・第4話
街へと続く山道を歩いていたユアンとフレイの二人。
山のふもとまで来たとき、日が暮れようとしていた。
「…やれやれ、今日は野宿のようだな」
ユアンが言う。
「そうらしいわね」
そしてフレイがあたりを見回す。
「…あそこに洞穴があるわよ」
フレイが指差した先には二人が寝るのには十分なくらいの広さの洞穴があった。
「よし、焚き木とってくるからちょっと待ってろ」
「了解」
そしてユアンが焚き木をとって戻ってきた時だった。
不意にフレイのいる場所の向こうの草むらから音がした。
「フレイ、伏せろ!」
「え?」
次の瞬間ユアンがフレイの方向に剣を投げつけていた。
あわてて身を低くするフレイ。
ユアンが投げた剣はフレイの眼前を通り過ぎ、向こうの林に飛んで行った。
「何よ、ユアン。いきなり危ないじゃない!」
「あれを見てもいきなり危ないって言うのか!」
そういうユアンが指差した先には1匹の怪物が急所を刺されて倒れていた。
*
翌日。
森の中を二人が歩いていると、不意にフレイが立ち止った。
「…フレイ、どうしたの?」
「…静かにして!」
そしてフレイは目を閉じ、耳を立てる。
それから間もなく、
「来るわよ!」
その声を聞いてユアンが剣を抜くや否や、二人の前に突如3匹の怪物が現れた。
それを見たフレイも2本の短剣を腰のさやから抜き、怪物に立ち向かっていく。
二人が怪物を倒すのにそれほど時間はかからなかった。
「…それにしても…」
「ああ、2つ目のクリスタルをとって街を出てからずいぶんと途中で襲われることが多くなったな」
「まだクリスタルは4つあるというのに…。封印がだいぶ弱まってきたのかしら? それとも…」
「それとも? なんか気になることがあるのか?」
「ん? なんでもない」
*
「…その後、あの二人はどうした?」
男が女に聞いた。
「どうやら次の村に向かっているようね」
「あれから1週間か…。これまでも何度か刺客を送ってみたが、難なくあの二人は倒してきている」
「何とかイエロークリスタルを手に入れる前に倒したかったんだけれど…」
「心配するな。まだクリスタルは4つある。その4つを手に入れさせなければいいんだからな」
「そうね。それじゃ、私たちも向いましょうか」
「ああ」
*
ユアンとフレイの二人がその町についたのはその日の夕方のことだった。
町で情報を集めたところ、この町のはずれにある洞窟から最近怪物が現れるようになったという話だった。
二人はひとまず宿に落ち着き、夜を明かすことにした。
その夜のこと。
ユアンはすでにベッドに入って寝ているのに対し、フレイは机に座り、ランプの明かりだけで荷物の中から取り出したノートを読んでいた。
その中に書いてある一点でフレイの目がとまる。
「…やっぱり!」
フレイはそれに書いてあることを目で追うと、そっとノートを閉じた。
「…どうやらおじいちゃまの心配していたことが現実になりつつあるようね…」
*
翌日。
ユアンとフレイは宿を出ると、ある洞窟の前に立っていた。
「…ここか…」
「そうらしいわね。あれを見てよ」
そういうフレイの指先には何か穴のようなものがあった。
二人はその穴に近づく。
「…確かに何かはまっていたような穴だな」
「もしかしたらクリスタルかしら…」
「そうらしいな。行ってみよう」
「うん」
*
それからしばらく経ったときだった。
「…ここか」
男がユアンたちが先ほど入っていった洞窟を眺める。
「そうらしいわね」
そして二人はあたりを見回す。
「…どうだ?」
「もしかしたら」
「もう入っているというのか?」
男の問いに女は答えず、頷く。
「まずいな、急ぐぞ!」
*
「…来るぞ!」
不意にユアンが叫んだ。
その言葉を合図にしたかのように二人の前に怪物が襲い掛かってきた。
二人は剣を抜くと怪物に立ち向かっていく。
そしてユアンが一匹倒した時だった。
「…?」
不意に洞窟の奥のほうで何か咆哮が聞こえた。
「…どうしたの?」
「何かが奥のほうにいるようだ。フレイ、お前はここを頼む。オレは奥へ行く」
「わかったわ。気を付けて!」
その言葉にユアンはうなずくと、怪物を躱して奥のほうに進んでいった。
どのくらい奥に進んでいったか、
「確かこの辺だったな…」
ユアンが辺りを見回したその時だった。
不意にユアンのそばで咆哮が聞こえた。
「そこか!」
ユアンが向いた方向に一匹の怪物がいて。今にもユアンに襲い掛からんとしていた。
ユアンは怪物の攻撃をかわすと、持っていた剣で横殴りに払う。
しかし怪物は倒れない。
(…こいつ、今までのより手ごわい!)
