9話-2:開幕戦~試合~
『試合に先駆けまして、オープニングセレモニーを実施いたします』
『横浜シースターズ、監督は杜克己。続きまして、スターティングメンバーの紹介を致します。
1番センター・昭人、背番号69
2番セカンド・西岡、背番号3
3番ファースト・A.トニー、背番号35
4番サード・ディラン、背番号50
5番ライト・糸井、背番号4
6番レフト・鵜島、背番号56
7番ショート・庄司、背番号41
8番キャッチャー・原口、背番号15
9番ピッチャー西田、背番号10
後攻め、東京ツインゴリアスの監督は原、続きましてスターティングメンバーの紹介を致します。
1番レフト・末野、背番号7
2番セカンド・新野岡、背番号23
3番ショート・酒本、背番号6
4番キャッチャー・鳥羽、背番号10
5番サード・五代、背番号25
6番ファースト・ロッペン、背番号5
7番ライト・高梁、背番号24
8番センター・グラスキー、背番号42
9番ピッチャー・宮原、背番号30』
『国家独唱はSAMPの皆様です』
※国家独唱中・・・
『続きまして、始球式を行います。始球式致しますは第74代目横綱、勢海丸』
※始球式は割愛
『以上でオープニングセレモニーを終了したします。尚、試合開始まで今しばらくお待ちください』
◆◆◆◆◆
三塁側、シースターズベンチ
試合までの間、選手たちはベンチ前に出て素振りを行っていた。先頭打者の昭人に杜監督が近づいて耳打ちをした
「昭人、初球セーフティーな」
※セーフティー:噛み砕いて言えばバント安打。三塁側へのバントと一塁側へのバントに分かれる
主に左打者で俊足の場合が多いが、右打者でもすることがあるような・・・
因みに大概の先発投手は初球はストライクにしないと投手不利なカウントになることもある。特に若い選手だとストライク傾向が・・・
というかボール先行だと守備のリズムが悪くなることがあり、中々攻撃に結びつかないこともあるそうで。単に球数投げ過ぎなんだけどさ・・・
「え?」
「相手の守備を乱すためと投手に安心されないためにな。それと塁に出たらグリーンライトだから。走れよ」
※グリーンライト:要は盗塁いつでもという意味。大抵はベンチからのサインが多いが、チームの余っては特定の選手に対してはあるらしい
「はい!」
相手バッテリーに足があることを意識づけさせるだけでもバッテリーは打者のみに集中できなくなるので、非常に効果があると思われる
◇◇◇◇◇
『1回表。横浜シースターズの攻撃は1番センター昭人、背番号69』
場内アナウンスにのせてゆっくりと左打席に向かう昭人。打席に入る前に内野手陣の守備位置を確認し、「初球セーフティー成功確実」と内心思えた
というのも、サードの五代は三塁ほぼ定位置であったことと、ツインゴリアスは昭人のデータが不足していたという事も重なって・・・
労せずして宮原の初球ストライクを三塁線に転がした
昭人の初球セーフティーはツインゴリアス守備陣に与えた影響は大きく、次打者西岡の打席の前にたまらず捕手と内野陣がマウンドに集まりシフトの確認をするほどであった
「ヘイ、ユー。足ガ早イネー」
マウンドでの確認が終わった相手内野陣が守備位置に就き、ファーストのロッペンが昭人に声をかけていた
「どうもっす」
「セーフティーはサイン?」
「内緒っす」
「トップシークレット? オッケーオッケー」
(西岡さん、わかってますね。エンドランですよ)
昭人はリードをする前に右手でヘルメットのツバの部分に手を触れからベルトに触れた
打席の西岡は昭人からのサインを確認し、右方向への進塁打を意識した
相手先発の宮原は早く一死を取りたくて昭人への集中が疎かになり不用意に投球動作を行った
(絶好球!!)
