・第2話
ユアンとフレイが村を発ってから数日が過ぎ、二人はある街についた。
「…この街か?」
ユアンがフレイに聞く。
「あ、ちょっと待ってて」
そう言うとフレイは祖父からもらった地図を広げた。
「…どうやらそうらしいわね。おじいちゃまが言うにはここには赤のクリスタルが納めてあるっていうんだけれど…」
「よし、調べてみよう」
*
しばらく大通りを歩く二人。と、
「…ねえ、ユアン」
通りを見回していたフレイがユアンに話しかけてきた。
「…なんだ?」
「なにか、変じゃない?」
「お前もそう思ったのか?」
「うん。ここは町の大通りのはずでしょ? しかも昼間だというのに人通りがあまりにも少ないわ」
そう、この街は昼間だというのにあまりにも人通りが少なかったのだ。
それにどことなく街も荒れているように思える。
「…いったい何があったのかしら?」
「…とにかく、何か理由がありそうだな。まずはどこか落ち着く場所を探して、それからこの街を調べてみよう」
「うん」
*
そして二人は大通りのはずれにある宿屋を見つけ、荷物を置くとすぐに玄関のほうに戻ってきた。
「おやじ、ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「な、なんですか、いきなり」
「この街は昼間だというのに人通りが少ないが、何か理由があるのか?」
「そ…それは、私は何も知りません」
「…嘘をつけ、何か知ってるな!」
「ちょっとユアン!」
そういうとフレイはユアンを制すると、
「おじいさん、ごめんなさい。あたしたちは怪しいものじゃないわ、それだけは信じて。あたしたち、ちょっと知りたいことがあってこの町に来たの」
「知りたいこと?」
「…あたしたち、実は6つのクリスタルを探しているの」
「クリスタル?」
「あたしとユアンは50年前に『封印』を施した戦士たちの孫なの」
「50年前、じゃと?」
「そう。おじいちゃまにその『封印』が破られかけている、ということを聞いて、あたしたち二人は昔おじいちゃまたちが『封印』を施した、という街に来て、いろいろ調べているのよ」
「…」
フレイはユアンから剣を借りると剣にはまっていたクリスタルを取り出す。
「これと同じクリスタルがあと6個あって、その中の一つがあるっておじいちゃまに言われてこの街に来たの。おじいさん、もしかしたら今この街が寂れている、っていうのは何か『封印』と関係があるんじゃない? もしあたしたちの考えが間違ってて、結局無駄足だったとしてもかまわないわ。おじいさん。何か知っていることがあったらあたしたちに話して。お願いします」
「…そうか、あの時の封印を施したヤツらの孫だったのか…」
「何か知ってるんですね?」
「実は数日前から化け物が暴れるようになったのじゃ」
「化け物?」
「うん。それで何人もの村人たちが襲われてな。みんなできる限り外出を控えておるのだよ」
「その化け物について何か知っていることはないのか?」
ユアンが聞く。
「この町のはずれに洞窟があるのじゃ」
「洞窟?」
「うん。みんなあそこに化け物がいる、と噂しておっての。実はその洞窟には今から50年前に二人の勇者が封印を施した、と伝えられているのじゃよ」
「じゃあ、その勇者というのが?」
「そうだ。君たちの祖父じゃよ。…あのころはワシもまだまだ君たちと同じくらいの歳だったが、今でもあの二人のことは覚えておるよ。あの二人も今の君たちと同じような目をしておった」
そういうと老人は何かを思い出すかのように目を宙に向ける。
「それじゃあ、その洞窟に行けばいいのね?」
「…行ってみよう」
「うん」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫、心配しなくていいさ。爺さん、恩に着るぜ」
そういうと二人は宿屋を出ていく。
*
そして町はずれの洞窟についた時だった。
洞窟の入り口は大きく穴が開いていた。
「フレイ、中に入るぞ」
「あ、ちょっと待ってて」
そう言うとフレイは蝋燭立てとろうそくを取り出して、火を点けた。
そして1本をユアンに渡し、中に入っていく。
「…これは…」
思わずその光景を見て二人は絶句してしまった。
そう、洞窟の中は荒れ放題だったのだ。
「ちょっとこの辺を探してみよう」
「それじゃ、あたしはこっちをやるからユアンはあっちをお願い」
「わかった」
そして二人は左右に分かれ、しばらくあたりを調べていると、
「…ユアン、ちょっとこっちに来て!」
フレイが叫んだ。
「何かあったか?」
そう言いながらユアンはフレイのもとに近づく。
「これを見てよ」
そしてフレイはユアンの目の前にあるものを差し出す。
「…これは…」
フレイが差し出したのはくすんだ赤色をした球体だった。
フレイは持っていた布で球体の周りをふく。
赤い球体は少しはきれいになったが、それでももとは透明であったようであることが分かった程度だった。
その時だった。
「…!」
不意に二人は何か「感覚」のようなものを感じた。
