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私の玉の輿計画!  作者: 菊花
番外編
84/101

ティア姫の大冒険(五)

扉がか細い音を立てながらゆっくりと開いていく。


――あ。


腕を回しぎゅっと息を詰めるティアを隠すように抱え込んだ僕は、その向こう側から現れた人物の姿に、呆然と目を瞠った。


何故? という驚きと同時に感じたのは、やはりそういう事かという納得。

だって、この軽い足音は、どうしても大人のものには聞こえなかったから。

僕らの目の前に現れたのは、僕やティアとそう年が変わらないくらいだろう子ども。

暗がりの中、顔までははっきりとわからないけれど、髪を一つに束ねたその姿からどうやら少年だと推察できた。


取り敢えず、相手は僕たちのことに気が付いていないようでほっとする。

僕はそこで漸く、以前の城でのお化け騒動のときのように悲鳴をあげられると危険だと咄嗟に口を塞いでいたティアへと視線を向けた。

ティアは、僕に口を塞がれていることなど気にも留めてない様子で彼を一心に見つめている。そして、僕の視線に気が付いたようにこちらを見上げて、「どういうこと?」と困惑した瞳で問いかけてきた。

だけどその答えを持っていない僕は、そんなティアに首を左右に振って、ティアから手を離しながらもう一度視線を戻して彼の行動を見守る。

この家には現在子どもはいないと聞いている。彼が不法侵入者であるのは確実だ。けれど、まだ、彼が街を騒がせているという例の盗人だとは言い切れない。

何より、彼も僕らと同じ子どもだからと言って侮り、油断していい相手なのか、状況なのかも判断できない。


息を殺しながら見る視線の先の彼もまた、慎重な様子で首を回して周りの様子を窺っているようだ。


そして、彼はふと狙いをつけたらしい方向へ身体を向け、真っ直ぐ歩を進めだした。

視界から消えた彼は何処へ行ったのか。

彼が向かったのは僕たちとソファを挟んだ向こう側。

見えなくなった彼の姿を追うために、出来るだけ音をたてないように気を付けながら身体を動かし、僕らはソファの横から顔を覗かせる。

すると、壁際に置かれた一つのチェストの前に足を止めた彼の後ろ姿を見ることができた。


今更だけど、この部屋は何の部屋なのだろうか。


はたと気が付いたそんな疑問に、暗闇の中、夜目を凝らしてよく見回せば、どうやらここは倉庫か何かとして使われている部屋のようで、傍らにあるソファの他に、多くの棚やチェストが置かれている。その家具の中でも彼の前にあるチェストは一際大きくて重厚感のある造りをしているもののように見えた。

後ろ姿の彼は、微かな衣擦れの音を立て、服から何か細いものを取り出す。

そしてそのまま上段の扉の方へと手を伸ばした。


――何を?


静かな室内にカチャカチャと金属が小さく擦れ合う音が響き渡る。


その音に、それまで微動だもせず目の前で起こっている光景に見入っていたティアが、突然ビクンと反応して恐る恐るというように身を乗り出した。

彼はもしかしてチェストにかかっている鍵を開けようとしているのだろうか?

そうとしか思えない音だ。

とは言え、もう少し隠れていないとあちらに気付かれてしまう。僕は前へ身を乗り出すティアを引き留めるためにティアを抱いている腕に力を込めた。


そんな時、


驚くことに、鍵を開けることに成功したらしい彼がチェストの扉を開ける音がした。

彼は扉の鍵を持っていたのだろうか?

