一、前世と今の落差
前世の私はとても幸せだったと、我ながら思う。
一国の王女として生まれ、何不自由なく育ち、たくさんの人々から無条件に愛されていた。
いつも豪華で美味しいお料理を口にして、最高級のドレスやアクセサリーを身に纏う。
身の回りの世話は全て用意された侍女たちがやってくれるから私は“苦労”というその言葉を知らずにいられた。
まさに夢のように美しく華やかで楽な人生だった。
たった20の若さで落馬という間抜けな死に方をしたことが悔やまれる。
そして、私は転生した。
そう。新たな人間として生まれ変わったのだ。
しかし、
あろうことかただの庶民に!
今の私は町民Dといったところだろうか。
Aなどのように目立ちもしない。掃いて捨てるほどいる小娘の一人。
毎日せっせと働き少ない賃金をもらって節約しながら、とりあえず寝る場所と食べるものを確保する。
そんなみじめな生活を私は余儀なくされているのだ。
なんという降格っぷり。
こんな現実、私が受け入れられるか!!
それでも天は私の味方をしてくれていたらしい。
私が今暮らしている国・レストア王国の首都にある中央広場で、私は一人ほくそ笑んでいた。
ここには公共掲示板があって、日雇いの高額バイト情報などがたまに掲示されている。普段からマメにチェックしに訪れるのだが、今日は一味も二味も違った。
『身分を問わず、国王の側室を募る。
希望者は本日10時に王城前へ集まること。
選定試験を行い、合格者を側室として迎え入れることとする』
そう書かれた紋章入りの高級そうな羊皮紙が掲示板に貼られていたのだ。
これは、この人生最大のチャンスに違いない。
本当は地位的に王妃を狙いたいところだがそのためには今のこの身分が邪魔だ。
しかし、側室であればそれを憂えることはない。
位と権力は落ちてしまうが側室であっても王の子を産み、寵愛をうけることさえできれば一生王族と変わりない生活を送ることが出来る。
私の心臓は高鳴った。
もう一度、あの美しく華やかで楽な生活を取り戻すことが出来るかもしれない。
いや、絶対に取り戻してみせる。
いざ、勝負!!
私はひとまず有りっ丈のお金を掴んで街へと走った。
集合時間である10時までに出来るだけの準備をするために。