・第6話
洞窟から少し離れた物陰。
「…連れて来たのか?」
ダルクが聞くとカミーラは肩に担いでいたモノをおろした。
二人の足元にはフレイが猿轡をかまされ、後ろ手に縛られた格好で転がされていた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫。気を失っているだけよ」
「…それで、クリスタルは?」
「ここにあるわ」
カミーラはダルクの目の前に1本の短剣を差し出した。
それには赤いクリスタルがはめ込まれていた。
「それで、あの男はどうするんだ?」
「私に考えがあるわ。それまでこの小娘は大事な人質としてとっておかなきゃ…」
*
ユアンは洞窟内を探したが、フレイの姿は見当たらなかった。
となると、もうフレイは連れ出されてしまったということなのだろうか?
ユアンはそう思いながら洞窟を出た時だった。
「…なんだ、あれは?」
そう、木の幹に紙が止めてあったのだ。
ユアンは紙を見る。それには、
『女は預かっている。命が惜しかったら明日の朝、北の町はずれまで来い』
とだけ書かれてあった。
「やはり連れて行かれたのか…」
ユアンはそうつぶやくと紙を握りしめる。
「もっと早く気が付いていればよかった」
しかし起こってしまったことを悔やんでも仕方がない。
とにかく今はフレイを助け出すことが先決である。
ユアンはフレイの残していった短剣を見る。
「フレイ、無事でいてくれ…」
*
翌朝。
北の町はずれの場所を聞いたユアンはそこへと向かっていた。
どのくらい歩いただろう、そこは見渡す限りの荒れた土地だった。
「約束通り来てやったぞ! フレイはどこだ!」
「…よく来たわね。待ってたわよ」
ユアンは声のしたほうを振り向く。
「…!」
その光景を見てユアンは絶句してしまった。
そう、荒野の真ん中でフレイが磔にされていた。
そしてその傍らに立っているのはカミーラだった。
「フレイ!」
ユアンがフレイに近づこうとした時だった。
「…おっと、この小娘の命が惜しかったら動かないことよ」
そう言うとカミーラはフレイの首筋に短剣を突きつける。
「う…」
ユアンはその場に立ち止った。
「あんたたちが50年前に私たちを封印した奴の孫だ、ってことくらいは知っているわよ。そして今度は私たちをまた封印しようとしていることもね」
「…すると、これまでに魔物や怪物が暴れてきていたのも」
「そうよ、封印が破れて出てきた結果よ。でもすぐに誰かが始末してしまう。なぜかと思っていたら50年前の時の子孫があちらこちらで封印していた、ってわかったのよ。それがあんたたちだってわかったのはしばらく経ってからだけど。それにしてもその子孫の一人がこんな小娘だったとはね」
「それで、何が目的なんだ」
「知れたこと。あんたの持っているクリスタルを全部渡しなさい」
「…クリスタルを、だと?」
「そうよ、もう50年前のようなことはまっぴらだわ。この小娘の命が惜しかったら、今まで手に入れたクリスタルをこっちに引き渡しなさい」
「ユアン、あたしはどうなってもいいから戦って!」
それを聞いたフレイが叫ぶ。と、
「えーい、うるさいわね!」
そう叫ぶとカミーラはフレイの頬を平手で打ち据える。
そして、フレイの首筋に短剣を突き付けた。
それはフレイから奪ったクリスタルがはまった短剣だった。
「さっきから黙っていれば付け上がって! あんた自分の立場を少しは考えなさい。そんなに死にたいの?」
「いつでも死ぬ覚悟はできているわよ。あんたの言うことを聞くなら死んだほうがましだわ。さあ、早く殺しなさいよ!」
「そこまで言うならお望みどおりにしてあげるわよ!」
その時だった。
「待て、フレイに手を出すな!」
ユアンが叫ぶ。
それを聞いたカミーラが後ろを振り向く。
「あら、どういうことかしら?」
「お前の言うとおりにする。だからフレイには手を出すな」
「ユアン!」
「あら、いうことを聞く気になったのね。…それじゃ、まずそのクリスタルを全部外しなさい」
そう言うとカミーラはユアンの持っている剣を指差した。
そしてユアンは自分の剣から4個のクリスタルを抜く。
「ユアン!」
フレイが叫ぶ。
「それをこっちに寄こしなさい」
次の瞬間、ユアンはクリスタルを思い切り高く投げ上げた。
「なにっ!」
思いもしなかった行動にカミーラが一瞬上を向いた。
その瞬間を見逃すユアンではなかった。
(…今だ!)