そう思うほどの手際の良さ。

チェストは、どうやら普通のものとは違う、変わった造りをしているらしく扉を開くとそこには数個の引き出しが隠されていたようだった。

僕らの存在など知らない彼が、手早く引き出しを開けていき、ごそごそと中を探る音がする。

そして、少しの間それを繰り返していた彼が一瞬ぴたりと動きを止めて、

何かを掴んでいるのか、握りしめた手をそのまま勢いよくポケットへと突っ込むのが見えた。

その時、ポケットから零れ落ちた小さなものが、きらりと輝きながら床に跳ね……、

その“何か”はころころとこちらへ転がってきて、僕らの前でころんと動きを止める。

磨かれた小さな石の粒。

それに手を伸ばしたティアは、手のひらに置いたその石をじっと見つめた。


「これって……」


あ。


つい、その光景に気をとられていた僕の腕の中で、ティアが呆然としながら声にして呟く。

ティアは慌てたように自分の両手で口をふさいだけれど、案の定、その声は静かな空間にはっきりと響いて、


驚いたように、彼がはっと振り返った。


僕らの存在を彼の瞳が捕らえる。

瞬時にピンと張りつめた空気。

その中で、咄嗟にティアを後ろに隠し警戒する僕に反して、彼は慌てたように向きを変えてその場から駆け出した。

だけど、


「ちょっと! 待ちなさいよ!」


危ないのに、


「ティア!?」


余計なことに首を突っ込んでほしくなんてないのに、ティアがパッと彼を追おうと僕の後ろから飛び出す。

ティアを庇おうとしたのが裏目に出たようで、僕は慌てて飛び出したティアのその腕を掴もうと手を伸ばしたけれど指先が軽く触れただけで擦り抜けられて。

ティアが一直線に彼を捕まえようと向かって走っていく。


さほど広くはない部屋だ。僕がティアを引き留めるより先に彼はすぐに扉の所で追い詰められて、逃げ切ることを諦めたのかくるりと振り返った。ティアとティアに追いついた僕は彼と向かい合い対峙する。

きつく睨み付ける彼の視線は先に彼を追い詰めたティアへと向けられ、扉へと後ずさりながらも懐から刃物を取り出した彼はそれをティアへと向けた。


城の中であればそうやって僕らを害しようなど、考えただけでも罪となる。

そんな環境の中で、外の世界の常識等知らずにティアは育ってきたのだ。刃物に怯んだように一応足をとめたけれど、それでもまさか本当に自分に危害を加えられるなど、露ほども思っていないのだろう。

ティアも彼を睨み返したまま。


暗い部屋の中、月の光を浴びてきらりと青白く光ったその刀身がティアに向けられている。

そんなぞっとする状況に、僕のほうが耐え切れなくて。


彼の足が動こうとした瞬間を狙ってティアと彼の間に割って入り、小さく震える彼の刃物を持つ両手を叩き落とし、そのまま身体を床にねじ伏せた。

彼が「うっ……」と声を上げ、ぽろりと手から落とした刃物をさっとティアが取り上げる。


「……っ、何するんだよ!」


反抗的な目を向ける彼の腕を思いっきり後ろ側に捩じりあげて。


「それはこちらの台詞だ。妹に、何する気?」


まさか、傷つけるなんて許されないことをするわけないよね?

そういった気持ちと脅しを込めて冷ややかに睨みつけると、彼はそれ以上抵抗することもなく俯きながら呻き声をあげる唇をぐっと噛んだ。

僕は、そこでようやくしっかりと見た彼の顔に、


「君は……」


初めてその顔に見覚えがあることに気が付いた。




「……で? 貴方はいったい何をなさっていたのかしら?」


何故か少しばかり高圧的に、両腕を組んで仁王立ちしたティアがその場に座り込んだ少年を見下ろしながら問い詰める。

あとは大人の領分だ。そう思っておばさんのところに彼を連れて行こうとした僕に、ティアは「ティアが捕まえたんだからティアが色々聞き出すの!」と言い張った。

そういえばティアは冒険ものの本を手に取る前、“正義の力を持って犯人を追いつめる”とかいう、子ども向けのミステリー小説を楽しそうに読んでいたことを思い出す。詳しいとことはよく分からないけれど、おそらくその真似事なのだろう。

