整った顔にはどこで汚したのか泥が付着していた。エルフを思わせる尖った耳に、左が青で右が赤のオッドアイ。
植物を思わせる特徴的な刺繍の入った緑色の半そでシャツがその大きな胸で前に大きく押し出されており、へそは大胆に見せつけるようなへそ出しルック。腰は細く、長身のモデル体型。
そんな少女の頭には不良が被るような黒帽子が載せられており、手にはエルフが絶対持たないと言われる人間の技術の産物、拳銃が握られている。
「あぁ、無事だよ。そもそもエンチャッターが前衛に出るなんてありえないんだから、そんなに心配しなくても……」
「い、いえ! 兄貴が死んでるなんて信じてはいねぇですけど……。オレは心配で心配で!」
「……いい加減、その不良の男子みたいな口調は止めろよ」
この女の癖に不良の男子みたいな口調をしているこの女子の名前は、ネフィー・パルジャ。自称175歳。職業、銃士。
一応、僕と同じ苗字だけれども、僕と彼女には一切の血縁関係も無い。まぁ、居候ではあるけど。その辺りの事情はまた追々と話しておこう。
でも、この不良男子口調はいただけない。いつの間にか覚えてしまったのだから、早く直して欲しいなとは思っているんだけど。
「とりあえずその兄貴は止めてくれ。年齢的にはそっちの方が遥かに上なんだから」
年齢的に言うと、あちらの方が10倍近くも生きているんだから。
それに戦闘能力に置いても、あちらさんの方が上だし。
「そ、それは駄目です! 兄貴は兄貴です!」
顔を真っ赤にしながらちょっと怒り口調で二丁拳銃を構えているのが、非常に怖い。
引き金に指がまだかかったままだし。いつ発射しても可笑しくない。
「まぁ、良いけど。で、こんな山に何の用だよ? この山には……ビックツリーくらいしかないだろ?」
と、そう言いながら僕は目の前に現れたコボルに『速度低下』をかけて動きを遅くする。それを見たネフィーは、コボルに銃弾を発射してコボルが倒れる。
「えっと……ネフィーはですね。ビックツリーで兄貴と兄弟の契りを……」
「そんな事なら僕を呼ぶな」
僕はそう言って、くるっと頭を回転させて山を降りていく。
「あぁー、兄貴! 待ってくださいよー!」
そう言って、若干涙目でネフィーがとことこと僕の所に走って来る。
「兄貴―、何がダメなんですか? 他の2人とはやったと聞いたんですが……」
どこで聞いたんだろう? まぁ、うちの村だと誰もが知っているから可笑しくは無いか。
「あの約束をするのは、あの2人だけなんだよ。ネフィー。
僕は決して、君とあの約束はしない。だってしてしまったら、他の2人に申し訳ないだろうが」
「……そ、そうですね! さすがです、兄貴! 惚れ直しました!」
それは男女のような関係では無く、不良の兄弟のような関係なんだろうな……。
そして僕はネフィーと一緒に、2人で山を降りたのであった。




