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弱小球団奮闘記  作者: 鈴兼哲
1章:1年目
9/17

5話:キャンプ第2クール

一死(ワンナウト)一塁」


晴れた空に響き渡る捕手(キャッチャー)の声


第2クールも折り返し地点に差し掛かり実戦を想定した練習が増え始めてきた

因みに今日は半日でシート打撃と実戦守備だけ組み込まれていた


※シート打撃:実際に走者(ランナー)を置いてアウトカウントによる状況に応じた打撃練習



先ほどからグランドで繰り返し行われている【一死(ワンナウト)一塁】というありふれた状況での打撃と守備位置の確認


しかし、面白いほどに同じミスが起きていた



「中途半端すぎるんだよ! 送るのか、打って進塁させるのかどっちだ!!」



攻撃側は打者が1球でバントを決める事ができず、追い込まれた挙句に簡単に打ち上げてしまったりゴロ併殺打(ゲッツー)になったりと昨シーズンからの悪い癖が出ていた

守備側もプレッシャーを仕掛けるのが遅かったりと課題が浮き上がっていた


※プレッシャー:守備側、特に一塁手(ファースト)三塁手(サード)がバントを予測して猛チャージをすること。これをすると場合によっては二塁(セカンド)封殺が狙える。名称は様々あるが本作では「プレッシャー」を採用する



富山で監督をしていた時でもここまで怒る事がなかった杜が血相を変えて特に打者を怒鳴り散らしていた

その光景は公開説教と似ていた

そして、今まで温和だと思っていた選手は一同背筋をピンと伸ばして杜の言葉を聞いていた



「次、一死(ワンナウト)一三塁」


杜は今の状況に見切りをつけて新たな状況を捕手(キャッチャー)に伝えた

案外、難しい【一死(ワンナウト)一三塁】という状況を・・・


この点差や残りイニング、打順等の状況から

攻撃側は盗塁、セーフティースクイズ、スクイズ等、様々な攻撃側の選択肢が増える

それ故に、守備側は攻撃側が選択するであろうと思われるパターンを想定しなくてはいけない



【作者談】:この状況はあまり好きではないです。併殺打(ゲッツー)で切り抜ける事もあれば連打されることもあるので・・・。



その後も、守備練習は延々と続いた・・・



「ラスト、一本上がり」


ノッカーが放った打球を迅速に処理し、本塁に送球する野手陣。そして、最後の捕手飛球(キャッチャーフライ)も無事に済んだ


諸木コーチと山脇コーチが野手陣を集めて先ほど行われた練習の反省ミーティングを

投手陣はダウンのキャッチボールを行って2月14日の練習は終わりを告げた


練習が終わっても居残りで自主練習をする選手やファンサービスを行う選手、宿舎に引き上げる選手と様々にわかれた

ファンサービスを行っている選手と宿舎に引き上げる選手にファンから手渡されるチョコや色紙。それに丁寧に対応する選手ら・・・




「今日のミーティングを始めます」


1塁側ベンチに集められたコーチ陣一同、その場で今日の練習についての選手の動きを各々が率直な意見を述べた



「明日から対外試合が本格化するが西田に対外試合の開幕を任せようと思っているんだがどうだ」

という杜の言葉に高津・籾山両コーチが揃って「新人だからまだ早い」と返した



高津・籾山両コーチが「まだ早い」と言ったのには続きがあり

対外試合の初戦が昨年1位の「大阪浪速タイガーズ」というのもあった



「昨シーズン勝ち頭の本多を先発に回すべきです」


「確かに本多(ヤツ)は昨シーズン、ウチの勝ち頭だ。だが勝ち頭でも8勝したが、借金とは情けない」


事実、昨シーズンの投手陣は不甲斐無い成績。2桁勝利投手がおらず貯金の投手もいないという壊滅具合


※借金:負け越し投手の事。その逆を貯金と呼ぶ


そんな昨シーズンのイメージを払拭するために杜が投じたのが新人の起用だった


「今シーズン、チーム内改革が必要と考えている。そのためには既存の考えを一旦捨ててほしい」


杜は自身の考えを各コーチに伝えた。

負け続けで勝ち方を忘れているチームに何が必要であるのか、そのために選手をどう動かすのか・・・と


そして、最後に「これからのオープン戦で戦力を見極める」と付け加えてコーチ陣のミーティングはお開きになった



杜が球場を出て一息吐いていると、背中越しに声をかけられた


「監督?」


「昭人か」


「考えごとっすか」


「まぁな。…それよりも、お前今日もか?」


昭人は杜に「走り足んない」と言って球場から近くの海岸まで走り込みに行った

走り出す昭人の姿を見て杜は心に何かを決意して宿舎へ戻ろうとしたその時、また背中越しに声をかけられた


「あのぅ…」


「はい?」


杜が振り返ると、ショートカットをした少女が紙袋を持って立っていた


「どうかしました」


「えっと…わたし、七尾颯(ななおはやて)言います。兄ちゃ…、昭人選手はどこに居ります?」


「昭人なら海岸の方に行きましたよ」


「ありがとうございます」


「いえいえ」




颯と名乗った少女は杜に深々と頭を下げて、杜が指した海岸の方へ歩を進めていた

海岸につくと砂が舞っているのが目に入り、颯の脳裏に1人の人物が浮かんでいた


「兄ちゃん!」


「颯? こんなところでどうしたん」


走りこんでいた昭人は慣れた声が聞こえて走るのを止めて声が聞こえた方を向いて、名前を呼んだ颯の下に駆け寄った



「兄ちゃん、こないな場所で練習?」


「そうや。…ところで此処で練習してるってよう知ったな?」


「球団関係者に聞いたんよ」


昭人は颯が「球団関係者」に教えてもらった事に違和感を覚えて、どんな人物であったかを聞いてみた

颯曰く「歳は40くらいで爽やかな感じがした。上着を着ていてチーム関係者やろうか」と


それを聞いて昭人は少し引きつった表情をして颯に「その人は恐らく監督」と告げた



「本当かいな!? どうしよう~私、粗相してへんよな…」


監督と聞いて動揺する颯を宥めるように昭人は声をかけて颯を安心させようとしていた



「大丈夫やって」


「そうやろうか…?」


「監督もわかってくれるって。だから、な」


「うん…兄ちゃんがそういうんであれば」


颯が落ち着きを取り戻した事で昭人は颯に「どうして沖縄に来たのか」を尋ねていた


「兄ちゃん、今日は何日や?」


「14日…2月。そういうことか」


「毎年のことやけど、手渡しの方がええと思って。それに大学休みやし」


「他の面子はどうしたん?」


「なのはちゃんは優人(ゆうと)君と一緒に水族館。シグレとフェリアちゃんはタイガースのキャンプ地、宜野座村やって。なんでもアニキ見る言うて張り切ってたで」


「あはは……」


「ちゃんと兄ちゃんに渡したで。兄ちゃん頑張ってな」


「颯の期待に応えたる。開幕1軍取ったるで」


「その意気やで」

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