本来ならば決して遊びではないから止めるところだけど、一刻も早く彼を引き渡さなければと言う緊急性は特に感じないし、僕はまだ先程ティアに刃物を向けた彼に対して少しばかり怒っている。瞳を輝かせながら見つめてくるティアの希望を無視できるわけがない。

……まあ、問題はないだろう。

遊びにしていいことではないけれど、おばさんに彼を突きだせば僕らはきっと蚊帳の外で、その後は詳しい事情など知ることが出来るかどうかも分からないし。

そう思って僕はティアを見守りながら適当な紐を使って縛り上げた彼の様子も窺った。

彼はもう特に抵抗する気はないようで、けれど完全に不貞腐れた態度で「見てたなら分かるだろ」とぶっきらぼうにティアに向かって吐き捨てた。

けれど、


「貴方は知らないの? 勝手に物を持ち帰ってはいけないのよ。きちんと“お金”を払うものなの。ティアは今日ちゃんと兄上に教えていただいて知っているのよ」


えっへん、と腰に両手を当ててティアが偉そうにふんぞり返る。正直、あまり大したことはないというか完全に一般常識なのに、“どうだ”と言わんばかりに威張っているその様子は、とても可愛らしい。

だけど、


「知ってるよ! そんなこと!!」


どうやらバカにされたと思ったらしい彼はティアをそう怒鳴りつけた。

実際のところバカにしたわけでも何でもなく、むしろティアは“知らない人に教えてあげた”つもりだったはずで。きょとんとして、それから彼の顔をじっと見つめたティアは、何度か瞳を瞬かせた後「あ!」と大きく驚いたように声を上げた。


「貴方、今日、あの女の人と一緒にいた子ね!」

「……今更?」


別に教える必要もない情報だったから特に教えてもいなかっただけなのだけど、あからさまに呆れバカにしたようなティアへの悪態に僕は少しばかり苛ついた。


「……ラミロだよ」

「ラミロ?」

「ぼくの名前!」


それでも、何も分かっていない様子で首を傾げるティアは、どうやら短気な性格らしく声を荒らげたラミロには全く堪えていない様子で、「やっぱりね!? そうなのね!」と一人、正解したことに喜んでいる。

……まあティアが気にしていないならいいけれど。

そして一転、今度は「ふーん、そう」と言いながら作ったような神妙な面持ちでティアはこくこくと頷いた。

一つ、大きく息を吸い込んで、それまでの態度とは打って変わって彼を目を細めて睨み付ける。


「それではラミロ。お訊きしましょうか。お金を払わずに勝手に他人の大事な物を持って行ってしまうのって泥棒というのでしょう? 貴方、さっきお金を払わないといけないのを“知ってる”と言ったわよね? 

つまり、貴方はわざと泥棒をしていたということなの? ……もしかして、貴方が最近街を騒がせているという盗人なのかしら?」


真剣な様子のティアには悪いけれど、先程までのティアの世間知らずゆえの頓珍漢な言葉からあまり期待はしていなかった。でも、どうやらそれは早計だったらしく、ティアはティアなりに状況を読み解いて的確に核心をついていて、僕の横で彼は「ぐっ……」と言葉を詰まらせた。

僕は出来るだけティアが情報を引き出しやすいように、ラミロに問いかける。


「何故こんなことを? もしかしてあの時一緒にいた他の子たちも?」


すると、すぐに「違うよっ!」とラミロが僕にむかって叫んだ。


「あいつらは関係ないよ! 違うんだ……。ぼくだけだよ。あいつらにはやらせてない。関係ないんだ。それに、ぼくだってこうやって盗みが良くないことくらい分かってる。やりたくてやっているわけじゃない」

「なら、」


なんでこんなことをしているの?

