0.約束
エンチャッター。通称、補助職。
仲間を魔法で能力を強化したり、敵を魔法で能力を低下したりさせる。ただし、1人ではろくに魔物1体も倒せない、そんな職業。
1人では戦えないそんな職業を、世間では1人では何も出来ない職業だと言う。
そんなエンチャッターである今年8歳になる僕、アイクール・パルジャは目の前の2人と一緒に村近くの森へと歩いていた。この森で僕達3人は大人に内緒で来ていた。
「本当に大丈夫なのか? お2人さん? 魔物が出てきても、僕は役に立たないよ?」
8歳ながらも自らの職業をちゃんと理解していた僕は、目の前の2人に声をかける。
「大丈夫だ。何せ俺達3人のコンビは最強なんだからな!」
と、目の前の体格に似合わない大きな剣を背負った、同い年の男性はニコリと笑いかける。
「……うん。……アイクールが居るなら……大丈夫」
と、黒い魔女の帽子を深々と被った黒い魔女服を着た、同い年の女性はつたない言葉ながらもそう言う。
「まぁ、2人が良いなら良いけどさ……」
と、僕もそう言いながらとぼとぼと歩いて行く。
それから数分後。
僕達は大きな木に辿り着いた。
「……これは?」
と、僕は2人に聞く。すると、2人はこう答える。
「この村で一番大きな木、ビックツリー。うちの村にはな、この木で約束をしあった者達はどんな事があっても友達で居られるって言う伝承があるだろ? その伝承にならって、俺らも約束しようじゃないか。明日には俺もこの村を出て、王立の騎士団に入るんだからさ」
「その前に……約束したかった。……私も……魔法学校……入るし」
と、2人はそれぞれ声に出す。
そう、明日には2人ともそれぞれこの小さな村、ウルテックを出て王都であるトラウィスウェンへと行ってしまう。
幼馴染である男は王立の騎士団。幼馴染である女は魔法都市の魔法学校。
それぞれ行く場所は違えど、今日この村から出ていくのは同じである。
確かに僕も村の約束の話は知っている。
この大きな木、ビックツリーに自分の名前を刻んで全員で手を繋いで、「僕達はずっと友達です」などと恥ずかしい事を言えばずっと友達でいられる。
などと言う、変な伝承が僕達の住む村、ウルテックには伝わっているのである。
どうやらこの2人は、そんな伝承を僕としたいみたいである。
僕なんかとそんな関係になるのを、2人は本当に望んでいるのだろうか? いや、それは無いだろう。多分、僕は幼馴染だからわざわざ誘ってくれただけだろう。
うん、そうに違いない。
「はぁ……。2人とも、そんな古くからの昔話を信じているだなんて……。
びっくりだよ、本当に。まぁ、良いさ。こんなエンチャッターの僕で良ければさ」
と言いながら、僕は大樹に自分の名前を刻みこむ。
2人も僕と同じように、自分の名前を大樹に刻み込んだ。
そして、僕達3人は手を取って、
「「「僕達3人はずっと友達です」」」
と恥ずかしい言葉を言っていた。
その次の日、僕は彼らとお別れをしたのだった。
物語はこの10年後。
主人公が18歳の頃から始まります。




