・第5話
ある日の夜のこと。
「…これでいまのところ集まったのは4つか」
ユアンは自分の剣にはまっている白、青、黄色の3個のクリスタルを見る。
「そうね。あと3つどこかにあるんだけれど…」
フレイが自分の短剣の片方に嵌っている赤いクリスタルを見る。
「確か残る3個は緑、紫、ピンクだったよな。…それにしてもフレイ。お前この間から何かずっと考え事しているよな」
そう、なぜかユアンもフレイのその姿が気になっていたのだった。
「…うん。そのことなんだけれど…」
そう言うとフレイはまた黙ってしまった。
「ダルクとカミーラとか言ったっけ? あいつらが気になっているのか?」
「うん、もしかしてあの二人がクリスタルを持っているんじゃないか、って気がするのよ」
「…かもしれないな。それに関して師匠は何か言っていたのか?」
「おじいちゃまからはいろいろと小さいころから話はきいていたわ。もちろん50年前のおじいちゃまとユアンのお祖父さんのことも。前にも話した通り、その中にダルクとカミーラとギガスという3人がいたっていうけれど…」
「でも封印されて50年もそのままでいる、ってことはあるのか?」
「そこまではわからないわ。おじいちゃまたちが50年前にあったその3人と、あたしたちの目の前に現れた二人が同じなのかどうかも分からないし…」
「いずれにせよ、あの二人に対しては気を付けないといけないかもな」
*
一方その頃。
「…どうだった、あの二人は?」
「はっ、我々が思っていた以上の力を持っているようです」
「確か50年前にも同じようなヤツら――その時は男二人だったが――がおったが、もしかしたら…」
「はい、おそらく子孫ではないかと。おそらくここ最近封印の力が弱まってきていたのを感じて再び封印に乗り出したのではないか、と思うのですが」
「だとしたら気を付けなければならんな」
「…わかっております、ギガス様」
「…どう思う? あの二人」
カミーラがダルクに聞いた。
「…ああ、ギガス様の前でも言ったが、おそらくあの二人は50年前に我々の前に立ちふさがった二人の子孫であることは十中八九間違いがないだろう」
「…それにしても片方が小娘だとはね」
「いや、小娘だとはいえあのときの子孫だとしたら侮れんぞ」
「それはわかってるわよ。でも、もしあの二人がクリスタルを再び7個そろえたとしたら…」
「…それだけは何としてでも阻止しなければならないんな」
「それで、ダルク。ちょっと相談があるんだけれど」
「相談?」
「お前、それは本気なのか?」
カミーラの話を聞いたダルクは思わず叫んでしまった。
「もちろん、私は本気よ」
「おい、すでにヤツらの手には4つのクリスタルが手に入ってて、残るクリスタルは3つしかないんだぞ。そのうちの一つをむざむざとヤツらに渡すというのか?」
「大丈夫よ。最終的には私たちが7つ手に入れればいいんだから」
「それはそうだが…」
「あの二人はおそらくそういった弱点があるわ。そこをうまく突けば…」
それを聞いたダルクは少し考えると、
「…とにかく、それを試してみる価値はあるかもしれんな」
「そうと決まったら急がなきゃ。あの二人、もう次のクリスタルがある町に向かっているはずよ」
*
ユアンとフレイはある町に着くと、フレイの祖父から聞いた封印したクリスタルがある、という洞窟へと向かっていた。
「…!」
不意にフレイが立ち止まった。
「…フレイ、どうした?」
ユアンが聞く。
「い、いえ、なんでもないの」
「お前さっきからその言葉何度も言っているぞ。本当に何でもないのか?」
「大丈夫よ、本当に何でもないって」
「…それならいいんだが…」
そして二人は洞窟の前に来ると、中に入っていった。
*
物陰からそんな二人を見ていた人物がいた。
ダルクとカミーラだった。
「…どうやら入っていったようね」
「そのようだな。それじゃ後をつけるぞ」
「了解」
そしてダルクとカミーラの二人も洞窟に入っていった。
*
洞窟の中は意外と広く、二人が並んで歩いて行っても十分な幅があった。
途中で何度か怪物が二人を襲ってきたが、難なく二人は倒していく。
そしてどのくらい歩いたときであろうか、不意にフレイが立ち止った。
「どうした?」
「…なんかさっきから後ろをつけられている気がするのよ」
そういうとフレイが後ろを振り向く。
「後ろから?」
「…まずいな、あの女、オレたちが後をつけているのに気が付いたか?」
そう、フレイの予感通り、二人の後ろをダルクとカミーラがつけていたのだった。
「大丈夫よ、まだ見つかっていないわ。それに、もうすぐあそこにたどりつくんだから」
「そうだったな。だったら気を付けて後をつけなければいかんな」
そして二人はゆっくりと後をつけていく。
*
そしてさらにどのくらい進んだ時だっただろうか。
二人の目の前に二股に分かれた道があった。
「…道が二つに分かれているな」
「二手に分かれたほうがいいみたいね」
「それがいいな。オレは左の道を行ってみる」
「それじゃあたしは右ね」
「気をつけろよ」
「ユアンもね」
そして二人は二手に分かれて道を行こうとした時だった。
「…フレイ!」
ユアンが呼びかける。
「どうしたの?」
「…いや、なんでもない」
*
「思った通り二手に分かれたな」
ダルクがカミーラに話しかける。
そう、二人は物陰からユアンとフレイを見ていたのだった。
