・第7話
「…カミーラが倒されたか」
「はっ。どうやらあの二人は我々が考えていた以上に力をつけてきているようです」
「これで奴らには6個のクリスタルが渡ってしまったのだぞ。残るはお前の持っている紫のクリスタルだけなのだぞ」
「…申し訳ありません、ギガス様」
「しかし、これだけの間にあれだけの力をつけてきたとはな」
「私もそこまでは計算に入れてませんでした」
「まあよい。それよりダルク、もうお前が出てくるしかないな」
「そのようですね。何としてもあの二人を倒さないと我々はまた封印されてしまいます」
「頼むぞ、ダルク」
「わかっております。何としてでも2人を生かしておくわけにはいきません」
*
カミーラを倒した翌日。
ユアンとフレイは町はずれに来ていた。
「あと一つか…」
ユアンは自分の剣に残っているただ一つだけの穴を見てつぶやく。
そう、そこにあと一つクリスタルをはめれば、今彼らの持っている剣は本来の力を発揮する、というのだ。
「そうね。あと一つ見つかればいいけれど…」
「しかし、ここまで来るとダルクだってギガスだって必死のはずだ。何としてでもクリスタルを手に入れようとしているはずさ」
「…」
それを聞いたフレイは黙ってしまった。
「…まだ、気にしているのか?」
「そういうわけじゃないけど…」
そう、カミーラを倒したものの、一度はフレイは人質となってしまったのだ。
「あまり気にするのもよくないぞ。今はとにかくクリスタルのことだけを考えろ」
「…そうね。そうかもしれないわね」
「…それでフレイ」
「なに?」
「いや、オレもよくわからないんだが師匠――つまりお前の爺さんだな――とオレの親父が50年前に『封印』をした時もやはりダルクやギガスは強敵だったのか?」
「うーん。あまりお祖父ちゃまも詳しくは話してくれなかったけれど、かなり大変だった、って話だわ。それに、ユアンのお祖父さんと一緒に『封印』をした時ってあたしやユアンより少し年が上だった頃だもの。50年前と今じゃいろいろと違うし、単純に比較もできないわよ」
「まあ、それはそうだけどな…」
「…大体、ユアンの方はどうだったの?」
「どうだったといわれてもなあ…。オレの親父はオレが物心つくかつかないかの頃に死んじまったから、師匠からしか聞いたことないからな。おまえが聞いた以上のことはオレにもわからないと思うぜ」
「ただ、カミーラがあれだけの相手だったもの。ダルクだってギガスだってそう簡単にはいかないかもしれないわね」
「ああ。だから…!」
不意にユアンが立ち止った。
「どうしたの?」
「静かにしろ!」
ユアンが耳を澄ます。
「…伏せろ!」
「え?」
フレイは状況をわからないまま、ユアンに手を引かれて、道の真ん中に伏せる。
次の瞬間、二人の上を何かが飛んでいった。
そして二人な何かが飛んでいった方向を見ると、大きな石が木にぶち当たっていた。
次の瞬間、近くの草むらがガサガサッ、と音を立てた。
「来るぞ!」
ユアンが叫ぶとともに鞘から剣を引き抜く。
それを見たフレイも短剣を引き抜いた。
二人に二匹の巨大な怪物が襲い掛かってきた。
しかし、二人にとってはすでにこの程度の怪物など敵ではなく、あっという間に斬り捨てた。
しかし息つく暇もなく、再び怪物が襲い掛かってくる。
二人は再び斬り捨てる。
これで終わりか、と思ったら、今度は4匹の怪物が二人に襲い掛かった。
「二手に分かれよう。フレイはそっちをやれ。オレはこっちだ」
「了解!」
そして二人は2匹ずつを相手にし、次々と斬り捨てた。
「…いったいいつまで続くんだ!」
ユアンがそうつぶやいた時だった。
「…さすがだな。どうやらかなり腕を挙げているようだ」
二人の背後で声がした。
声のした方向を見る二人。
「おまえは…」