そう感じたユアンは剣を握りなおす。
怪物が再びユアンに襲い掛かる。
次の瞬間ユアンは飛び上がると頭の上から怪物に切りかかった。
致命傷を与えるまでにはいかなかったが、怪物が大きくよろめいた。
そしてユアンは袈裟懸けに斬り込む。
怪物が大きな悲鳴を上げ倒れる。
そしてその傍らにキラッと光るものが見えた。
「…これか!」
そう、そこには黄色のクリスタルが転がっていたのだった。
ユアンは足元に転がっているクリスタルを拾うと怪物に向ける。
そしてクリスタルの中に怪物が吸い込まれていった。
ほどなく、
「ユアン、大丈夫?」
そう言いながらフレイが駆け寄ってきた。
「そっちはどうだ?」
「大丈夫、全部片づけたわ」
「そうか」
「…それで、クリスタルは?」
「大丈夫だ、ここにある」
そういうとユアンはフレイの前に黄色のクリスタルを差し出す。
「…これね」
「ああ、そのようだな」
そしてユアンはそのクリスタルを自分の剣にはめる。
すると、剣が一瞬きらりと光ったように見えた。
「これで4個だな」
「そうね、あと3個見つけないと」
その時だった。
「…しまった、一歩遅かったか」
不意に二人の近くで声がした。
「誰だ!」
ユアンが声のした方向を振り向き叫ぶと二人の男女が現れた。
ユアンはフレイを制すと一歩前に出る。
「…お前ら、いったい何者なんだ?」
「おっと、そういえばまだ名乗ってなかったわね。私はカミーラ」
「…私はダルクだ」
「カミーラ…? ダルク?」
その名前を聞いたフレイが一瞬「?」という表情をする。
「お前たち、いったい何が目的なんだ?」
「もちろん、そのクリスタルだ」
「クリスタル、だと?」
「そうよ。私たちは昔、そのクリスタルのせいでひどい目に遭っているのよ」
「ひどい目に、だと?」
「そう、それでどうしてもそのクリスタルが必要だったんだけど、まさか他に探している者たちがいたとはな」
「それじゃ、お前たちもクリスタルを探しているのか? いったい何が目的なんだ?」
「そんなのお前たちに関係のないことだ」
「関係ないことがあるか!」
そしてユアンが剣に手をかける。
「ほほお、私とやる気か」
ダルクと名乗った男も剣を取ろうとするが、カミーラと名乗った女が、
「およしなさい、ダルク。こんなところで怪我をしてもつまらないわ。今日のところは引き上げましょう」
「…そうか、わかった。今日のところは引き上げるが、また会う機会もあるだろうな」
そういうとその二人は背を向け走り去っていった。
「おい待て!」
そう言ってユアンは追いかけるがあっという間にその二人はいなくなってしまった。
「…いったいなんなんだ、あの二人は」
ユアンはつぶやく。
その傍らではフレイがじっと何か考えているような顔つきだった。
「…フレイ、どうした?」
「…ねえ、ユアン。変なこと話すようだけど、笑わないで聞いてね」
「変なこと?」
「…今から50年前、あたしのおじいちゃまとユアンのおじいさんが一緒になって怪物を封印したことあるでしょ?」
「それがどうかしたか?」
「…おじいちゃまが話してたんだけど、その時に封印した怪物の中に人間としか思えないのが3人いたんだって」
「…そういえば、オレもその話聞いたことあるぞ」
「うん。それで、いま思い出したんだけれど、確かその時の3人の名前が、ギガスとダルクとカミーラって言ったんだって」
「なんだって? だとしたら…」
「そう、あたしたちがあったあの二人も確かダルクとカミーラって言ったわよね?」
「となるとあの二人は…」
「そうとしか考えられないんだけど」
「…もしお前の考えが正しいとしたら、あともう一人ギガスってのがいるはずだな」
「うん」
「…だとしたら、奴らより先にあと3つのクリスタルを手に入れなきゃな」
(第5話に続く)
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