西岡は甘く入った初球を思いっきり叩き、球足の早いゴロ打球となってライトへ到達した
たった2球で一三塁の好機を作ったシースターズ。一方のツインゴリアスは予想外というよりも殆ど警戒していないなかでの一連のことが起きて宮原とコーチ陣は浮き足だっていた
3番のトニーがきっちりとライトへの犠牲フライを上げて昭人が生還。理想ともいえる形で先制したシースターズ。
その逆であっという間に先制を許したツインゴリアス。しかし、ツインゴリアスは追加点を許さず最少失点で初回を切り抜けた
そして、1回裏の守備に就くシースターズナイン。そのマウンドには期待のルーキー西田の姿があった
西田の隣には高津コーチと原口の姿もあった
「監督の言った通り、初回に先制したな」
「そうですね…」
「西田。緊張を楽しめ」
「コーチ…」
「お前は新人だ。この先いやってほど緊張する場面がくる、だから楽しめ。あとは投球練習と末野への初球は思いっきり暴投しろ。6回まで思いっきり腕を振れ!」
「はい!」
高津コーチと原口はマウンドを降りた。当然残されたのは西田だけ・・・
(思いっきり…思いっきり…)
西田は心の中で何度もそう呟いて投球練習の初球を投じた
ガシャーンッという音と共に投じた球はバックネットに直撃した
気を取り直して投球練習を続けるも、投じた球は目に見えてわかるボール球でツインゴリアス先頭の末野は一旦ベンチに戻り打撃コーチに投球練習での感じたことを伝えた
「制球悪いです」
「そうだな。よっし、待球して球数を投げさせて早い回に降板させろ!」
※待球:投手に球数を多く放らせるための策。基本は際どいストライクコースをファウルにする事
しかし、ツインゴリアスベンチのこの判断は脆くも崩れる事となった
1回終了。1-0でシースターズ1点リード
2回、両チームともに三者凡退
『3回の表、横浜シースターズの攻撃は9番ピッチャー西田。背番号10』
ネクストサークルから左打席にゆっくりと向かう西田。彼にとってこれがプロ初打席
打席に向かう西田に近づく杜。耳打ちをして背中を軽く叩いて打席へと送った
宮原の初球。やや内角に甘く入ったカーブを西田は思いっきり叩いた
打球は高々と上がり・・・上がり・・・あがり・・・
ライト高梁がフェンスを背にしたその上、スタンド最前列に飛び込んだ
シースターズベンチは西田の初ホームランに大喜びし、対するツインゴリアスベンチは一気に消沈した
その裏、ツインゴリアスは先発宮原に見切りをつけ、代打大田を告げた。
これ以上の点を与えないために・・・
しかし、自身のバットで追加点を奪った西田は気を良くしてなんと5回と6回に四球によるランナーを出すもヒットを許さず四球のランナーも併殺に仕留めた
実質、6回まで打者18人で抑えていた
◆◆◆◆◆
一塁側、ツインゴリアスベンチ
7回表をランナーを出すも無失点に切り抜け、ベンチ前で円陣を組んで監督が激を飛ばした
「いつまで、ルーキーにノーノーでいるつもりだ!」
※ノーノー:無安打無得点試合の事
本拠地開幕戦、ましてルーキーにこのままではノーノー達成されては球団史上初の汚名であり、ここ数年優勝していないツインゴリアスにとっては出鼻を挫かれる事となる
が、ツインゴリアスベンチはマウンドに西田の姿がないことに気が付いた
『シースターズ選手の交代をお知らせします。ピッチャー西田に代わりまして、箕浦。ピッチャーは箕浦、背番号18』
場内アナウンスが告げたのは右のエース箕浦。球場内が一気にざわめきだした
箕浦にしてみれば、新人時代に一度だけ中継ぎでの起用があったものの2年目以降はずっと先発で起用されており、傍からみれば箕浦の中継ぎ起用は杜の博打と思われただろう・・・
◇◇◇◇◇
結局、ツインゴリアスは末野が2番手投手の箕浦から放ったセンター前1本に抑えられた
投手陣は8回にほぼ致命的な3点目を奪われ、ツインゴリアス球団史上最悪の開幕戦となった
試合結果
横浜 東京
3 - 0
勝利投手:西田
セーブ:小出
敗戦投手:宮原
本塁打:西田
◇◇◇◇◇
試合終了後、囲み取材を受けていた杜に小出からウイニングボールが手渡されたが・・・
「これは西田に挙げておけ。奴にとってはプロ初勝利の記念球だからな。私から渡しておこう」
小出からウイニングボールを受け取り少しボールを見た後、再び囲み取材は始まった
「杜監督。横浜スポーツ番記者の小川と申します。開幕戦を終えての感想を」
「しんどいね。あと、采配とかについては勝てば選手のおかげ、敗ければ監督のせいだから」
「つまり、開幕に西田選手を当てたのは?」
「過去のデータからとだけ言っておく。これ以上は流石に。あとは選手たちに聞いてみれば?」
杜は言葉少なに囲み取材を切り上げて球場を立ち去った
球場から宿舎帰りのバスの中で西田にウイニングボールを手渡したのは言うまでもない・・・