10話-1:本拠地開幕戦~試合~
【横浜シースターズ。20年ぶりに開幕3連勝!!】
【ツインゴリアス戦では実に24年ぶりの3タテ!!】
【春先の珍事!? シースターズ首位に!】
【1番打者、昭人3試合連続の猛打賞に6盗塁!】
【ルーキーコンビ大活躍!】
《試合結果》
3月30日 対東京9-2○
3月31日 対東京3-1○
ツインゴリアスとの開幕カードが終わって大きく取り上げられたシースターズの記事の数々・・・
そして
本拠地開幕戦当日
試合開始予定は18時
相手は昨シーズン10勝11敗3分けとほぼ互角の成績だった、大阪浪速タイガース
新聞各社の大方は昨シーズン最多勝利と最多奪三振2冠の左腕、近藤慶と予想していた
※近藤慶
大阪浪速タイガース投手。昨シーズン5度対戦し0勝3敗、防御率1.27
シースターズにとっては苦手投手の1人。また、通算17試合対戦し1勝もできていない。
◆◆◆◆◆
ミーティング室
「本拠地開幕投手は箕浦で行く。開幕の流れをそのままつないでくれよ」
杜監督の言葉に選手達は一斉に頷き、大きく返事をした
そのまま、杜はホワイトマーカーを手に持ちスタメンを書き出した
1番センター 昭人
2番セカンド 西岡
3番ファースト トニー
4番サード ディラン
5番ライト 糸井
6番レフト 森下
7番ショート 庄司
8番キャッチャー 鶴
9番ピッチャー 箕浦
「今日のスタメンは以上の通りだ。控えだからと言って出番がないと思わないでほしい。本拠地開幕だから是が非でも勝ちを取るぞ。今日の声出しは箕浦、頼んだ」
今年から試合前のミーティング後に杜が選んだ選手による試合への声出しをする事になった。その発案者は言うまでもなく杜なわけだが・・・
「プロである以上、苦手意識は持ちたくない。何時までも近藤に良いようにやられる俺たちじゃないってところを試合で見せましょう!」
箕浦の威勢にベンチ入り全選手が応えた
◇◇◇◇◇
試合開始予定時刻の1時間程前になり場内アナウンスが流れた
『本日の試合に先駆けまして両チームのバッテリーを発表いたします。
大阪浪速タイガース。先発は近藤、背番号27。キャッチャー梅樹、背番号21
横浜シースターズ。先発は箕浦、背番号18。キャッチャーは鶴、背番号9』
◆◆◆◆◆
三塁側、横浜ベンチ
※基本的にホームチームが一塁側ベンチを使うが球場の構造や諸事情により三塁側ベンチがホームチームという球場もある
「やはりウチに相性のいい近藤をぶつけてきましたね監督」
「こちらは想定内さ。さて、足で掻き回してやろうじゃないか。なあ昭人?」
「はい。近藤さんのクイックは映像で何度も確認しました」
「それと大阪は2年目の梅樹を起用している。打撃での起用と思われるが揺さぶればボロがでるだろうよ」
『試合開始に先駆けまして、本日のスターティングラインナップを発表いたします。
先行、大阪浪速タイガース
1番 ライト 青木、背番号51
2番 センター 芝田、背番号00
3番 ファースト 新井準太、背番号30
4番 レフト 兼本、背番号6
5番 キャッチャー 梅樹、背番号21
6番 サード 今内、背番号0
7番 セカンド 鳥屋、背番号1
8番 ショート 漆畠、背番号8
9番 ピッチャー 近藤慶、背番号27
後攻、横浜シースターズ
1番 センター 昭人、背番号69
2番 セカンド 西岡、背番号3
3番 ファースト A.トニー、背番号35
4番 サード ディラン、背番号50
5番 ライト 糸井、背番号4
6番 レフト 森下、背番号0
7番 ショート 庄司、背番号41
8番 キャッチャー 鶴、背番号9
9番 ピッチャー 箕浦、背番号18』
『試合開始に先駆けまして、浜岡市長によるファーストピッチセレモニーを行います。捕手役は昭人選手、打者役は糸井選手です』
『浜岡市長ありがとうございました。試合開始まで今しばらくお待ちください』
セレモニーが終わって場内アナウンスと共に守備位置に散っていくシースターズの選手
真っ新なマウンドに向かうはベテラン箕浦
彼にとって本拠地最初のゲームでの先発は今年で8回目
通算成績は2勝5敗。だが、ここ数年は打線に恵まれずに勝ち星を得られていない
投球練習を終えた箕浦はマウンド上で天を仰ぎ、春季キャンプ中での出来事を思い出していた
(春キャンの最中に監督は既に開幕投手を決めていた。それを俺と杉下さんに真っ先に伝えてくれた。新人だろうがベテランだろうが勝負の世界だから実力があるかの差だけ)
★★★★★
約2カ月前春季キャンプ中・・・
「箕浦と杉下、時間良いか?」
2人は夜の宿舎ロビーで杜に声をかけられ、そのまま監督室へ案内された
「2人に言いにくいが高津と籾山と話し合って今年の開幕は西田にしようと決まってな。開幕に照準を合わせてやってきていたのにすまない」
杜はそういって2人に静かに頭を下げた。そして再び頭を上げて「本拠地開幕のカードに合わせてくれ」と頼み込んだ
◇◇◇◇◇
(開幕投げられなかったのは横浜が変わるため。そのためだったら俺は監督が言った場面で投げるまでの事。それは今までずっとそうだったしこれからも変わらない。このチームで優勝したいから!)
