・第3話
「…いったいどうしたんですか?」
「…来ている…」
「来ているって…。何がですか?」
「ヤツらが来ている」
「ヤツら?」
「我々の復活を妨げようとしているヤツらが…」
「…まさか、50年前のあの時と同じじゃ」
「だとしたら…」
*
赤いクリスタルを手に入れてから3日ほどが過ぎたある日。
「…あとどのくらいだ?」
ユアンがフレイに聞く。
「うーんとね…、大丈夫。日が暮れる前には町につきそうね」
フレイが地図を広げていう。
「そうか、確か次の町にクリスタルがあるというんだろ?」
「そうらしいわね。でもおじいちゃまやこれまでの人たちの話を聞くと、次の町はまだまだこれといった大きな被害は出ていないらしいわね」
「そうか。でもまだ被害が小さいうちに手を打たなきゃいけないからな」
「そうね。とにかく残り5個のクリスタルを早く手に入れてもう一度封印をしないと封印をしないと」
*
「…この男と女だというのか?」
「…そうらしいわね」
「それにしても50年か…。随分と時間がたったな」
「それで、どうしましょうか?」
「まあ、待て。まずは彼らがどれだけの実力のものか見極めようではないか」
「しかし…」
「ここに来るまでの間はたやすいことではない。それに見た限りではまだ2つしかヤツらはクリスタルを手に入れておらん」
「それじゃあ…」
「そうだ。手に入れなければならんクリスタルはあと5つもある」
*
翌朝。
街に着いて一晩を過ごしたユアンとフレイは町のはずれにあるという洞窟を目指していた。
フレイの祖父が言うのにはその洞窟に50年前に封印した際のクリスタルが置かれてあるという。しかしその途中には森があるので十分に気をつけろ、ということだった。
そして二人は森の中を進んでいく。
「…?」
不意にフレイが後ろを振り向いた。
「どうした、フレイ?」
ユアンが聞く。
「…何かさっきから誰かがあたしたちを見ているような気がするのよ」
「気のせいじゃないのか?」
「…だといいんだけれど…」
「…あの女、なかなかのカンを持っているようだな」
そう、フレイが感じたとおり、森の中で一人の男が二人を監視していたのだった。
「…しかしだからと言ってカンがいいだけでは戦いというのは勝てないものなんだよ。この先どう戦うかな」
そして男は茂みのほうを向くと
「…行け!」
男の命令に怪物が飛び出していった。
*
不意に茂みのほうからガサガサッと音がした。
「ユアン!」
フレイが叫んだ。
ユアンが振り向くと一匹の怪物がユアンに向かって腕を振り下ろした。
ユアンはそれをかわすと、剣を抜きざま、怪物を一匹横に薙ぎ払う。
それを合図にしたかのように数匹の怪物が二人を取り囲んだ。
フレイも腰の短剣を2本抜くと臨戦態勢を整える。
そして二人は背中を合わせる。
「フレイ、気をつけろよ」
「わかってるわよ」
「よし、行くぞ!」
「OK!」
そして二人は怪物に立ち向かっていった。
二人は怪物を分担して次々と切っていった。
「やあっ!」
フレイが短剣を使って怪物を切る。
怪物が大きな声を上げて倒れる。
そちらを確認していて一瞬反応が遅れたか、フレイの背後から一匹の怪物が襲い掛かる。
「…!」
怪物がフレイに一撃を与えようとしたその時だった。
「フレイ!」
ユアンが叫ぶと怪物を袈裟懸けに切る。
「あ、ユアン。ありがとう」
「…ったく。油断するなっていつも言ってるだろう」
「そ、そうだったわね。ごめん」
そして二人は怪物を全部倒した。
*
「…なかなかやるわね」
「…うん。確かに二人で協力し合って力を発揮してるな」
「でも一人だとどうかしら?」
「ああ、この後は分かれ道だからな。一体どうするか…」
*
そしてしばらく進んだとき、道が左右に分かれている場所に行き会った。
「…どうする?」
「二手に分かれるか」
「…それがいいかもね。じゃあ、あたしは右に行くわ」
「オレは左か。いいか、あまり無理するんじゃねえぞ」
「ユアンもね」
そしてユアンとフレイは左右に分かれて歩き出した。
*
「…どうやら二手に分かれたようだな」
「そのようね。じゃあ、私は女のほうをつけるわ」
「ああ、頼むぞ」
*
フレイはしばらく道を歩いていた。
一人だけ、ということもあってか、あちらこちらを見ながら慎重に歩いている。
さっきから何者かが自分をつけている、という感覚は全くと言っていいほど消えない。
そんなフレイを一人の女が数匹の怪物を従えて監視していた。
「…よし、女を襲いな」
そして数匹の怪物が飛び出していった。
「…?」
フレイは何者かが動いたような物音を聞いた。
次の瞬間、何匹もの怪物がフレイに襲い掛かってきた。
「きゃっ!」
すんでのところで攻撃をかわすと怪物が振りおろした右腕を左の短剣で止め、懐に入り込むと右の短剣を怪物の急所に刺す。
フレイも祖父のもとで10年間ユアンとともに修業を積んだ少女である。そして身のこなしはユアンよりも素早かった。
そしてフレイは素早い身のこなしで次々と怪物を倒していく。
そしてしばらく経ち、
「…ふうっ…」
フレイは全ての怪物を倒し、額の汗をぬぐう。
そして周りを見回す。
「…どうやらあの感覚はなくなったようだけれど…」
そう、さっきから自分をつけているような「感覚」は感じなくなっていた。
「…ユアンのほうはどうかしら? なんか心配だわ」