そう、ユアンたちの目の前にはダルクが立っていたのだった。
「…来たか!」
「私もおまえたちが来るのを待っていた。まずはここまで来たことと、カミーラを倒したことだけは誉めてやろう。だが、それもここまでだ」
そう言うとダルクは腰から剣を引き抜いた。
それを見たユアンも鞘から剣を抜く。
そしてフレイも自分の短剣を抜いた。
「…おまえを倒してせるさ。そしてクリスタルを手に入れる」
「ふっ。言うことだけは一人前だな。果たして私を倒してクリスタルを手に入れることができるのかな?」
「どんなことがあろうと倒して見せるわ」
「フレイ、行くぞ!」
「うん」
「ふ、二人一遍に相手にしてやるわ!」
そしてユアンたちはダルクに立ち向かっていった。
ユアンがダルクに向かって剣を振り下ろした。
しかしダルクは自分の剣でそれを受け止める。
それを見てフレイがダルクに切りかかった。
しかしダルクはフレイの短剣もその剣で受け止めた。
その隙を狙ってユアンが再びダルクに切りかかった。
「…何!」
ユアンが驚く。
そう、ダルクは自分の剣でフレイの短剣を受け止めているとともにいつの間にやら取り出した鞘をユアンの手首に当て、剣がそれ以上振り下ろせないように防御していたのだった。
「…どうした、それだけか?」
ダルクの声に思わず二人は一歩引く。
「それじゃ、今度はこっちの番だな」
そういうとダルクは二人に襲い掛かった。
ダルクがユアンに向かって剣を振り下ろした。
ユアンは頭上に向かってきた剣を自分の剣で受け止める。
しかし、ダルクの力は意外と強く、少しずつ押されていった。
「ユアン!」
フレイはそう叫ぶとダルクに後ろからかかっていく。
それを見たダルクはユアンから離れるとフレイに向かって剣を振り回した。
すんでのところで、フレイがそれをかわし、胸のあたりをダルクの剣が掠めた。
「フレイ、大丈夫か!」
そう叫んだユアンの動きが止まった。
フレイはいったい何が起こったのか理解できなかった。
ダルクが勝ち誇ったかのとうに
「ふふふ。その格好で戦えるかな?」
そう言われてフレイは自分の胸元を見る。
「フレイ!」
「…!」
そう、フレイの着ている服の左胸の部分が切り裂かれ、胸がはだけてしまっていたのだった。
「きゃーっ!」
慌ててフレイは胸を隠した。
「こいつめ!」
そう叫ぶとユアンはダルクに切りかかって行く。
しかし、ダルクはユアンの攻撃を片っ端から防いでいく。
そして少しずつではあるが、ユアンが押されていく。
それを少し離れたところでフレイが見ていた。
相変わらず胸を手で覆ったままであり、左手に持っていた短剣は鞘に納めてあった。
あの時、ダルクは最初からフレイを傷つけるつもりはなかったのかもしれない。
こうしてフレイに辱めを与えることで戦闘不能にし、ユアンをまず倒してから自分を倒すつもりだったのかもしれない。
そのことに気が付かなかった自分が歯がゆかった。
フレイはユアンとダルクの戦いを見ていた。
少しずつではあるがユアンがダルクに押されていっている。
「…!」
それを見たフレイは意を決したかのように左手を胸から離し、鞘に納めていた短剣を引き抜くと再びダルクに向かっていった。
ダルクがユアンに向かって剣を振り下ろした。
その時、ユアンの目前で何が当たる音がした。
「フレイ!」
そう、フレイがユアンの目の前で短剣を使ってダルクの剣を止めていたのだった。
「ユアン。今はダルクを倒すのが先よ」
「しかし…」
「忘れたの? あたしだって勇者の孫、一人の戦士なのよ!」
その言葉を聞いたユアンはちょっと考えたが、すぐに、
「…よし、わかった!」
そして二人は再びダルクに立ち向かっていく。 ダルクがユアンに向かって剣を振り下ろした。
「ユアン!」