「フレイ、動くな!」
「え?」
ユアンの右腕からフレイに向かって何かが投げ出された。
次の瞬間、横木に短剣が突き刺さっていて、フレイの右腕を縛っていたロープが切られていた。
そう、ユアンはカミーラの注意をよそに向けている間にフレイのもう片方の短剣を投げていたのだ。そしてそれは狙い違わずにフレイを縛っていたロープを切った、というわけである。
フレイは自由になった右腕で短剣を引き抜くと、急いで左腕と足首を縛っていたロープを切った。
「う…」
しかし、今はクリスタルのほうが大切と思ったか、カミーラはクリスタルのほうに手を伸ばす。
しかしわずかにユアンが早く4個のクリスタルを取り戻していた。
「う…」
「さて、今度はこっちの番だな」
手早くユアンは4個のクリスタルを剣に戻すと、カミーラに向かって行く。
「くっ…」
カミーラはそれを見ると細身の剣を取り出して臨戦態勢に入った。
ユアンがカミーラに向かって切りつける。
その時だった。
「えいっ!」
フレイが横からカミーラに向かって切りかかった、
すんでのところでカミーラがフレイの短剣を受け止める。
「フレイ!」
「ユアン、この女はあたしにやらせて!」
フレイが言う。
「…わかった。頼むぞ、フレイ」
二人はしばらくにらみ合うと離れ、カミーラがフレイに上段から斬りかかった。
目の前のところで短剣で防ぐフレイ。
しかしカミーラは女とは思えない力でフレイに剣を押し込む。
すると、不意にカミーラが剣を振り上げた。
「あっ!」
その勢いでか、フレイの短剣が弾き飛ばされた。
フレイの視線が飛ばされた短剣のほうを向いた瞬間、
「隙あり!」
カミーラがフレイに斬りかかろうとしたその時だった。
「フレイ!」
そう叫ぶと、ユアンがカミーラの脇腹に剣を突き刺した。
「うっ…」
その一撃が効いたか、カミーラがよろめいた。
「フレイ、今だ!」
「え?」
「ぐずぐずするな、早くやれ!」
そうやらユアンはとどめをフレイに任せたらしい。
「う、うん!」
そしてフレイは急いで短剣を拾うと小走りでカミーラに駆け寄り、2本の短剣を振り上げる。
「えーい!」
フレイはそう叫ぶと目をつぶり、短剣を振りおろしてカミーラを右肩から左わき腹、左肩から右わき腹、とX字に切り付けた。
「あ…ああーっ!」
カミーラが断末魔の悲鳴を上げると、その場に倒れる。
そしてフレイの足元にピンクのクリスタルが転がり落ちた。
「フレイ」
ユアンが言うとフレイはピンクのクリスタルを拾い上げ、それをじっと見ていた。
「…フレイ!」
「あ…、うん!」
ユアンが促すように言うと、フレイはやるべきことに気が付いたか、クリスタルをカミーラに向けた。
カミーラがクリスタルに吸い込まれたのを見届ると、フレイは自分の短剣にクリスタルをはめる。
すると、フレイの2本の短剣のクリスタルが意思を持ったかのように輝く。
「あ…」
「どうしたんだ?」
「なんだかわからないけれど、剣がものすごく軽くなった気がする」
そう聞いたユアンもフレイの持った2本の短剣を覗き込む。
フレイの持つ2本の短剣のクリスタルはそれぞれが共鳴しているかのように輝いていた。
「…そういえば、おじいちゃまに聞いたことがあるわ。ユアンの剣とあたしの短剣はクリスタルが全部嵌った時に本当の力を発揮するって」
「それじゃフレイの短剣は…」
そう、ユアンの剣は5個クリスタルが必要だが、フレイの短剣は1個ずつ、2個あればすべてがそろうはずである。
「うん。でも片方がそろっただけじゃまだ半分の力も出せないんだって」
「それじゃ、どうしてもあと1個を手に入れなければいけない、ってことか」
*
「…カミーラがやられたか」
ダルクがつぶやいた。
「大丈夫なのか。これで6個のクリスタルがあいつらの手に渡ってしまったんだぞ」
ギガスが言う。
「確かに彼らは少しずつ力をつけてきているようです。しかしあとひとつを手に入れない限り、彼らは本来の力を発揮できないはず。どんなことをしてでも私のクリスタルは彼らの手に渡させはしません」
*
「それじゃ、行くか」
「…うん」
そしてユアンが歩き出したが、フレイはしばらく立ち止まったままだった。
「…ねえ、ユアン」
「どうして、フレイ?」
「いえ、その…」
フレイはしばらく何も言えなかった。
と、ユアンはフレイの肩に手を置いた。
「気にするな。お前をすぐに助け出せなくて、あんな目に遭わせてしまったオレも悪いんだからな」
「ユアン…」
「とにかくカミーラを倒せたんだ。あと残るは1つ、紫のクリスタルだけ。ダルクを倒してさっさと手に入れようぜ」
「うん」
ようやくフレイが笑顔を見せた。
(第7話に続く)
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