「これは…」
「ユアン、それ!」
不意にフレイが声を上げた。
ユアンもそれに気が付くと、自分の腰に下げてある剣を取り出す。
「…」
二人は声が出なかった。
そう、ユアンの件に嵌っているクリスタルがほんのりとではあるが、光を放っていたのだ。
そしてフレイの持っている赤い球体もほんのりと、しかしすぐにも消えてしまいそうなくらい弱弱しくではあるが光を放っていたのだった。
「…これは…」
「もしかしてこれがおじいちゃまの言っていたクリスタル?」
「かもしれないな。この剣のクリスタルとそれぞれ光を放っている、ということは…」
「このクリスタルはおじいちゃまの言っていた通り、封印を施した7つのクリスタルのうちの一つだったのね。でもなんでこんなに弱く…」
「…力が弱くなってきてるんだ。それで封印が破れて…」
「そうかもしれないわね。それで…」
「フレイ、ちょっと待て!」
不意にユアンが叫んだ。
「どうしたの?」
「静かにしろ!」
そのとき、ふいに雄叫びのようなものが聞こえた。
二人は叫び声が聞こえた方向を見る。
洞窟の奥のほうで再び雄叫びが聞こえた。
「フレイ、行くぞ!」
「うん!」
そしてユアンが鞘から剣を引き抜き、フレイも腰の鞘から2本の短剣を引き抜く。
*
どのくらい進んだだろうか、不意に二人の目の前に何匹もの怪物が現れた。
ユアンは袈裟懸けに次々と切っていき、フレイも2本の短剣を駆使して怪物を切っていく。
そして二人が10数匹の怪物をすべてたたき切った時だった。
「ユアン!」
不意にフレイの声が聞こえた。
二人の目の前に今までの怪物の倍以上の大きさの怪物が現れ、その腕を二人に振り下ろす。
すんでのところで二人はかわし、左右に散った。
「フレイ、オレは前から行くからお前は後ろに回り込め!」
「わかったわ!」
そしてユアンは注意を自分にそらすためか、怪物に向かっていき、剣を振り下ろす。
怪物がユアンの剣を受け止める。
そして怪物はユアンの剣を押し戻そうとする。
怪物の力はユアンの想像以上に強く、ユアンは次第に押されていく。
その時、怪物の背後に回ったフレイが怪物にとびかかると、首筋に短剣を突き立てた。
そしてフレイが怪物から離れると、怪物は大きな悲鳴を上げる。
「フレイ、よくやった。あとはオレに任せろ!」
そう言うとユアンは剣を握り直し、怪物に向かっていく。
そして袈裟懸けに怪物を切り込む。
怪物がひときわ大きな悲鳴を上げると、轟音を立ててその場に倒れこんだ。
「…ふうっ…」
ユアンが一息ついたときだった。
「ユアン!」
フレイが叫ぶ。
「どうした?」
「このクリスタルを見て!」
そしてフレイがユアンの目の前にクリスタルを差し出す。
そう、クリスタルが今までにないくらい明るく輝きと点滅を繰り返していたのだ。
「…これはどういうことなんだ?」
その時だった。
クリスタルから赤い光の筋が出たかと思うと、怪物を包み込む。
そして怪物を包み込んだ光は再びクリスタルに吸い込まれていき、そして怪物ごと消えていった。
「これは…」
「おそらく、このクリスタルはクリスタルそのものに怪物を封印する力があるのよ」
「そしてそれが7つ揃ったとき、初めて封印が完成する」
「そういえばおじいちゃまが言ってたわ。クリスタルは7つ揃って初めてその力を発揮するって」
「となるとあと5つのクリスタルがどこかにある…」
「そして同じように封印が次第に説かれて困っている人たちもいるんだわ」
「…こうしちゃいられねえな。とにかく早くの残りの5個のクリスタルがあるところにいかなければいけないな」
「うん」
*
そして次の日の朝。
宿の主人にお礼を言うと二人は次のクリスタルがある、と言われている街に向かって出発した。
その途中の道でのこと。
「フレイ、これはお前が持て」
そう言うとユアンは赤いクリスタルをフレイに投げ渡した。
「あたしが?」
投げ渡されたクリスタルを受け取りながらフレイが言う。
「オレの剣のようにお前の短剣にもクリスタルをはめる窪みがあるからな」
確かにフレイの持っている2本の短剣も一つずつクリスタルをはめる窪みがあった。
「それにクリスタルはまだ5個あるんだ」
「…わかったわ」
そう言うとフレイは赤いクリスタルを自分の短剣の窪みにはめる。
「あ…」
「どうした?」
「なんだかこの剣が少し軽くなった気がして…」
「おい、少し重くなったの間違いじゃねえのか?」
「ううん。違うの。本当に軽くなったような気がしたの。もしかしたらクリスタルをはめたことでこの短剣が本来持っている力が解放されたんじゃないか、って」
「だったらいいけどな。でも、おまえのはあと1つはめればいいけれど、オレのはあと4つはめなきゃいけないんだぜ」
そう、ユアンの持っている長剣は真ん中にはまった透明なクリスタルの両脇に2つずつ、計4つのくぼみがあるのだった。
「7つそろった時に発揮される力ってなにかしらね」
「さあな。よし、それじゃ、次の町に行くか」
「うん!」
(第3話に続く)