1話:若手合同自主トレ
1月後半
どこの球団も新人選手に対して合同トレーニングを行う頃
ここ、神奈川県川崎球場に隣接する川崎陸上競技場でも横浜シースターズの合同トレーニングが行われていた
「少し肌寒いな…」
「監督、ぴしりとしてくださいね。今日はある意味では選手との顔合わせなんですからね」
「わかってますよ。伊志嶺ヘッド」
競技場の前にジャージ姿の男性が二人いた
一人は今年から弱小球団「横浜シースターズ」の監督に就任した杜克己
もう一人は「横浜シースターズ」のヘッド兼作戦担当という肩書の伊志嶺和彦
「本当にこれでいいんですか監督?」
伊志嶺は新人合同自主トレの内容が今までと違うことに違和感を感じていた
新人選手が集まって合同で自主トレを行うことが各球団の共通の認識
しかし横浜は監督である杜の一言で5年目以下の若手も合同で自主トレを行うことを認めた
「新人選手は初めてのプロ生活に早く慣れて欲しいのと、若手に刺激が与えられればいいかなと…」
伊志嶺は杜の心中を聞けて納得したが、手元にあるスケジュールを見て苦笑せざるを得なかった
若手合同自主トレーニングメニュー案
1日目:顔合わせ、短距離トレーニング
2日目:短距離トレーニング
3日目:砂浜ダッシュ、室内トレーニング
4日目:高負荷トレーニング
5日目:長距離トレーニング
6日目:室内トレーニング
7日目:長距離トレーニング
8日目以降:実戦形式
「しかし…監督。本当にこのスケジュールで行うのですか?」
「何をいまさら」
「聞いたことがありませんよ。ボールを使わない自主トレなんて!?」
伊志嶺は長い間、横浜のコーチを務めていたことから今までの自主トレを見てきた
だが、杜の自主トレ内容は今まで見たことがなかった
「あ~…そうか。私が独立リーグの時はこのメニューだったし、それに基本的な体力をつけてもらわんといけない」
「そうでしょうけど…」
「大丈夫。直ぐには強くすることはできないかもしれないが将来を見越せれば…全員が化ける。いや化けさせるよ、そのためには基礎体力の強化を中心にしないと…」
「そうでしたか。…では監督、行きましょう」
「おう」
そして杜と伊志嶺は陸上競技場の中へと消えていった
陸上競技場の中ではすでに二十数名の選手がアップをしている最中だった
「全員集まってるな。集合」
「「はいっ!」」
伊志嶺の一声でアップをしていた二十数名の選手が集まってきた
伊志嶺の隣には少し不安そうな表情をした杜がいた
「えー。君たちも知っていると思うが今年から新しい監督のもとで戦うことになった。監督どうぞ」
「今年から指揮を執る杜克己だ。よろしく」
「「「お願いします!!」」」
杜の挨拶に二十数名の選手が一斉に返事をした
返事を貰えたことに杜から不安の表情が消えた
「知っている者もいると思うが私はプロでの経験がない。しかし、横浜からチームを強くしてほしいという熱意に負けて就任した。指導法に関してはコーチに一任しようとしている、私の役目は負けた時の責任を負い、将来…5年以内に優勝に導くことだ」
杜の言葉にその場にいた選手と伊志嶺は困惑した
長年、優勝どころか最下位を脱した事のないチームを優勝に導こうと熱弁をふるっていることに
「その時、ここにいる中から正選手が出てくれれば優勝できると確信している。そのためにこの自主トレ期間はハードかもしれないが乗り切って欲しい」
「「「はいッ」」」
「最初は軽く100メートルダッシュを10本」
これから一週間近く参加した選手たちは主に下半身を重点に鍛えてからボールを使ったトレーニングに移った
これが横浜シースターズを強豪へと変える第一歩となる・・・