・プロローグ
ある日の夜のことだった。
ある一軒家のバルコニーに一人の老人が出ていた。
その老人はさっきからある一方向をじっと見つめていた。
「…」
そして、その老人は服の中から直径3センチ程の透明な水晶玉を取り出すと、手の上でそれを広げじっと見る。と、
「おじいちゃま、何やってるの?」
6~7歳くらいの寝間着姿の少女が男に話しかけてきた。
「…いや、なんでもない。フレイ、夜も遅いし、おまえはもう寝なさい」
「はあい。じゃ、お休み、おじいちゃま」
「ああ、お休み」
そう言うとフレイと呼ばれた少女は寝室に戻る。
少女が立ち去ったのを確認すると、老人は再び手の中の水晶玉をじっと見つめる。
と、その水晶玉はポッ、と弱々しい光をほんの数秒間発した。
「…この間より力が弱くなっておる…」
老人はつぶやくと水晶玉をしまった。
「そうか、もうあれから40年か。このままだとあと10年くらいしか持たぬ。その前に何とかせねば…」
そう言うと老人は夜空を見上げる。
「…なあ、そろそろいいじゃろ?」
*
ある一軒家。
「う…うん…」
「…つめよ…、なな…すを…つめよ…」
少年はあたりを見回す。
「…これは…」
そう、少年の周りを赤、青、黄色、紫、緑、ピンク、そして透明の7個の水晶玉が取り巻いていたのだ。
「…集めよ。…世界の危機が迫っている。7つのクリスタルを集めよ。さすれば、お前は巨大な悪を倒す力を得るであろう。7つのクリスタルを集めよ」
「…!」
不意に少年は目を覚ますと起きだす。
そう、少年は今の今までベッドの中で眠っていたのだった。
そして少年はあたりを見回す。
「…また、あの夢だ…」
そう、ここ数日、少年は毎晩のように同じ夢を見るのだ。
「…なんで、ここの所同じ夢を見るんだ…」
*
数日後。
少年の家に一人の老人が訪れていた。
「そうですか、もう40年になるんですか…」
テーブルで老人に向い合せで座っていた男が言う。
「そうだ。ワシとアイツの二人で封印を施してからもう40年になる。今でもあの時のことはよく覚えておるよ。おそらくアイツがいなかったらワシは命を落としていたかもしれんな。それだけの力を持っていたアイツが今も生きておったら、おそらくワシ以上の力を持っていただろうに…。惜しい男を亡くしたものだ」
そう、今を去ること40年前、老人は親友だった男と二人でこの世界を救ったことがあったのだ。そしてその日から二人は再びお互いの道を歩き出したのだが、老人の親友だった男は若くしてこの世を去ってしまっていたのだ。そして今、老人はその親友の息子だった男の家に来ていたのだった。
*
「…それで、話というのは?」
男の隣に座っていた男の妻が言う。
「まずは、これを見てほしい」
そう言うと老人は例の水晶玉を取り出した。
「…それは?」
「うむ。アイツからワシが受け取ったクリスタルだ。封印から40年経ったが、ここ数ヶ月の間、少しずつではあるが、封印の力が弱まってきている。このままだと早ければ10年程で、遅くとも12~3年後には封印が破られてしまう。その前にワシは何とかしたいのじゃ。そこで頼みなんだが、どうじゃろう、ユアンをワシに預けさせてくれぬか?」
「ユアンを…、ですか?」
女が聞き返す。
「うむ。実は最近小耳にはさんだのだが、ユアンが毎晩同じような夢を見ると言っておるそうじゃな」
「ええ。我々にもその話をしていますが…」
「おそらく、それはアイツがユアンに呼びかけておるのじゃろ。確かにアイツはユアンが生まれる前に死んでいるが、間違いなくアイツの血を受け継いでおるのだからな」
「でもあの子はまだ8歳です」
「それはわかっておる。しかしワシももう60歳を過ぎておる。今のワシではもう封印をすることは無理じゃろうし、残されている時間もわずかなのじゃ。それに、アイツが死ぬ前、ワシに『ユアンのことをくれぐれも頼む』と言っておった。ワシは、アイツに言われた通り、ユアンを立派な戦士に育て上げることが残された最後の仕事だと思っておる。頼む、ユアンをワシに預けさせてくれぬか?」
「…でもユアンが何と言うか…」
「心配はいらん。ユアンも小さいころからアイツの話をワシが聞かせておるし、自分がそう言う使命を持って生まれた、という事はきっとわかっているはずじゃ。ユアンならきっとアイツを超える戦士になれる」
その話を聞いて男はちょっと考えていたが、
「…わかりました。ユアンが生まれた時からいつかはこの日が来ると思っていました。私も父が亡くなる前にユアンのことを頼む、と言われていましたし」
「それじゃあ…」
「お願いします」
「任せておけ」
そして10年の月日が流れた。
(第1話に続く)
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