「そうね。これであの二人は離れたから少しはやりやすくなったはずよ」
「「そうだろうな」
「それじゃ、打ち合わせ通りダルクは男のほうをお願いね」
「ああ、分かった。成功を祈るぞ」
そしてダルクとカミーラも二手に分かれていった。
*
ユアンが洞窟の中を進んで行ってどのくらい過ぎただろうか。
不意にユアンの目の前に一匹の怪物が現れた。
「…出てきたか!」
ユアンはそう叫ぶと剣を構える。
そして怪物がユアンに襲い掛かってきた。
ユアンはそれを躱すと、袈裟懸けに剣を振り下ろす。
致命傷を与えるまでにはいかなかったが、怪物には相当のダメージを与えたようで、怪物が悲鳴を上げた。
そしてユアンはジャンプすると、剣を大上段から振り下ろす。
怪物が大きな悲鳴を上げて倒れる。
すると、その脇に緑のクリスタルが転がり落ちた。
ユアンはそれを拾うと、怪物に向ける。
怪物が大きく一声吠えると、クリスタルの中に吸い込まれていった。
そしてユアンはクリスタルを剣の中にはめ込むとそれまでにユアンの剣にはまっていた3個―白、青、黄色―のクリスタルが光り、それに呼応するかのように緑のクリスタルが輝いた。
「…これで5個目か…」
すると、
「ほほお、なかなかの腕前だな」
ユアンの背後で声がした。
ユアンは振り向く。と、
「お前は…」
そう、ユアンの前でダルクと名乗った男が立ちふさがっていたのだった。
*
それと同じころ。
「…行き止まりになっているわ」
フレイがあたりを見回して言う。
そう、洞窟の奥まで進んだフレイはそこが行き止まりになっていて、もう先へは進めないこと、そして周りを見回しても何もない場所であることを確かめたのだった。
「…あそこの分かれ道まで戻るか」
フレイはそうつぶやくと引き返そうとした時だった。
「…やれやれ、こんなところまで一人で来るなんてね…」
不意にフレイに目の前に一人の女が立ちふさがった。
「あ、あなたは…」
そう、以前二人の目の前に現れたカミーラだったのだ。
フレイはカミーラに立ち向かおうと短剣を構えようとすると、それよりも早く、それこそ女とは思えないようなスピードでフレイの懐深くに入った。
次の瞬間、フレイの鳩尾に大きな衝撃が走った。
「うっ…」
声を上げる間もなく、フレイが倒れる。
カミーラはフレイの手から滑り落ちた2本の短剣を拾う。
「…これがクリスタルか」
その片方に赤いクリスタルがはまっているのを見るとそれを収め、女とは思えぬ力でフレイを抱えあげ、いずこともなく去って行った。
*
「…お前、いったい何の用だ?」
ユアンがダルクに聞く。
「そのクリスタルを渡してもらおうか」
「…いやだと言ったら?」
「こうするまでよ」
そういうとダルクは腰のさやから剣を抜いた。
「面白い、やろうってのか?」
そういうとユアンは剣を構える。
二人はゆっくりと間合いをつけていく。
「てやあっ!」
ユアンがダルクに斬りかかる。
しかしダルクもユアンの刃を自分の剣で受け止める。
「なかなかできるな。これでどうだ!」
そういうとダルクはユアンに斬りかかった。
しかしユアンも巧みにダルクの剣を躱していった。
そしてユアンが剣を振り下ろすと金属と金属がぶつかる乾いた音がし、二人の剣が切り結ぶ。
そしてしばらくの間お互いがにらみ合っていたが、不意にダルクが、
「…ふっ」
不敵な笑みを浮かべると剣を鞘に収め、その場を立ち去ろうとした。
「待て、逃げるのか!」
ユアンが追いかけようとした時だった。
「…まったく、愚か者めが。私が一人でここに来ているとでも思っていたのか?」
「なんだと?」
「私はお前を引き付けておく役目なんだよ。…その間に何が起こっていると思う」
「何がって…まさか!」
そう、ユアンは「ある一つの可能性」に気が付いた。
「今日のところはここで引き上げるが、今度会う時を覚えていることだな」
そういうとダルクは走り去っていった。
「…フレイ!」
そう叫ぶとユアンは走り出していた。
「フレイ!」
ユアンは今来た道を引き返す。
そしてちょうど二人が別れた分かれ道のあたりに来た時だった。
「…フレイ、どこだ!」
ユアンが辺りを見回す。
しかしフレイの姿はどこにもなかった。
「フレイ、いたら返事をしろ!」
そう叫びながらユアンはフレイが入っていった分かれ道のほうを進んでいった。
分かれ道の先は行き止まりになっていた。
しかし、そこにもフレイの姿はなかった。
ユアンはあたりを見回す。
と、地面の中から何かがきらりと光ったように見えた。
ユアンは地面にかがみこむ。
「…これは?」
そう、フレイが使っている短剣、そしてクリスタルが嵌っていないほうだった。
「まさかフレイは…」
少なくともフレイはここまで来ていたことだけは間違いがないだろう。そしてあの時、自分をダルクにひきつけさせておいて、その間にこちらにいたカミーラがフレイを捕らえて連れて行った、そうとしか考えられない。
となると彼らは最初から二人を分断させて、戦闘力が劣るフレイに狙いを定める作戦をとっていたのだろうか?
だとしたらこんな簡単なやり方でフレイを連れ去られてしまった自分が迂闊 だったとしか言いようがない。
悔やんでも始まらないがユアンはそんな自分が腹立たしかった。
「…フレイ、どこに行ったんだ…」
(第6話に続く)
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