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私の玉の輿計画!  作者: 菊花
閑話
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ハロウィン(アルフレッド&マリア)

~シーラ登場後、陛下がエリカの部屋に行かなくなってから(第三八~四六話の間)のお話~

「アル様、アル様。“Trick or Treat!”ですわ」


今日は用がないはずなのに。

執務室の扉を軽やかに叩き、勝手に中へと入ってきたマリアが、唐突にアルフレッドへと手を差し出し、そんなことを言った。

その彼女の姿を見て、アルフレッドは思わずギュッと眉を寄せる。

いつもは高いところで一つにまとめられているマリアのふわふわの髪の毛が今日は肩に落とされていて、普段はリボンのある頭の上には見慣れぬ黒いものが二つ、左右に乗せられているのだ。


「……なんですか、いきなり。それにその頭のものは?」


まるで頭からぴょこん、と生えているような三角形のそれを、マリアは嬉しそうにツンツンと人差し指で突きながら微笑み、小さく首を傾げた。


「猫耳ですの。可愛いですか?」


猫耳。

それは見れば分かる、が。


「……だから、なんでそんなもの付けてるんですか」


だが、アルフレッドの素っ気ない反応がマリアはどうやら気に入らなかったらしく唇をとがらせて抗議をしてきた。


「……ちょっとくらい誉めてくださってもよろしいのに」


不満たっぷりということを思いっきり態度で示し、けれどそんな冷たい態度には慣れているせいかマリアは少しむくれてから、すぐに気を取り直したようで、ピンと人差し指を立ててアルフレッドへと説明を始める。


「今日城下ではハロウィンのお祭りがある日だとエリカ様が仰ってて、わたくしも庶民流のハロウィンの楽しみ方を教えていただいたのです。城下では皆様このように仮装をして街を練り歩いたり、パーティーを開かれたりするそうですわ。とても楽しそうでしょう? でも此処で派手な仮装をするわけにはいきませんから、せめてとこれを付けて雰囲気をお届けに参りましたの」

「誰も頼んでいませんが……。それにしても、よくこんなものありましたね」


とても実用的と言えるものでも、ましてや使用機会があるともまるで思えないそれは王城にあるはずのないものだ。一体どういう入手経路を使ったというのだろうとアルフレッドは首を傾げる。そんなアルフレッドにマリアは得意げに笑った。


「ふふふ。エリカ様の手作りですのよ。花祭りのときのように、もうお城から抜け出して収穫祭(ハロウィン)に参加することは出来ないから、せめてと仰って。色々とご自分で作られて仮装したり、お部屋の中もとても可愛らしく飾り付けされているんですの。陛下もいらっしゃればよろしいのに。きっとびっくりされますわ」

「それは無理だ」


執務机で書類に目を通しながら、顔を上げることもなく短くそれだけジェルベが答える。


「そうなんですの? 残念ですわね」


言葉とは裏腹にさして残念そうには思えないわざとらしいしぐさでマリアは頬に手をあてた。

別に、マリアがジェルベを嫌っているわけではないだろうことはわかる。が、もしかするとマリアが、以前は冗談っぽく言っていたけれど、本当にジェルベに対して変なライバル心を燃やしてそうな気がして何となく怖い。

気のせいだと良いのだが。そんな嫌な予感がして、アルフレッドは話題と、シンとした場の雰囲気を変えるためにもそんなマリアの猫耳を手に取って見てみた。


「それにしてもよく出来てますね。これ」


針目もそろっていて、よく見ると細かなところまで手が込んでいる。


「エリカ様は昔、こういうものを作る内職をされていたそうですわ。もとから手芸は得意らしいですけれど」

「……そう」


なんだかこの芸達者ぶりといい、就いた職の多さといい、素直に彼女を誉めようと思えないのは何故だろうか。

アルフレッドが若干呆れの色も混じったため息を落とすと、そこへ突然、ずいっとマリアが一歩前に進み出てきた。


「ところでアル様」


なんですか? とマリアを見ると彼女は悪戯っぽく笑う。何かをたくらんでいるような顔。

そしてマリアは片手をアルフレッドに差し出す。


「“Trick or Treat!”」


それは、一番最初にも言われた台詞。

けれど、ハロウィンに参加したことのないアルフレッドでもこの台詞くらいは知っている。


「お菓子をくれなきゃ悪戯する、ね。……はい、どうぞ。マリアに差し上げます」

「な、なんで」


アルフレッドがマリアの手にキャンデーを置くと、彼女は驚いたような声を上げた。

自分も、そしてジェルベも甘いものを好まないということを知っているからだろう。何故、ここにこんなものがあるのだというような顔だ。


「悪戯されたらたまりませんからね。貴女のために用意しておいたんですよ。これを持って大人しくエリカ嬢の元へお帰りなさい。仕事の途中でしょう?」

「……どうして? どうして、わたくしがこうしてやって来るとお分かりになりましたの?」

「なんとなく、ですよ」


仮装付きだったのは少し予想外だったけれど、ハロウィンのことを知ったらマリアがどうするのかくらい、ずっと追いかけまわされているのだ。そんなの、想像に難くない。

マリアはアルフレッドの答えに口をつぐんでむぅっと押し黙る。そして、


「……も、もうっ。今日こそアル様のキスの一つでも奪って差し上げる予定でしたのに、作戦失敗ですわ」


悔しそうにむくれた。

けれど、


「でも、……アル様がわたくしにと、このキャンディーを用意していてくださっていたことは少しだけ嬉しかったから、今日は大人しく戻って差し上げますわ」


そう言って、手の上のキャンディーをぎゅっと握り胸に抱きしめたマリアが、本当に嬉しそうにはにかむから。


「マリア」


キスなんてしてあげないけれど。

背を向けて足早に去っていこうとするマリアを後ろから抱きしめるようにして引き留めて、わざとその顔が、耳まで真っ赤になるように「忘れ物ですよ」と囁き、手にしたままだった猫耳をやっぱりわざと優しい手つきで頭に付け直してあげたのは、そう、


それはきっと、ただの気まぐれ――。

「……歪んでるな」

「何です? 陛下?」

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