そう、ティアは尋ねようとしたのだろう。

そこでラミロが口を開く。


「でも、あの人が……!」

「あの人?」


ラミロの言葉尻を掴んでティアが繰り返した言葉に、彼は顔を顰めて、でも意を決するように唇を噛みながら頷いた。


「……あの女だよ。ソフィー・アシェル。僕らを孤児院から引き取って善人の皮を被ってるけど……」

「けど、なによ?」

「違うんだ。あの女はそんな人間なんかじゃない。誰一人、欠けさせたくないなら金になるものを盗って来いってぼくを脅してくるような人間だよ。ぼく、孤児院にいたころは脱走の名人で、どんな鍵でも開けてよく外に遊びに出てたんだ。それを知ってあの女はぼくたちを選んで引き取ったんだって。ぼくに盗みをさせるために。みんなはぼくへの人質だって。だから、言うこと聞かないとあの女、一番小さいカルディナの食事だけ抜くんだ。ぼくが言うこと聞くまでずっと。『カルディナがどうなってもいいの?』って」

「何それ? そんな場所、早く逃げ出せばいいじゃない」


ティアが眉を寄せながら疑問を呈すと、けれどラミロは苦しげな表情で思い切り首を左右に振った。


「無理だよ。一度だけやってみたことあるけど、あの女、猫なで声でぼくたちを呼びながら街中探すんだ。『どこへ行ったの? 私の子どもたち』って。あの女、街での評判だけはいいから、街中の人達がぼくたちを探すの手伝って見つけ出されちゃう。ぼくたちが何を訴えても街の人達は『ソフィーさんを困らせてはいけないよ』ってぼくたちを嗜めるんだ。独りならなんとかなったかもしれないけど、5人なんて大人数で逃げ出せないよ……」

「……」


困惑したような瞳をこちらに向けてくるティアを見つめ返しながら、僕は考え込む。

この彼の証言を嘘偽りのない真実ととってよいのかどうか。

実際、こういう事例が全くないわけではないのだ。

孤児院から孤児を引き取れば、国から毎月の補助金が出るけれど、それは市井に人々の感覚でしてもそんなに多い額ではない。ほとんどの里親たちは補助金目的ではなく、温かな心で子どもたちを引き取るという。

けれどやはり、全てがそうと言うわけではなく、中には里子を賃金の要らない使用人代わりにと引き取っていく者が、どうしてもいるのだ。仮に盗みをさせるための“道具”とする人間がいないとは言い切れない。

が、ラミロを見た限りでは明らかに痩せていたり、暴力を振るわれたという様子もない。

何かが引っかかる。

ラミロの証言を鵜呑みにするには今一つ信用性に欠ける。


「それで、こうして盗んだものはどうしているんだい?」

「勿論、あの女に全部渡してるよ。さっきも言った通りぼくは本当は泥棒なんて好き好んでやってる訳じゃないから」

「じゃあ、それを彼女は?」

「現金ならそのまま自分の懐に収めてる。物は売り払ってるみたいだよ。盗って来るなら出来るだけ足のつかない高価なものにしろって言われてる。さっきのような石とかね」


腕を縛られて身動きの取れない彼は、顎をしゃくることでテーブルの上の、先ほど彼が盗もうとしていた石の粒の小山を指し示した。

無色透明のそれは、僅かな月明かりでもキラキラと美しく輝く。


「……そう」


おばさんは今日僕らが買い物をした安価な店だけではなく、もう一軒、ちゃんとした宝石店も営んでいると言っていた。おそらく高値で取引されるであろうその石は、そちらの方の商品なのだろう。