『1番センター青木。背番号51』
昨シーズン43盗塁で盗塁王に輝いた青木がゆっくりと左打席に入り、球審の守田がプレイボールを宣言した
(昨シーズン最多安打の福路が怪我で戦線を離れているのが助かった。青木、福路のコンビで得点するパターンだったかなら。といってもこいつは盗塁王になったから警戒しておかないと。初球は苦手なインロー真っ直ぐで)
鶴から出されたサインに箕浦は静かに頷いた。
箕浦は青木の苦手コースでもあるインローに真っ直ぐを放ったが、少しだけ中に入ったためセンター前に綺麗に弾き返された
(綺麗に打ち返された。切り替え切り替え)
無死一塁で次打者の芝田が左打席に入る。
打席に入ると同時に芝田はバットを横にして犠打の構えを取っていた
(送りだと思いますけど、一塁は足のある青木だし牽制を挟んでみましょう)
箕浦は鶴から出された牽制のサインに頷き、絶妙のタイミングで牽制球を放った
虚を突かれた青木は頭から滑るも間一髪でタッチアウトとなり、無死一塁が一転して一死走者なしに変わった
箕浦は芝田をショートゴロ、3番の新井に四球を出すも4番兼本を併殺打に仕留め初回を無失点に抑える
『1回の裏、守ります大阪浪速タイガースの投手は近藤慶』
相手投手の名前が場内にコールされた瞬間、ライトスタンドから盛大な歓声が沸き起こり近藤がマウンドにゆっくりと登っていく
投球練習を見ながら先頭の昭人と西岡がネクストサークル付近で言葉を交わした
「出塁するから続け」
「相手の度肝を抜いてください」
「どこがいい?」
「じゃショートで」
「うっしゃ」
そう昭人は言い残して打席へと入った
投球映像やスコアラーが言っていたことを思い出しながら内野の守備位置を確認しつつ・・・
(去年の平均球速は146km/h。変化球はカーブとスライダー、チェンジアップ。コーナーに投げ分けてくる・・・。内にきそうだな)
近藤の初球は昭人の読み通り内角へ左打者の背中からくると錯覚するほどのスライダー
しかし、昭人は臆することなくそのスライダーを三遊間へ流し打った
ショート漆畠が逆シングルで打球を捕るも一塁へは投げられず昭人は出塁
続く西岡の打席。2球目に昭人は二盗を成功させて無死二塁と先制のチャンスを作り出す
西岡は右方向へ引っ張り進塁打。一死三塁で3番4番と続くが・・・両外国人が三振に倒れ昭人は三塁残塁に終わる
試合は互いにほぼ毎回ランナーを出すも得点には結びつかず無得点のまま、あれよあれよと最終回へ・・・
4番兼本 4球目を打ちセンターフライ
5番梅木 初球打ち、鋭い当たりもレフトライナー
6番今内 粘って8球目を打つもセンターフライ
箕浦は9回を投げ118球5安打無失点
『9回の裏シースターズの攻撃は5番ライト糸井』
ファンの歓声に後押しされて背番号4がゆっくりと右打席に入る
マウンドには天敵近藤の姿
(俺からだから誰かが出塁したら箕浦さんに代打が出される。このままで終われるかよ)
初球ボールからの2球目を手本のようなセンター返しをして糸井が出塁した
次打者森下は初球を難なくバントを決めこれで一死二塁
勢いに乗り庄司が初球を叩きライト前に運び、一死一三塁
シースターズがここで動きを見て一塁ランナー庄司に変えて鶴岡
8番鶴は相手満塁策で敬遠されこれで一死満塁とサヨナラの絶好のチャンス到来
『9番箕浦に代わりまして代打坂口。バッターは阪口、背番号68』
若き右の大砲候補阪口が代打に告げられ球場の熱気は一段と上がった
阪口はファンのそしてベンチの期待に応えるべくフルスイングをしたが、なすすべなく空振り三振に倒れた
『1番センター昭人』
そして、この試合2安打1四球と結果を残している男が左打席に入った
(甘い球が来たら迷わず打つ!)
近藤が投じたこの試合124球目僅かに内に入ってきた球を昭人は迷わず打ち返した
打ち返された打球は綺麗に右中間に転がり・・・
本拠地開幕戦を見事サヨナラ勝ちで収めた