そしてフレイは再び歩き出した。
*
一方こちらはユアン。
ユアンは道を歩いて行った。
そしてそれを見ているひとりの男がいた。
「…よし、行け!」
そして怪物がユアンに向かっていった。
不意に草むらがガサガサッ、と音を立てた。
「…?」
ユアンは立ち止まると、あたりを見回す。
次の瞬間、
「そこか!」
そう叫ぶが早いか、ユアンの剣が横殴りに払われる。
次の瞬間、断末魔の悲鳴を上げる暇もなく一匹の怪物が倒れた。
そしてユアンは後ろを振り向くと襲いかかってきた怪物を袈裟懸けに斬る。
さらに数匹が襲ってきたが次々とユアンは倒していった。
「…もういないか…」
ユアンはあたりを見回すがどうやら気配はなくなったようだ。
「さっきから何やらついてきているような気配を感じたんだが、やはり思い違いではなかったようだな」
そう、さっきからユアンも自分をつけてきている気配を感じていたのだった。
「それにしても、もしオレたちをつけていたのが一人じゃなかったとしたらフレイのヤツ、大丈夫か?」
そしてユアンは再び歩き出した。
*
フレイが森のはずれに持ちに差し掛かった時だった。
「…ユアン!」
そう、ユアンが前を歩いているのが目に見えたのだ。
「ユアン!」
そう叫ぶと、フレイはユアンのもとに駆け寄る。
ユアンもフレイに気が付くと、
「フレイ、どうだった?」
「ちょっと大変だったけどね。あたしは大丈夫だけど、ユアンは?」
「オレも大丈夫だ。それにしても、これだけ襲ってくるなんてな」
「…なんかさっきから誰かがあたしたちをつけているような気がしたんだけれど…」
「やはり気のせいではなかった、ってことか。しかもどうやら複数いそうだな」
「そうね。一人の人間じゃとてもじゃないけど、別行動をとったあたしたちを尾行するなんてこと出来そうもないし…」
「とにかく、気を付けないといけないな」
*
「…二人とも相当な腕を持っているようね」
「まずいな。このままではクリスタルを奪われてしまう」
「とにかく二人を追いかけましょう」
「ああ」
「何とか間に合えばいいけれど…」
*
そして二人は森を抜けた洞窟の前にやってきた。
「…ここか…」
「そうらしいわね。この中にクリスタルがあるようよ」
と、その時だった。
大きな唸り声をあげて二人に怪物が襲い掛かってきた。
「さっそくおいでなすったか。行くぞ、フレイ」
「わかったわ!」
そしてユアンは剣を、フレイは短剣を抜いた。
そして二人は次々と怪物を倒していくが、あとからあとから二人に襲い掛かってくる。
「ええい、いったいどのくらいいるんだ!」
そしてさらに数匹を倒した時だった。
「ユアン、あれを見て!」
不意にフレイが短剣を向けながら叫んだ。
その方向をユアンがみると、そこにはくすんだ青い色のクリスタルが転がっていたのだった。
「…どうやらクリスタルのようだな」
「あれを何とかして手に入れないと」
「よし、フレイ、ここはオレに任せてお前が行け!」
「でも…」
「いいから早く行け!」
「…わかったわ」
そしてフレイはクリスタルのもとに向かって走り出した。
そしてクリスタルが転がっている場所まで来た時、不意に2匹の怪物がフレイに向かって襲いかかってきた。
フレイは右手に持っていた短剣を片方の怪物に向かって投げつける。
フレイの投げた短剣は狙い違わず怪物の急所に突き刺さり、怪物が大きな音を立てて倒れた。
残されたもう一匹がフレイに向かって腕を振り上げる。
フレイはそれをすんでのところで躱すと、クリスタルを拾い上げ、右手に持ち替えたもう一本の短剣を突き刺すと、怪物が断末魔の悲鳴を上げて倒れた。
「…ふうっ…」
フレイは大きく息をすると怪物の体に突き刺さった2本の短剣を引き抜く。
その時だった。
「あ…」
フレイが何気なく短剣を見ると片方にはまっている赤いクリスタルが点滅を始めたのだった。
それに共鳴するかのように青いクリスタルも点滅を始めた。
そして、赤いクリスタルと同じようにクリスタルから今度は青い光の筋が出たかと思うと今倒した怪物を吸い込んでいった。
「…どうやら封印されたようね…」
*
「ユアン、大丈夫?」
フレイがユアンのもとに駆け寄る。
かなりの激闘だったからか、ユアンが肩で息をしている。
「ああ、何とか全部倒したぜ。…それよりクリスタルは?」
「大丈夫。ここにあるわ」
そしてフレイはユアンに渡す。
ユアンはクリスタルを自身の剣の中にはめ込んだ。
「あ…」
「どうしたの?」
「やはりお前の言うとおりだったな。剣が少し軽くなった気がする」
「…となると剣の力がまた少し解放された、ってこと?」
「そういうことだな。…これで3つか」
「となると残るはあと4つね」
「そうだな、早く見つけないといけないな」
*
「…間に合わなかったか…」
そう、二人がその場についた時にはすでに怪物はすべて倒され、クリスタルもなくなっていたのだった。
「これで残るはあと4つね」
「…やはり、50年前のあの時の二人の血を受け継いだ孫たちだったな。一筋縄ではいかないようだ」
「それじゃ…」
「あ。奴らが7個のクリスタルを集める前に早く手を打たねばならんな。ひとまずこの場は引き上げよう」
「わかったわ」
(第4話に続く)
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