さて、どうすべきか。


この分だと、彼女の家に証拠品となるものが置かれていることは期待できないだろうし、この話が今ここで彼によってでっち上げられた嘘でしかない可能性もある。

もし嘘であるなら、今ラミロを捕らえなければこのまま逃げる機会を与えるだけだ。

だが、真実であった場合、ここで彼を捕らえるべきではない。きっと首謀者となる彼女はラミロ一人を悪人として上手く言い逃れしてしまうだろうから。

最初はおばさんたちにラミロを差し出して終わりとするはずだったけれど、どうやらそれは一度考えたほうがよさそうだ。

確かな裏付けがない限り下手には動けない。

どうすれば的確に真相を見極めることが出来るだろうか。


腕を組んで、そんなことを悩んでいると、「……なあ」とラミロが俯きながら僕らに声をかけてくる。


「お前ら、ぼくのこと、大人たちに言いつけて捕まえさせるの?」

「嫌かい?」

「……ぼくが別に捕まるのはいいよ。いつか見つかるって思ってたし。けど、ぼくが捕まったら、他の奴らが心配だなって」


顔に苦悶を湛え、吐き出された言葉は本当に本心からのもののように辛そうで。


「かわいそう……」


そこで僕の隣から聞こえたティアの小さな声。

見れば、ティアが僕と揃いの青色をした大きな瞳からほろほろと大粒の涙を流している。


「ティア……」


こんなこと、これまで城の中で大切にされながら育ってきて、外の世界の現実を知らないティアには信じられないような話だろう。


疑うことを知らず、純粋に「許せない」と呟くティアはとても悔しそうで。

微かに震えながら俯くティアの頭をなでていると、ティアは潤んだ瞳で見上げてきて、僕は心臓を“うっ”と掴まれた。

その縋るような眼差しに。


あぁ、これは――。


嫌な予感がした。


「やっぱり……。早くあの人を捕まえないとダメよ」

「……」

「やっぱりティアの予感どおり、あの人は悪い人だったんだわ」


ティアの、最初は呟くようなものだった声が、断定したようなはっきりとしたものに変わり、その瞳に闘志が宿る。その様を見て、僕はその案の定な展開に若干顔をひきつらせて一歩後ろに下がる。

だけど、そんな僕にティアは距離を詰めながらはっきりと僕に訴えてきた。


「ねえ、兄上。私、ラミロの力になってあげたい」

「え、いや、力に、と言われても……」


本当に彼女を悪者としていいのか、その答えが出ないから僕は考えあぐねている僕としては、そんなティアの気持ちに戸惑ってしまう。


なのに。


「だって、ラミロは言ったわ。大人たちに言っても信じてくれないって。だから私たちで何とかしてあげなきゃ。だからお願い! 困ったとき、兄上はいつも私を助けて導いてくれるでしょう?」


穢れのない正義感と、僕に向けられた絶対的な信頼に、僕は言葉を詰まらせる。


下手なことを言って、ティアを失望させたくなんかない。


分かってる。

ここでティアの瞳に心動かされたら、きっとまた良くないことになる。

そう、たとえば、僕らが今ここにいる現実のように。

城の外に出るなんて、国王の子としての自分を顧みれば、こんなことしてはならなかったことだ。

いくらティアに願われようともこのまま流されてはいけない。

していいことと、悪いことがある。

意識ではそう、分かっているけれど、


「この国の人たちの暮らしを護るのが私たちの役目でしょう? 兄上」


そんな風にまで言われて。

もう僕はティアの言葉を実行しないわけにはいかなくて。

また今回も同じ轍を自らすすんで踏みに行ってしまう。


「そうだね……。ティア」


ティアの期待を裏切るなんてこと、僕に出来っこないのだから。


僕は己の敗北にそっとため息を吐いて、父上と、ついでに目の前にいるラミロに心の中で謝罪する。


これはあまり使いたくなかった、人の心を踏み躙る酷く卑怯なやり方だ。

もしかするとティアを悲しませる、良くない結果となる可能性もある。

でも、現状で僕には他に良い方法など思いつかない。ティアの望みを叶えるにはこの方法しかない。


だから、


「それならティア」


寝巻のポケットに手を入れて中にあるものを握りしめた。




「僕はこれを使おうと思うんだ」

「……え?」



ティアの前に差し出したのは、ティアから預かったまま何かあったらと肌身離さないようにしていたティアの、父上から贈られた虹色の石が輝く首飾り。


これを使って、僕は一か八かの賭けに出よう。

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