フレイは叫ぶとダルクの前に立ち、振り下ろした剣を受け止めた。
しかし、その威力は強く、フレイは片方の短剣を弾き飛ばされてしまった。
「…」
フレイは弾き飛ばされた剣を拾おうとしたがその隙をついて、ダルクがフレイに切りかかる。
フレイはもう片方の短剣でダルクの攻撃を防ぐ。
「フレイ!」
ユアンはそう叫ぶとダルクに向かい大上段から斬りかかった。
それに気が付いたダルクがユアンに向かって剣を振る。
鉄と鉄が当たる鈍い音がしてユアンとダルクの剣が切り結ぶ。
そして二人は離れた。
そしてユアンが斬りかかったが、それよりわずかにダルクの剣が早く、ユアンは剣を弾き飛ばされてしまった。
「…!」
ユアンは剣の弾き飛ばされた方向を見、そしてあたりを見回して、自分の足元で一審視線が止まった。
「ユアン!」
フレイはユアンのもとに向かおうとしたその時、
「フレイ、手出しはするな!」
ユアンが叫ぶ。
「フフフ、威勢だけはいいな。だが、これで終わりだ!」
そう叫ぶとダルクはユアンに向かって剣を振り下ろす。
その時、何かドスッ、という音がした。
「…?」
ダルクがユアンを見る。
ダルクの懐でユアンが短剣をダルクの胸に突き刺していた。
ユアンはダルクが斬りかかってきた一瞬の隙を突き、自分の足元に転がっていたフレイが落とした短剣を拾ってダルクを刺していたのだった。
「まさか、そんなことを…」
そしてダルクが倒れた。
それを見たユアンも片膝をつく。
「ユアン、大丈夫?」
フレイがユアンに駆け寄る。
「これくらいだったら大丈夫だ。それにしても肝心な時にこんなザマじゃな。たまたまフレイの短剣が落ちてたからいいけれど、もしなかったらどうなってたか…」
そういうとユアンは立ち上がった。
「でも、血が出てるわよ」
そう、ユアンの左の二の腕から血が流れ出ていたのだった。
「それよりおまえこそどうなんだよ。早く隠せよ」
そう、さっきから左胸が露わになったままだったということからか、ユアンはさっきからフレイと目を合わせないままだったのだ。
「あ…」
ようやく気が付いたが、フレイが左手で胸を隠す。
「…ユアンだったら…」
フレイがボソッとつぶやいた。
「なんか言ったか?」
「な、なんでもない」
そして二人はしかるべき処置をしたあと、
「それよりクリスタルはどうした?」
「大丈夫。拾っておいたわよ」
そしてフレイは紫のクリスタルをユアンに手渡した。。
ユアンはそのクリスタルを残った最後の穴にはめ込む。
その時だった。
「…あ」
「…どうしたの?」
「これ、見ろよ」
フレイはユアンの剣を見る。
そう、、ユアンの持っている剣にはまっている5つのクリスタルが光を放っているのだった。
すると、
「フレイ、おまえ、自分の短剣を見てみろ」
そう言われて、フレイは腰につけてあった2本の短剣を見る。
「あたしの短剣もクリスタルが光ってる…」
そう、フレイの持っている2本の短剣もそれぞれにはまっているクリスタルが光を放っていたのだった。
それはお互い共鳴しているかのようであった。
「…これは…」
「もしかしたら、この剣と短剣が7つのクリスタルを集めたことで真の力を解き放とうとしている、っていうことじゃない?」
「そうかもしれないな。…そういえばなんとなく剣が軽くなったように感じる」
もちろん、剣そのものの重さが軽くなった、というわけではないだろうが、7つのクリスタルがそろった、ということはそれだけの力が生み出されようとしている、ということなのかもしれない。
「…これでクリスタルは7つそろった」
「残るはただ一人、ギガスだけね」
「よし、この調子でギガスも倒すぞ」
「うん!」
(第8話に続く)
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